耐久適性Sランクの元盾職、無傷故サボりの烙印を押されパーティを追放されるが、辺境地で魔法職に転職したら魔法適性もSランクだったので二度目の人生を歩もうと思う

@SX48430

第1話 追放

クエスト帰りの夜のギルドの酒場にて。


「お前はクビだ。明日から来なくていいから」


目の前にいるパーティリーダーの剣士ソルドからそう言われた。


「俺が……クビ?」

「だってお前いつもサボってんだろ?」


サボりだと? いやいやそんなわけあるか。

俺はこのSランクパーティ《黄金の竜》の一員、盾職として毎日頑張って結果を残している。今回の魔国領の討伐任務だって、敵の親分モンスターの攻撃をひきつけていたじゃないか。きちんと自分のするべき仕事はしている。


「サボるわけないだろ」

「嘘つけ、じゃあその鎧は何なんだよ!!」


ソルドがこの鎧を指さす。

そしてこう続けた。


「なんっっで無傷なんだよ!! てめえタンクだろ!! ありえないだろっっ!!!」


ソルドが飲みかけのエールを机に叩きつけて怒号を上げる。他のパーティメンバーもそうだそうだと同調する。


「これは俺の防御力がレッドワイバーンの攻撃力よりも断然に上だっただけで――」

「うるさい! うるさい! おまけに息一つ上がっていないときた!! おかしいんだよ!! 敵の大技を受けて傷だらけになった鎧ってのがタンクの勲章ってやつだろ!! ボロボロになりながら気合と根性で勝つのが冒険者の美徳だろ!!」


はあ? そんな前時代の精神論みたいな思想を押し付けないでくれ。


「アンタねえ……楽してんのよ。アタシたちは武器も魔力も……それに自分の命も削りながら、帝国のために毎日危険な戦いをこなしてきてるの。それなのにアンタときたら」


サブリーダーの回復士、キュアンが人差し指で髪をクルクルさせながらぼやく。桃色のセミロングヘアーとパーティ随一の巨乳で遊び慣れているビッチ。

しかし、ヒーラーとしての実力は超一級品である。


「俺は……楽してなんかいない」


苦労しないために努力した結果だ。効率的に訓練して防御力を極めた結果がこの無傷の鎧だ。 


「今回だって親玉のレッドワイバーンのヘイトを取っていた。俺の戦いぶりを見てくれよ!」

「そんなもの見る余裕なんてありませんよね。私たちは目の前の戦いに死にものぐるいなのです。その無傷の鎧が全てを物語っています。貴方がサボっているということは明白です」


パーティ最年少の魔法使い、マギナがメガネをクイッとさせながら得意げに語る。紫色の長髪に真紅の魔眼を持つ魔法少女、パーティ随一の知能を持つロリ娘だ。


「2ヶ月くらい前にソルドに教えてもらったんだ。シルディの鎧を見ろってさ。僕ビックリしたよ。ソルドに言われるまで気づかなかった」


貴族出身で弓のスペシャリストであるアーチェも冷たい視線を向けてくる。


「最初はただの偶然だと思った。それから僕たち全員で毎日クエスト帰りに君の鎧を観察し続けたんだ……。偶然じゃなかったよ。まさか本当に手を抜かれていたなんて。正直さ、呆れた。僕はショックでならない」


3人ともそんなにも前から俺に対して不満を持っていたんだな。俺ってそんなに楽しているように見えるのか?


「俺もこれからは頑張る。だからもう少しだけ猶予を――」


みんな心にゆとりがなくなっている。魔国領に入ってから明らかに敵のレベルが上がっているし、みんなストレスが溜まっている。魔国領の攻略が安定してきたらきっと考えが変わるはずだ。


「猶予はもうとっくに過ぎている。今日までずっと我慢してきたがもう限界だ! お前を《黄金の竜》から除名する!」


ソルドが怒りに声を震わせながら言いくくる。同時に俺の中でも何かがプツンと切れる音がした。


「わかった。俺……抜けるわ」


こんなに理不尽を言われてまでこのパーティにしがみつく理由もなくなった。そもそも考えたらこのパーティとは価値観が合わなかったのかもしれない。これほどに苦労することが美徳という風潮だとは思わなかった。苦労しないために苦労するのではなく、苦労することが目的になってしまっている。


「ん」


と手の平をソルドに向けて出す。


「なんだ?」

「退職金。パーティ都合退職だろ?」

「チッ、ほらよ。どこへでも消えやがれ!」


受け取った金貨100枚をカバンに詰め込む。そして振り返ることなくパーティを去った。

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