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〇〇年前のあの日、高校生だった紫陽と中学生だったすみれは、人間の手にスマホが寄生する事態を引き起こした元凶となる、池谷という女性と会うことになった。彼女は人類の生活を豊かにするために、人間にスマホの寄生を考えていたが、結果は思わぬ事態を引き起こした。世界にスマホの寄生が広まり、その影響で死者が多数出てしまった。
彼女もまた、スマホに寄生された人間となった。そして、彼女の意識はスマホに乗っ取られてしまった。スマホの気まぐれによって、彼女の意識は紫陽たちが出会った時に存在していたが、途中で消されてしまう。その直前に託された願いとは。
スマホと人類との間の架け橋になってほしいのです。
彼女は、すでにスマホの寄生を止めることは不可能だとわかっていた。だからこそ、これ以上、スマホの寄生による死者を減らして欲しいとの思いを込めての願いだったのだろう。
『スマホの寄生を失くして欲しいというのがなくなると途端に、それか?それは我たちもメリットはあるが、難しい話だな』
話を聞いた彼女は難しいと言ったが、紫陽はそうとは思えなかった。紫陽たち兄妹にとって、スマホの寄生を止め、人間の両手がまた自由に使える未来が望ましかったが、無理だと言われてしまう。だからこそ、彼女の願いは何としてでも叶えようと決意した。
「今は、スマホと人間の思いが食い違っています。スマホに寄生された人間は片手がふさがれ、不便な生活を強いられることになり、大抵の人間はスマホごと手を切り落とす手術に踏み切る人が多い。ですがそれはあなたがたにとって、良くないことではないですか?」
『人間に切り捨てられるか、人間とともに亡くなるか。我らにとっての違いはその程度でしかない。人間の意識を変えたところで意味がないな』
「オレ達はそうは思いません」
紫陽は自分の考えを彼らに聞かせることにした。
『なるほど。その考えは一理ある。検討の余地あり、だな。お前はどう思う?』
「何度も言っているが、我に決定権はない。意見を求めるだけ無駄だ」
『同じスマホとしての考えを聞きたかったまでだ。まあいい、紫陽、とか言ったな。今言った発言を実現するためには、相当な時間と労力がかかると思うが、覚悟はできているのか』
話を聞き終えた彼女は紫陽の考えを認めてはいたが、問題は多いと感じていた。
スマホの寄生を止められないのなら、人間側の意識を変えて見せる。だから、スマホの肥大を止める努力をして欲しい。
紫陽が語ったのは、スマホの寄生を恐れて拒否するのではなく、人間自らがスマホの寄生を受け入れることだった。スマホの寄生を防ぐのが無理というのならば、それを受け入れる世間の意識改革をするしかない。そのための努力を紫陽は惜しむつもりはなかった。
「あなたたちは、オレ達人間がスマホの寄生を拒否しているがために、それを感じ取って肥大化して道連れに亡くなっているのではないですか?」
スマホだって、せっかく寄生した人間と一緒に死にたくはないだろう。しかし、人間に拒否されてしまえば、どうしようもない。だからこそ、反発して肥大化してしまったのではないか。
『なるほど、面白いことを考える。それで、それを我たちに要求するというわけか』
「お互いにとって、メリットが大きいと思いますが」
自分の考えを伝えた紫陽だが、それが簡単に実現できるとは思っていなかった。それでも、現状をよくするためにできる最善の策だと考えていた。しばらく考え込んでいた彼女だが、紫陽の考えを否定することはなかった。
『よかろう。我が肥大化についてはどうにかするとしよう』
「お、お願いします」
「ねえ、お兄ちゃんが言っている計画は、私たち自身がスマホに寄生されていないと、説得力がないと思うんだけど」
協力を得られたことに安堵する紫陽だが、妹のすみれの言葉がそれを打ち消した。確かに協力を要請する自分たちがスマホに寄生されていないのなら、人々の賛同を得るのは難しいだろう。
「紫陽たちは、我らが寄生しにくい体質を持っている。寄生するのは難しいだろう。とはいえ、我らの創造主が賛成しているのだ。我が協力してやろう」
「お前が手伝ってくれるというのか?」
『ならば、お前が協力してやれ。それと、こいつの信者がいるだろう?そいつらを使えばいい』
紫陽たちは、あやのと隼瀬たちを使い、スマホと人間の共生のために奮闘するのだった。
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