「やっと帰っていったな。本当に迷惑な奴らだ」


「ねえ、あやのさんは、この事態を予測していたの?そもそも、彼らはいったい、何の理由があって、私たちの家の前にいたのかな」


 家の前から人の気配がなると、一気に緊張がなくなり、ぐったりと疲れが身体にのしかかる。しかし、ようやく自分の今の状況を振り返る余裕も出きたのか、妹のすみれがに質問する。


「今朝のスマホの動画を見ただろう?そこで語られていたではないか。お前は見ていないのか?」


「見たよ。でも、動画の途中であやのさんが、『急いで帰らないと、二度と家に帰れない』なんて、怖いメールを送ったでしょ。だから、大慌てで家に帰ったの。それからすぐにお兄ちゃんとあやのさんが家に帰ってきて、その後はたくさんの人が家の前に集まってきて、動画の内容なんて覚えていないよ!」


「やっぱり、家の前の人だかりと今日の動画の内容は関係しているのか?」


「そういうことだ。お前も動画をすべては見ていないが、動画の最後は見たはずだ。そこからでも推測は可能だ。よく考えてみるといい。動画の内容と、自分自身の生活を比べて何か気付くことはないか?」


 幼馴染の姿をした女性が紫陽に問いかけ、彼女の問いに悩む紫陽たち兄妹を興味深そうに見つめる。紫陽は、さっさと答えを聞きたかったが、それでは自分で考えることをしない、怠惰な人間になってしまう。妹と目が合うと、同じことを考えていたらしい。もう少し自分たちで考えようという言葉が目で語られた。紫陽はそれに対して軽く頷きながら、今朝見た動画の内容を思いだすため、目を閉じる。動画の内容が頭の中で再生されていく。


『……ということで、周囲に不自然にスマホの成長が止まっている者、人格がここ最近で急に変わったように見える者、彼らは我々や人間にとって、救世主になりえる存在かもしれない。彼らを研究することで、我々スマホや人間により良い共生社会が見えてくるだろう。すでに我々と人間の科学者は提携を結び、研究を始めている。そのような人間を見かけたら、すぐに専門機関に連絡を入れて欲しい』



「オレとすみれはスマホに寄生されていない。そして、お前の本体は成長を止めたまま、ずっとあやのの右手にとどまっている。もしかして、それが理由で」


「それがどうしたの?私たちはスマホに寄生されたくないから、スマホを極力使わないようにしていた。お兄ちゃんはそもそも、スマホを持っていなかったから、寄生されなかったんでしょ」


 紫陽の答えに、彼女はよくできたとばかりに、大げさに手をたたいて答えを披露する。


「その通りだ。ちなみに、紫陽が見ていない部分もあるから補足すると、お前らはスマホに寄生されにくい遺伝子を持っているということらしい」


「そんなあいまいな理由で、俺たちは狙われているのか?」


 スマホに寄生される人間は日々増加している。紫陽のクラスメイトも日々手を包帯で巻いた生徒が増えている。つまり、スマホに寄生されて、手を切断する生徒が増えているということだ。そんな彼らが動画を見て、紫陽たちを捕まえようとしているのだろうか。


「私たち以外にも、スマホに寄生されていない人はまだまだたくさんいると思うよ。それなのに、私たちが狙われたのは」


「ピンポーン」


 ゆっくりと話している時間は終わりを告げた。いったんいなくなった思った来客がまた現れた。誰が来たのか確認するためインターホンの画面を操作すると、そこに映っていたのは、今朝、あやのと険悪な雰囲気になっていた、紫陽のクラスメイト、隼瀬だった。


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