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言葉とは裏腹に、彼女の声は平坦でそっけない。しかし、人間に興味があるようで瞳はキラキラと輝いていた。
「そんなことを言われても、オレには皆目見当がつかない。オレは、24時間、誰かとつながっていないと不安になることはない」
紫陽の質問に何を言い出すのかと思えば、若い奴が知っているという感覚だという。自分が若者であるというのは自覚しているが、あいにく、彼は今時の若者にある、24時間誰かとつながっていないと不安になるという症状に陥ったことはない。
「他人とつながっていなくて、不安にならないのか?珍しい人間もいたものだ。だが、それでも想像くらいはできるはずだ。24時間、365日ずっと、誰かとつながっている気分というのは。それが視覚だけでなく、聴覚や触覚にまで影響していると考えてくれればいい」
「ブーブー」
再度、あやのの手から離れないスマホが振動を始める。その振動は彼女に直に伝わり、彼女の身体も小刻みに振動していた。
「慣れると、別にどうってことはない。ただの生理的反応だ。われが先ほど返信した内容に、こいつの友達とやらの見舞いのメッセージが届いた」
特に隠すようなものでもないらしい。あやのにスマホを突きつけられたので、仕方なく、紫陽は画面に表示されるメッセージを読みあげていく。
『元気そうで何よりだよ』
『あやのは、その手はどうする?手術するなら、早く予約を取った方がいいかも』
『保健の原田先生がやばいんだって。今、保健室で発見されたってさ。それがなんと、スマホが先生の身長ほどに成長していたらしい。あやのも気を付けてね』
画面には、クラスメイトと思われる人々からのメッセージが映っていた。グループでのやり取りをしているらしく、グループ名が「クラスメイト」となっている。
『心配ありがとう!とりあえず、今のところ、片手が使えないのが不便なだけだから、このまま様子を見てみることにする』
届いたメッセージに返事のために口を開く。すると、言葉通りに画面にメッセージ表示されていく。そして、先ほどと同じ要領でクラスメイトに返信した。
「そういえば、我々が乗っとりやすい人間の特徴を知っているか?」
スマホに用事がなくなり、紫陽に向き直った彼女が、今度は紫陽に問いかける。
「特徴は、お前らのリーダー的存在だかが、動画で流していただろう?スマホ依存症、自分名義のスマホを所持していること。この二つを満たしている人間に触手を伸ばして寄生する。それ以外に何かあるのか?」
動画でスマホを握りしめた女性が話していたことを思い出しながら、紫陽は自分の意見を述べていく。全世界に配信されたあの動画は、彼女たちの方が詳しいはずである。乗っ取られやすい、寄生されやすい人間の特徴などそれ以外にわからない。
「統計を取り始めている人間もいるから、調べてみるといい。なかなか、面白い結果になっているぞ。それをどう見るのかは、お前次第だ。おや、そろそろ帰らねばならない時間だ。では、われ、いや私は家に帰るとしよう」
時計を確認することなく、彼女が席を立つ。慌てて紫陽が携帯電話で時刻を確認すると、だいぶ時間が過ぎていたようだ。外を見ると、日が陰り始めている。
「また明日、学校で会おう」
あやのはそのまま自宅に帰っていった。彼女が部屋から出ると、どっと疲れが身体に現れて、紫陽はベッドに横たわり、しばらく動くことができなかった。
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