5
入学式が終わり、その後の数日はあわただしく過ぎていった。慣れない授業で時間が過ぎるのはあっという間だった。
「鷹崎って、スマホを持っていないだってさ」
「ええ、まじで。じゃあ、クラスでスマホを持っていないのは、隼瀬と鷹崎の二人ってことか」
「今時、スマホを持たないなんて、ありえないよな。いくら頭がよくたって、それはないわあ」
そんなある日の昼休み、紫陽がスマホを持っていないことがクラス内に知られることになる。
相変わらず、授業中だというのに授業をほったらかしで、机の下でスマホを操作する生徒が多くいた。休み時間になり先生が教室を出たとたん、一斉にクラスメイトはスマホを机の上に出して、堂々とスマホを操作し始める。その光景を見るたびに紫陽は毎回驚いている。
クラスメイトの中には、目の下に大きなクマを作っている生徒もいた。明らかに寝不足が原因だと思われる。夜中までいったい何をしているのだろうか。徹夜で勉強していて寝不足というのはありえない。授業を見ている限り、それ以外の理由だろう。おそらくスマホが原因で間違いない。
紫陽は教室内で弁当を一人で食べていた。ここ数日で、教室内でいくつかのグループが出来上がっていた。昼休みには、数人のグループで机を寄せ合って弁当を食べる姿があちこちで見られるが、紫陽はグループに混ざることはなかった。当然のように、グループで昼食を食べている最中も、クラスメイト達はスマホを片時も離さない。
食事中、スマホを片手から離さずに、右手に箸、左手にスマホといった形でお昼を食べている。中にはお弁当を一生懸命写真に撮っている生徒もいた。それから、一緒にお昼を食べていることをアピールするためか、肩を寄せ合い、お弁当とともに数人で写真を撮っていた。
グループ内で会話はないのに、机を寄せ合って弁当を食べている様子に、紫陽はついていけなかった。
「紫陽、あんたは今度のクラス会、参加するの?」
そんなときに、あやのが声をかけてきた。一人で食べる幼馴染を哀れんで声をかけてきたのかと思ったが、そうではなく用事があって声をかけてきたらしい。
「クラス会なんて知らないけど。」
「はあ」
紫陽が素直に知らないと答えると、なぜかあやのにため息をつかれてしまったが、知らないのだから仕方がない。
「紫陽もスマホは持った方がいいと思うよ。このままクラスからつまはじきになって、孤立しても知らないからね」
「あやのは、僕の心配をしてくれているのか?」
彼女がわざわざ自分に話しかけてきた理由はそれしか思い当たらない。あやのは、紫陽に好意を寄せている。それに気づかない紫陽ではないが、彼自身に彼女に対しての好意はない。彼女は、好きな相手がクラスからつまはじきにされてしまうのを防ごうとしているのだ。
そして、紫陽がクラス会の日程を知らない理由も判明した。SNSアプリ「コネクト」を介して、クラス会の日程がクラス内に送られたというわけだ。
「別に僕はクラス会には参加しないからいいよ。もし、僕の出欠確認が必要なら『鷹崎は欠席」といれておいてくれればいいよ」
「紫陽!スマホを持たないあんたが、欠席したらどうなるのか、わかっているの!」
突然、あやのが大声を出した。さすがに今まで静かだったクラスに大声が響き渡れば、何事だとクラスがざわめきだす。周囲の反応に気付いて、慌ててあやのは声を落とす。
「ええと、その件についてはまた、夜に電話するから」
あやのはそう言うと、紫陽から離れていった。そんなことをしたら、いったい何だというのだろうか。まさか、参加しないだけでいじめの対象になるとでもいうのか。
とにかく、そのクラス会とやらの連絡が来ていないのだから行く必要もない。紫陽はあやのの話は気にせず、弁当を食べるのを再開した。その時に珍しく周囲が何か騒いでいるのが聞こえたが、無視することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます