1日常

「紫陽も高校生になったから、スマホが必要かな」


「そうね。今時の高校生は大抵持っているから、紫陽にも買ってあげなければいけないわ」


「お兄ちゃんいいなあ、私もお兄ちゃんと一緒にスマホデビューしたいな」


「僕は別にスマホはいらないよ。あれば便利だと思うけど、なかったらなかったで、特に問題なさそうだし。それに、スマホって結構高いでしょ。だったら、欲しいといっているすみれにでも買ってあげたらいい。今時、中学生でもスマホを持っている子は多いみたいだから、すみれは成績も優秀だし、ご褒美に買ってあげたらいいよ」 



鷹崎紫陽たかさきしようはこの春、高校生になった。高校生になったお祝いとして、両親はスマホを僕に買ってくれようとした。今の世の中、高校生にもなったらスマホを所持しているのが当たり前である。


 両親も自分の息子がスマホを欲しがっていると思っていたのだろう。しかし、紫陽はそれを断って、スマホを持たない高校生活を送ることに決めた。


 両親や妹にはたいそう驚かれたが、本当に欲しくないのだから仕方がない。それに、現在持っている携帯電話がまだ壊れていないのに、新しいものに変えるのはもったいない気がした。  


 中学の同級生が高校の入学祝いに買ってもらったスマホを自慢そうにひけらかしてきた。しかし、それで何をしているのかといえば、友達と一日中、SNSアプリでつながっているだけだった。話を聞いていると、本当に1日24時間ずっと、暇さえあればSNSアプリでつながっている彼らが、紫陽には理解できなかった。


 それ以外にスマホでしていることと言えば、ゲームをしているか、ネットサーフィンをしているか。紫陽には何が面白いのかわからないが、欲しいゲーム内のキャラやレアアイテムを手に入れるために、わざわざお金をかけるそうだ。課金というらしい。


 高校生なのだから、バイトができるとはいえ、稼げる額は限られている。それなのに、その貴重なお金を架空のキャラやアイテムにお金をかけることもあるらしい。


 確かに連絡を取る手段として、スマホは必要かもしれない。今時はいろいろな料金の支払いや電車の乗り降りにもスマホを使うことも多くなっている。外出先でも地図や店の情報をすぐに調べることができる。大変便利な機械であることは紫陽も理解していた。



「紫陽がいらないというのなら、無理にスマホは買わないけど、本当に要らないんだね?」


「欲しくなったら、いつでも言いなさいよ」


「大丈夫だよ。携帯電話もあるから連絡は取れるでしょ。調べ物は家にあるパソコンを使えばいいし、スマホがなくても特不便を感じないよ」


 両親の方が、自分の息子にスマホを持たせたがっているように見えた。それを紫陽は断り、妹にスマホを買い与えて欲しいということを強く訴えた。その結果、二つ下の妹のすみれは、両親にスマホを買ってもらえたのだった。


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