第39話 結婚式

パチパチと拍手が辺りに響く。


教会にいるのはそう対した人数ではないのでその拍手もやや小さく感じるが、その拍手をする人間は皆、遥とルナの結婚を心から祝福していることがわかった。


「おめでとう遥!ルナさん!幸せにな」


遥の友人であるロバートはそう嬉しそうに言った。


「おめでとうございます。ルナさん凄く綺麗です。遥さんとお幸せに」


マイヤもどこか感動したように二人に拍手を送る。


「お嬢様……本当におめでとうございます」


いつも毅然としている侍女のマリアも今日ばかりは涙を隠さずに嬉しそうにそう言った。


「うう……おめでとうございます……お嬢様素敵ですぅ……」


嬉し泣きを再現しているのはルナの侍女であるサラス。


彼女も心からルナの幸せを祝っていた。


『おめでとう。本当にめでたいね』


わざわざ人間の姿をしてまで来てくれたドラゴンのクロも微笑ましそうに言った。


そんな回りの人からの祝福にどこかこそばゆく感じながらそれらにお礼を言って皆の前に出る遥とルナ。


「皆、ありがとう。これからも俺達夫婦と仲良くしてくれると嬉しい」


そう遥が言うと隣にいるルナもそれに照れつつも言った。


「その……夫の遥ともどもよろしくお願いします……」


夫という言葉にルナは照れ照れだったが、それでも遥のことをナチュラルに『夫』と言えたのはまさに二人が心から結ばれた証なのだろう。


『きゅー!』

「おっと……こはくも、ありがとうな」


気を使ってマリアとサラスの元にいたドラゴンのこはくも、雰囲気的にそろそろ大丈夫だと思ったのかルナと遥の元に飛んできた。


そんなこはくを二人で優しく抱き締めてから遥は改めて祝福してくれる皆を見てから言った。


「本当に今日は来てくれてありがとう。じゃあ、最後に……ルナ。そのブーケを投げて」

「投げるって……これを?」


ルナの手元には先ほど渡された小さいブーケがあり不思議そうに首を傾げるルナに遥は簡単に説明した。


「これはとある地方の伝統的なことでね。新婦である花嫁が来賓に幸せをわけるという意味で小さい花束を投げることになってるんだよ。わりと言われてるのは未婚の女性がそれを受けとると次に結婚しやすくなるっていうことなんだけど……せっかくだしやろう」

「遥がそう言うなら……」


不思議そうにしつつもルナはその言葉に目一杯の力でブーケを空高く上げて――狙ったのかはわからないが、それは偶然にもマイヤの手元に引き込まれるように落ちていった。


「えっと……私ですか?」


不思議そうに受け取ったブーケを見つめるマイヤに遥は苦笑気味に言った。


「これで俺達の幸せをお裾分けしたから、次はマイヤがロバートと幸せに結婚するだろうね」

「そうなのですか?」


隣のロバートにチラリと視線を向けたマイヤ。ロバートはその視線を受けて少しだじろぎながらもポツリと言った。


「その……まあ、兄上達が結婚式あげたらすぐにやるつもりだけど……」

「そうですか……ふふ。わかりました」


仲睦まじそうな雰囲気の二人をほっこりと見守ってからやがて結婚式は終盤へと差し掛かっていた。


遥がこの日のために用意した異世界式の豪華な宴会料理を皆で美味しそうに食べて、ウェディングケーキを二人で、『はじめての共同作業』としてやったりと、賑やかに時間は過ぎていく。


『遥、ルナ。改めておめでとう』


そんな中で、賑やかに会食をしていると、ドラゴンのクロが他の参加者が一通り挨拶をし終えてからひっそりと近づいてきて二人を祝った。


「クロ。ありがとう」

『なに、友人として当然のことだよ。それにしても……シロのタマゴは無事に還ったのだな』


クロの視線は遥の膝の上に陣取るこはくに向けられていた。そんなクロの視線を受けてこはくは不思議そうに首を傾げた。


『きゅー?』

『ふむ……なるほど。懐かしいシロの魔力だな』

「ああ。名前はこはくにした」

『こはく……か。なるほど、いい名前じゃないか』


そう言って膝の上のこはくに手を伸ばすクロだが、そのクロの手が近づくと、こはくは少し警戒したように『きゅー……!』と鳴いた。


『はは、やはり、私だとダメか』

「こはく、どうしたの?」


いつもの大人しいこはくからは想像できない程に警戒したようにクロを威嚇するこはくを不思議そうに見つめるルナだったが、遥とクロはそれを見て苦笑していた。


『やはりシロの子供だな。私に対してここまで警戒した様子を見ているとシロを思い出すよ』

「そういえば、クロはシロからかなり嫌われていたしな」

「そうなの?」


不思議そうに首を傾げるルナに遥はこはくを撫でて言った。


「二人は本当に相性が悪くてね。真面目なシロと、どこか飄々としたクロは結構いつも喧嘩ばかりしてたよ」

『どちらかと言えば、私が彼女に嫌われていただけだがね』


懐かしそうに語る二人。


その様子を見て、自分の知らない遥の話に少し嫉妬に近いような感情を抱くルナだが……そんなルナの気持ちを察したかのように遥はルナの肩に手を回すと言った。


「機会があればルナには色々話すよ。それに……ルナしか知らないことの方が多いからそこまで気にしなくてもいいよ」

「べ、別に私は……」


視線を反らすルナ。


いつもならそこで遥の追撃を許すところだが、なんとなく結婚式の雰囲気からか、素直に頷いて言った。


「……約束だからね。私は、その……遥のこと全部知りたいから……だから、その……あの……」

「……ああ。ルナには隠し事はしないよ。約束する」

「……うん」


そこで恥ずかしそうに微笑むルナに遥は一瞬我を忘れて襲い掛かりそうになるが、強靭な精神力で耐えた。


それほどにウェディングドレスを着たルナの照れたような笑みが魅力的だったということなのだが、そんな二人を孫を見守るように優しくクロが見守っていたのだった。






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