第38話 永遠の誓いの指輪
ジューン・ブライド――直訳で6月の花嫁の意味があるそれは、欧米では古くから6月に結婚すると生涯幸せな結婚生活が送れるという言い伝えがあるそうだ。
ギリシャ神話がベースらしいが……実はこの世界の暦上では本日はだいたい6月1日にあたる日になる。
そんなジンクスをルナは当然知るわけもないが、遥が以前から決めていたことではあった。
ただのジンクスと言われればそれまでかもしれないが……せっかくなら自分の知識上で出来る最高の結婚式をあげたいと思ったからだ。
「じゃあ……準備はいい?」
隣で遥の腕に抱きつくルナに遥はそう聞くとルナはこくりと頷いた。
「大丈夫。遥と一緒なら」
「そうだね。俺もルナとならなんでも出来る気がするよ」
そう微笑んでから遥は目の前……扉の前で待機していた二人の侍女に開けていいという合図を送ると二人は頷いて静かに扉をあけた。
すでに日が沈み辺りには月光が照らされている時間の教会には頼りない蝋燭の光がわずかにポツリとポツリと照らされており、そこには遥の友人であるロバートやマイヤ……ルナの知ってる人ではあとは龍種のクロも人間の姿をしていた。
その他にも遥の知り合いらしき人が何人かいるが、ルナにはわからないし、別によかった。
隣の愛しい人がいればそれだけでよかった。
ちなみに気をきかせたのかこはくは侍女のマリアの肩の上にいたが……ルナはその気遣いに感謝しつつ遥に強く抱きついた。
どんな魔法なのか月の光がステンドグラスを通して綺麗に道を照らしており、辺りは自然と神秘的な光景になっていた。そんな道を二人で腕を組んで歩く。
「遥……」
「なんだいルナ」
ゆっくりとルナの歩調にあわせて歩く遥に……ルナは優しくもう一度名前を呼んで言った。
「名前を呼ぶだけなのにこんなに嬉しいなんて思わなかった。遥が答えてくれるってわかるのが凄く嬉しいの」
「ルナ……」
「だからね、私……遥の側にずっといたいって思っちゃうんだけど……ダメかな?」
その言葉に不意討ち気味に言われたことに遥は少し驚いたような表情を浮かべてから……笑顔で言った。
「それは俺の台詞だと思ったんだけど……先に言われちゃったか」
「だって、いつも遥にばっかり先に言われちゃうんだもん。今日くらいは私から言いたかったの」
そう言って少し恥ずかしそうな表情を浮かべるルナに……遥は回りには聞こえないくらい小さい声で囁いた。
「俺の隣は永遠にルナの特等席だよ。それをこの後誓うから」
「……うん」
やがて二人は祭壇の前についた。
そこには一人神父が立っており、二人の姿をとらえると一通り口上を述べてから、二人に問いかけた。
「新郎、時雨遥。健やかなる時も病める時も生涯ルナを愛して一生を添い遂げると誓えますか?」
「誓えます」
全くためらいなく即答する遥。
そんな遥を見てから神父はルナに視線を向けた。
「新婦、ルナ。健やかなる時も病める時も生涯、時雨遥を愛して一生を添い遂げることを誓えますか?」
「……誓います」
普段のルナからは想像も出来ないほどにはっきりとした宣言。
それを聞いてから神父は微笑んで言った。
「それでは指輪の交換を……」
「その前に。少しすまない」
「遥……?」
神父の言葉を遮った遥を不思議そうに見つめるルナ。そんなルナに遥は懐から小箱を取り出すとそれをルナの方に見えるように開けた。
「えっと、この指輪は……?」
見ればそれは二つの対になるデザインの指輪で、美しくどこか儚げなそれを見せて遥は言った。
「これは俺が作った特別性の結婚指輪。ルナを守れるように少しだけ護身用の力も備えてて……あと、これを着けてて異性に触れたら直ぐに相手に伝わるように出来てる。そしてこの指輪は絶対に壊れないし傷つかない仕様になってる。俺たちの愛と同じようにね」
「それって……」
まさに永遠を誓うような能力を持っている指輪。それを見せて遥は真剣な表情で言った。
「この指輪をつけたら後戻りは出来ない。だから最後に確認させて欲しいんだ。ルナは俺と……生涯共にいることを誓ってくれるかどうかを」
その問いかけにルナは考えるまでもないという表情を浮かべてから言った。
「……さっき誓った通りだよ。私は遥の隣にずっといる。遥が私を嫌いになってもずっと側にいる。だから……お願い遥……私にそれをつけて」
「ルナ……わかった」
遥はゆっくりと片方の指輪を持つとそれをルナの左手の薬指にそっとはめた。
ルナの綺麗な指にばっちり合うように作られていたそれは、ルナの指にしっかりと存在感を持って馴染んだ。
キラリと光るそれを眩しそうに見ていると今度はルナがもう片方の指輪を持って遥を見つめて言った。
「私からも最後に確認。遥は私と生涯を共に生きてくれる?私を……死ぬまで愛してくれる?」
その問いかけに遥はまったく迷いのない瞳でルナを見つめてから……いつもの優しい笑みを浮かべて言った。
「絶対にルナから離れないと誓うよ。ルナの手を掴んで離さないと誓う。ルナを永遠に愛すると誓うよ。だから……俺にもその指輪をつけてくれ」
「うん……ありがとう。遥」
そう言ってルナは遥の左手を取ると、そっと薬指に指輪をはめた。
ルナの指輪と対になるそれは遥の指につくと目映い光を発してから……二人を祝福するように指輪同士が共鳴してから光の赤い糸を二人の間に繋いでから――熔けて消えた。
自然とそれが誓いの証だとわかるとルナは嬉しそうに微笑んで……そんなルナと共に遥も笑顔を浮かべた。
そんな二人の空気に微笑ましげに見守っていた神父は最後の仕事とばかりに言った。
「ここに永遠の誓いはなされた。では、最後に誓いの口づけを……」
そう言われてから二人は視線を交わらせてから、どちらからともなく互いの唇を相手に近づけると、そっと――キスをした。
儀式的な形式的なキスではなく、互いの存在を相手に刻み込むかのような深いキス。
自身を相手に刻み込むようなそれは、まさに誓いと呼ぶのに相応しく、そして……愛情に満ち溢れた素敵なものであった。
ステンドグラスからの月明かりがその二人を祝福するように鮮やかに反射した。
その光景は幻想的で……どこまでも美しく、見てる人間の心に残るようなそんな光景だった。
ある者はその光景に息を飲んで、ある者はその光景をうっとりと見つめており、またある者はその光景に心から涙を流した。
そんな見ている人間の心まで揺さぶる光景の根源たる二人には回りのことなどはまったく写っておらず、どこまでも二人だけの世界で互いの存在を感じていた。
そして――ここに正式に遥とルナの結婚が成立したのだった。
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