第34話 夫婦の時間

「寝ちゃったね……」


一通り食べてお腹が膨れたからか、こはくは遥の膝の上で丸まって寝息をたてていた。


すやすやと眠るこはくを見てから遥はルナに手招きをして言った。


「ルナ。隣に来てくれる?」

「いいけど……何?」


不思議そうな表情をしながらもルナは言われた通り遥の隣に来たので遥はルナの手をひいて隣に座らせてから笑顔で言った。


「夕食食べようか」

「それはいいけど……何で隣に?」

「え?だって食べさせてもらうのに不便でしょ?」


当たり前のようにそう言う遥。


そんな遥にルナは目をぱちくりさせてからきょとんと首を傾げた。


「えっと、それって……」

「見ての通り俺は膝の上を占領されていて自由に動けない。そこでルナから食べさせてもらおうと思ったんだけど……ダメ?」


そんな風に言われると拒めないルナは少し恥ずかしそうに頷いた。


そんなルナの返事に内心でガッツポーズをとってから、遥は口を開いて待機した。


「じゃあ、はい……あーん」


膝の上で眠るこはくを起こさないように器用にルナの方に顔を向けて待機する遥に、ルナは少し恥ずかしそうにしながらも、前と同じようになんとか箸で肉じゃがを取ると遥の口へと運んだ。


「あ、あーん……」

「はむ……うん、美味しいよ。ありがとうルナ」


実に嬉しそうな表情でそう感謝されるとルナとしても嬉しくなるが……やはり何度やってもこの「あーん」というのは恥ずかしいという気持ちが強いルナだった。


まあ、とはいっても嫌なわけではないことは遥もお見通しなので少し恥ずかしがるルナが見れるのと、このお約束の「あーん」というシチュエーションが楽しくて仕方ないので、このシチュエーションを合法的にできるようにしてくれた膝の上に座るこはくに感謝を抱きつつ美味しくいただく。


「そ、それにしても……本当に凄く遥になついてるね」


恥ずかしさを誤魔化すためか、話題を遥の膝の上で眠るこはくに変えるルナ。そんなルナの思惑を愛しく思いつつ遥は言った。


「まあ、俺の魔力を少なからず受け継いでるから俺の近くは安心するんだろうね。とはいえ、多分ルナにもかなりなつくと思うよ」

「そうかな……」


少し表情を暗くするルナ。そんなルナの様子に首を傾げてから、遥はもしかしたらと至った結論を口にした。


「ひょっとして……少しヤキモチ妬いてる?」

「そ、そんなことは……」


否定しようとするルナだが、遥と視線があうとルナは少しその瞳を見てから視線を反らして言った。


「……少しだけ……少しだけだよ?その……こはくは遥の魔力も受け継いでるって言ったでしょ?」

「そうだね」

「ていうことは、その……シロさんと遥の魔力を受け継いでるってことになるから、その……私だけのけ者というか……こはくは遥とシロさんの子供なんだと思ったら少しだけ胸が痛くなって――」


と、最後まで言い切る前にルナは遥に抱き寄せられていた。


「は、遥……?」


驚いたように、でも抱き寄せられたことは嬉しいので戸惑ったような声を出すルナに遥は言った。


「ごめんね。ルナ。俺の説明不足でそんな気持ちにさせて」

「あ、あの……大丈夫だから、その……」

「大丈夫なわけないよ。ルナに少しでも寂しい気持ちをさせたことは事実なんだし。だから一応安心させることを言うなら――確かに俺の魔力とシロの魔力を受け継いではいるけど、ほとんどシロの魔力がベースだから俺の魔力はおまけみたいなものなんだよ。それこそごくわずかな分だけ」

「そ、そうなんだ……」


少し安心したように息を吐くルナに遥は申し訳ない気持ちを込めて優しく、でも力強く抱き寄せて言った。


「こはくはシロの子供だけど……育ての親は俺とルナだから俺達夫婦の子供だよ。それに、俺はルナ以外と子供を作るつもりはないからそこは信じて欲しい」

「だ、大丈夫……信じてるから……」


先ほど感じた胸の痛みが吹き飛んだ変わりに今度は遥からの猛烈な愛の嵐にたじたじになるルナ。


決して嫌ではないが、なんとなくこそばゆく、恥ずかしい気持ちになるルナに遥は足りないとばかりに言葉を続ける。


「俺はルナ以外の女性を愛することはできないからそこは信じて欲しい。まあ、言葉だけだと信じられないっていうなら……これから行動で示すしかないけど……どう?」

「えっと……それって……」


その言葉の意味をこの後イチャイチャすることだととらえたルナは少しばかりの抵抗のように言った。


「で、でも……その、こはくが寝てるし……」

「起こさないように布団に移すから大丈夫だよ」

「で、でもでも……ご飯が……」

「後でも大丈夫。ルナのご飯はいつ食べても美味しいから」

「あ、あとは……」

「ルナ……」


尚もなんとか抵抗しようとするルナに優しく囁いてから遥は言った。


「寂しい思いなんてさせないくらいにルナには俺の愛情をダイレクトに与えるから……覚悟していてね」

「はぅ……」


優しく微笑んでそう言われたら抵抗などできるわけもなく……このあとめちゃくちゃイチャイチャラブラブしたのは言うまでもないだろう。






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