第31話 微睡み
「すぅ……すぅ……」
目覚めると目の前には安らかに眠る遥の姿があり、ルナはそれを見て頬を緩めた。
いつもならルナよりも早く目を覚ますはずの遥がどこか安心したようにルナの前で眠る姿を見ると嬉しい気持ちと愛しい気持ちが沸き上がり思わずルナは寝てる遥の顔にそっと触れて――笑みを浮かべた。
(昨日のこと……夢じゃないんだよね)
思い出すのは昨日の遥の少し弱ったような表情。
今までルナの前では優しい微笑みを浮かべていた遥が初めて見せた表情にルナの胸は締め付けられるように痛くなった。
遥はきっと今まで誰にも自分の弱いところを見せないように生きてきたのだろう。
そんな遥が初めてルナの前で見せた弱った様子にルナは心底遥のことを守りたいと思った。
もちろんルナは遥を守ることはできないかもしれないが……心の支えくらいにはなりたいと思った。
(遥は一人で全部を背負うのに慣れすぎてる)
そうと思えるくらいに遥は全てを一人で背負ってしまうことがこれまでのことでルナはわかっていた。
悲しいことも隠して傷ついてることを隠して前に進んでいく姿にルナの心は激しく痛んだ。
(私が……私だけは遥の味方でいないと……)
ルナに出来ることは少ない。それでも遥がルナを守ると言ってくれたことで――ルナも遥のことを絶対に守りたいと思った。
世界中が遥の敵になるならルナだけは遥の味方でいたいと思った。きっと遥はそんなことになればルナを守るためにそのことを隠して何事もないように笑っているだろうが……そんな遥の心を理解して寄り添うことが出来るようになりたいと思った。
(まだ足りないところばかりだけど……私も遥のお嫁さんなんだ)
少し恥ずかしく思いつつもそのことを改めて確認してルナは決意を固める。
夫を支えるのが妻の役目……遥の妻である自分に出来ることをもっと増やして――もっと遥のことを知りたいと思った。
ルナが知ってる遥のことはまだまだ少ない。
だからこそこれからの時間は遥の全てを知って……全てを愛するようにしたいと思った。
「遥……」
そう思ってからルナは安らかに寝ている遥の顔を抱き寄せて、そっと優しく抱き締めた。
遥が痛くないように苦しくないように優しく――だけど、しっかりと離さないように抱き締めた。
(えっと、これは一体……)
目が覚めると柔らかい感触があり思わず遥は内心で首を傾げてしまうが、すぐにその柔らかな感触が覚えのあるルナの身体の柔らかさだと気づいてからさらに首を傾げた。
(なんでこんな素晴らしい状況なのかまったくわからないけど……ルナは本当に柔らかくて気持ちいいな……)
昨日の夜は思わずルナの前でカッコ悪いところを見せてしまったと少し反省している遥だが、この柔らかく気持ちいい感触の前ではそれも悪くないと思えた。
(そういえば、こうして誰かに本音をもらしたのはいつ以来だろう……)
思い出せる限りでこの世界にくる前でもあまりなかったこと。
心の内の弱い部分を見せたの事態がもしかしたら初めてかもしれないと思うと心底ルナの凄さがわかった。
(情けない男だって軽蔑されたらどうしようと思ったけど……)
もちろんルナがそんなことで遥のことを嫌いになることはないだろうと思ってはいたが、それでもなんとなくルナの前では格好いい自分でありたかったのでそんな不安を抱いてしまう。
昨日のルナが見せた母性的な部分に不思議な安心感を抱いてしまったことも遥が思わず言葉を口にしてしまった原因の一つなのだろうが……
(こんな素敵な状況があるならそれも悪くないかな……)
ルナからこんなスキンシップがあるならそれも悪くないと、なんとなく思ってしまう遥はやはり心底ルナのことが大好きなのだろう。
(とりあえず、あと5分はこのままゆったりしたいな)
今朝もやることはあるが……それでもこの心地よさの前では何もかもが無意味に思えてしまい遥は再び微睡みに入ろうと――
「うぅん……はるか……すきぃ……」
――したが、そんな寝言に思わず抱き締めたくなるのを抑えるのが大変だった。
昨日の夜からのここまで大胆なルナの姿に戸惑いつつもそんなこと気にならないくらいに遥はこの現状が幸せ過ぎた。
「俺も好きだよ……」
届くかわからなかったが、遥はそう返していた。
本当なら今すぐ抱き締めてキスの嵐をくらわせたいぐらいの気持ちだったが、ルナのこの柔らかさを手放すのは惜しいと思いそう返すだけにした遥の理性はなかなかに強いと言えるだろう。
そんな朝の一時……互いに距離が近くなったことを感じつつも幸せな朝の一時を過ごしてその日も1日穏やかに過ぎていったのだった。
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