*第十五話:裏話・破滅の咆哮


 ススム君から連絡が来たら何時でも出発できるように、駐車場で車に乗ったまま待機していたあたし達の無線に、救援要請の通信コールが入った。

 昼間のバタバタや、その後の長時間の活動による疲労でウトウトしていた愛子の代わりに、あたしがマイクを取る。


「こちら浅川チーム。ススム君?」

『あ、繋がった! 広瀬運搬チームの通信担当、藍澤ですっ。大木さんに助けられて、今中央駅から二つ隣の駅前ターミナルに居ますっ』


 どうやら連れ去られた運搬チームのメンバーだったらしい。本当に一人で救出しちゃうとは……。


「愛子、本部に報告お願い!」

「分かりました」


「小丹枝君、場所は分かる?」

「問題無い。10分で到着できる」


 愛子が本部に状況報告とあたし達チームが救援に行く許可を取っている間、あたしは後部座席で寝ている古山君と岩倉君を起こして武装させる。


「報告済みました、私達の出動も許可するそうです」

「オーケー、それじゃ急いで迎えに行きましょ」


 無線で直ぐ迎えに行く旨を伝える。


『お願いしますっ!』


 元気な声で応える彼女の様子に、幾分気持ちが軽くなる。これで避難所の幹部達も、ススム君に対する評価を改めるはずだ。


 小丹枝君が車を発進させる。運転席のパネルを見て充電は十分である事を確かめ、ふと、愛子が抱えている無線機に目をやり、通信モードの信号表示に「あれ?」と小首を傾げた。


「これ、通常回線よね?」

「え? あ、本当です」


 愛子も言われて気付いたみたい。簡易無線機からの通信を受信した時、登録してあるチャンネルに自動で切り換わったらしい。

 ススム君に渡した時は、専用回線のチャンネルに設定してたハズなんだけど……


「さっきの通信も、傍受されている恐れがある」


 ハンドルを握る小丹枝君が、そう言って少しアクセルを深めた。とにかく急いで二人を回収に行こうと意見を一致させたその時、無線機から突然の雑音が響いた。

 ガツン、カラカラカラ――という、プラスチックが堅い物に当たって転がるような音。無線機を落っことした?

 スイッチが入ったままになった無線機から、「ユキちゃん」という名を叫ぶススム君の声。


「どうしたの? ススム君!」

『血が――どうしたら良いんですか! 処置の仕方をっ』


「落ち着いて、何があったの」

『ユキちゃんが撃たれて――首に矢が……出血が』


 かなり取り乱している様子のススム君を宥めつつ、マイクを小丹枝君の口元に近付けて指示を仰ぐ。小丹枝君は、途切れ途切れの通信内容から状況を推察して、適切な指示を出した。


「矢はそのままに、下手に抜くと危険だ。安静にして病院に運べば、何とかなる」

『でも、矢に不死病の毒が――』


 ススム君の声の後ろから、A.N.Tらしき集団の声が聞こえる。


『おいー、女には当てるなって言ったろう』

『こいつが避けたからですよー』


「っ!?」


 かなり近い! もう直ぐ後ろに居るみたいな距離感だった。


「ススム君っ、直ぐそこから逃げて!」

『ユキちゃんが……なんで、コンナ……チガウ……コレハ、ソウジャナイ』


 無線機の調子がおかしいのか、音が被る様な声が響く。あたしは、その声にゾクリとした。


「ススム君!? ススム君返事して!」


 無線機越しに響いて来る、獣のような咆哮と、A.N.T達の騒ぐ声。そしておぞましい断末魔。


『な、何だこいつは!』

『化け物だ!』


『撃て! 殺せ!』

『た、たすけ――ぐげぇ』


『ぎゃあああ!』

『逃げろっ』


 何? これは……何が起きてるの? 強張った表情の愛子と目が合い、分からないと首を振られる。古山君や岩倉君も、無線機から響いて来る異常な様子に固まっている。


 そこでふと、あたしは今日の会議の席で石川さんから聞いた、ススム君に纏わる話を思い出す。中洲地区の病院で起きたという出来事。


(まさか……)


 あたしは、とにかく現場に急ぐ事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る