ツクモの考察と真相は藪の中

 To ツクモ


 妹と友人に、背表紙が塗り潰された本の話をすると、二人とも、面白い推理をしてくれました。


 どんな推理だったのか、ツクモさんにも、伝えたいと思います。

 ……


 *


 To ナミ


 ありがとうございます。二つとも面白い推理ですね。妹さんの推理は、数年前に見たドラマを思い出します。うっかり、集合体恐怖症トライポフォビアで検索してしまいました。とても怖いですね。ナミさんが検索するときは、注意してください。この忠告は遅いかもしれませんけど。


 私も背表紙が塗り潰された本について考えてみました。


 なぜ、本の背表紙を塗り潰したのか。妹さんの推理をお借りしますが、客に間違って購入されないためだと思います。


 そして、誰が背表紙を塗り潰した本を用意したのか。友人さんは店員犯人説を唱えていましたね。店員が、背表紙を塗り潰した本を用意したのでしょう。


 私は考えました。なぜ、背表紙が塗り潰されていたのか、それも丁寧な長方形に。二人の推理では、そこが説明されていませんでしたね。きっと、犯人は、その本に愛着があったのだと思います。


 犯人、つまり書店員ですが、彼は、その本の著者なのです。自分で書いた本を小説にして、文庫本コーナーに紛れ込ませた。理由は当然、立ち読みでもいいから、誰かに読んでほしかった、といったところでしょうか?


 ナミさんが、本を手に取ろうとして、店員はドキドキしたに違いありません。ナミさんは、その時の視線を監視カメラと言っていましたが、やはり、店員の視線でしょう。自分の小説を読んでもらう。プロでもアマチュアでも、喜びと緊張が入り混じる瞬間です。


 もしかしたら、自分の本を読んでくれているのは、どんな人だろう、なんて思っていたのかもしれませんね。


 これは私の完全な想像ですが、彼の小説は未完成だったのだと思います。背表紙に少し落書きするにしても、背表紙全体を塗り潰す必要は無かった。彼は題名が思い付かなかった。自分の名前を書くのが恥ずかしかった。そんな思いから、背表紙全体を塗り潰すということになった。題名や著者が書かれていない背表紙は不自然ですからね。


 ナミさんは、どう思われますか?

 今度、その書店に訪れるとき、まだ、背表紙が塗り潰された本があれば、少し手にとってみるといいかもしれません。その時は店員さんに感想を伝えてあげてくださいね。


 *

 

 稲荷狐子いなりきつねこは、ナミへのDMを書き終えて、ノートパソコンを閉じた。自分で書いた推理だが、嘲笑ってしまう。店員が犯人だって? それはあり得ない。


 なぜなら、その店員は稲荷狐子だからだ。WEBで書いていた小説『狐憑き探偵、狐狗狸』が編集者に評価され、出版、シリーズ化まで進んだが、シリーズの売れ行きは、お世辞にも良いとは言えない。文筆家だけでは生計は立てられそうにない。


 そもそも『狐憑き探偵シリーズ』は、読者にウケるように書いたところがある。それでも自分が書いたものだ。褒めてもらえば嬉しいし、シリーズを辞めるつもりもない。だが、方向性を変えた別の小説を書き始めたいというのも事実だった。


 ナミとのやり取りに、狐子は少からず影響を受けた。彼女はミステリ愛好家らしく、謎とその推理をメッセージで伝えてくれる。


 まあ、今回のような謎では、本当に些細過ぎて読者の興味を惹けないだろうし、推理というよりは妄想ばかり、しかも真相は闇の中で藪の中だ。


 こんなミステリじゃあ、読者は納得しないだろうな──

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