第109話 束の間の休息
■中央ゴレムス暦1583年7月23日
アウレア おっさん
おっさんはタンシンで和平交渉の詳細を詰めた後、僅かばかりの兵を伴ってアウレア大公国へと帰還した。
早速、ホーネットへの謁見を手配してもらいアウレアの館で休んでいると、呼び出しがかかった。ホーネットから嫌われていると思っていたおっさんは意外な速さに少し驚いていた。
すぐに支度してアウレアス城へと向かう。
通されたのは謁見の間であった。
ホーネットが現れるまでの間、背筋を伸ばして待ち続ける。
しばらくするとホーネットが部屋に入ってきて玉座に着いた。
「アルデ元帥、此度の働き真に大儀であった。アルタイナでの勝利、褒めてとらすぞ」
「はッ有り難き幸せにございます」
いつも苛立ちを隠そうともしないホーネットであったが、今日に限ってはそれほど機嫌が悪くなさそうであった。
おっさんは少しだけ肩の荷が下りた気がした。
「交渉はどうなっておる?」
「予想通りアルタイナからは領土と賠償金を得ることになるでしょう。そしてヘルシアの完全独立を認めさせ、ヘルシア半島は我が国の勢力圏内となると思われます」
「勢力圏内? 我が領土になるのではないのか?」
「はッ兵力は増したものの、ヘルシア半島全域とアルタイナから得る領土の全てに兵士を張りつけるのは困難です。よってヘルシアは我が陣営に加わると言う体で話を進めております」
「余はヘルシア討伐を下命したはずだが?」
「陛下、あそこは荒れただけの何の価値もない土地です。直接統治するだけの対価にはとても見合わないでしょう。仮に我が国の領土として投資をしたとして、金だけが湯水のように流れていくことでしょう」
「ふむう。そうか……分かった。アルデ元帥にはバルト王国軍を片付けてもらわねばならん。すぐに準備にかかれ」
「御意にございます」
退出したおっさんはおかしなこともあるものだと首を捻る。
ヘルシアのことでもっと無理難題を吹っかけられると思っていただけに少し肩すかしを喰らった感じがするおっさんであった。
※※※
アウレアにある邸宅に戻るとおっさんは一息つくことにした。
バルト王国軍を撃破すると言っても今のアウレア領内の兵力だけでは侵攻するのは無理な話だ。兵力の多くはタンシンやフケン要塞に置いて来ている。アルタイナとの交渉がある程度まとまって、エレギス連合王国と打ち合わせをした上での撤兵となるだろう。
おっさんは久しぶりにボードを出していじり始めた。
「うん。戦功値はかなり溜まったな。武功値は左程でもないけど」
おっさん自ら戦ったのはリョクコウの戦いの後半戦くらいだ。
これから指揮をして自ら戦うことが少なくなるだろうから武功値は中々溜まらないかも知れない。
取り敢えず武功値を変換して【
画面の案内に従ってボードを操作していく。
おっさんがガチャを回すと、パチンコの派手な演出がボードに表示され1つの宝珠が出現する。これを繰り返せば宝珠が増やせると言う訳だ。
「あー最初のは……《豪傑》か上げやすいけど、外れだな」
【
《豪傑》は比較的上げやすい部類のものである。
その後も武功値を消費して宝珠を出すが変わったものは出てこなかった。
次は戦功値だ。
武功値の時のようにガチャを回していく。
何度も回すがその度にほのかな期待を抱いては、失望するの繰り返しである。
もう何回目になるだろうか。
惰性で回すと青銀の宝珠が当たった。
青銀と言えば、当たりも当たり大当たりの部類だ。
ボードでは派手な演出が表示されている。
「《兵器の大天撃》ぃ? フケン要塞の時にこれがあれば……」
他にも士気系に大きな影響をもたらす《孤立の絶望》など比較的良い宝珠を得ることができた。
「士気が下がる系はいいねぇ。士気の違いで防御力もごりごり下がるからダメージも与えやすいしな」
後は人物カードである。
今日のカードは自由カードが手に入った。
これはレベルアップの時に誰にでも使えるカードなどで大変便利なものだ。
まだおっさんは自分の腹心にしか【
いや、アウレア全体が強くなるためにはこれを使う日はきっとくるのだろう。
それまでにおっさんはアウレアの実権を握っておく必要がある。
おっさんは今、人材の発掘に一番力をいれている。
【
どうやら+の効果は力だけでなく毒などの状態変化ももたらすものがあるらしいのだ。
既に赤備えは少しずつ配下の兵士たちに配備している。
おっさんの部隊が真っ赤になるのも時間の問題であろう。
おっさんはのんびりとボードの操作を終えると、ふと思い立った。
定期的に訪ねてはいるのだが、今回は長い戦いであったため、時間が開いている。
おっさんはアウレア大公国第一公女シルフィーナを訪問することにした。
思えばシルフィーナは悲運の公女である。
ジィーダバとの望まぬ結婚があったかと思えば、すぐに死別してしまった。
しかもその元凶はおっさんだ。
そのこともあっておっさんはシルフィーナに対してどこか負い目があったのだろう。本人は自覚している訳ではないのだが。
もう夕方も近かったが、おっさんはもう一度アウレアス城に登城しシルフィーナの部屋を訪ねた。
すぐに紅茶が用意され、おっさんに振る舞われる。
「シルフィーナ様、お久しぶりでございます」
「まぁアルデ将軍……今は元帥でしたね。本当に久しぶりですわね」
「お気になさらず今まで通りにお呼びください。此度はアルタイナとの戦争でした。お喜びください。我が国の勝利です」
「それは喜ばしいことです。我が国は強くならねばなりませぬ」
「それがホラリフェオ公の意志……でしたね」
「その通りです。しかし強くなるためとは言え、誰彼かまわず討伐令を出すのは如何なものかと思います。アルデ将軍、ホーネットを、弟を支えてくれてありがとう」
「滅相もございません」
「彼が暴走したらそれを止めるのは貴方です。あれには私共の言葉は届きません」
「畏まってございます」
シルフィーナは世界を敵にして戦った〈狂騒戦争〉やその後の戦争で多くの優秀な人物を失ったことを知っている。彼女の国を思う心はホラリフェオがいた頃から全く変わっていない。
おっさんはシルフィーナがどんどん心労でやつれていくのが分かっていたため、定期的に彼女の下を訪れていた。
そしてお互いに他愛のないことを話す。
それがシルフィーナの助けになればと思ってのことであった。
「シルフィーナ様、今度城下へお忍びで行ってみませんか?」
「あら、私が行けば皆さんに迷惑が掛かりますわ」
「日頃の憂さ晴らしですよ。ずっとこんな城に籠っていては体を悪くされますよ。たまには外出してパーっとやりましょう。私がお迎えにあがります」
「ふふっありがとう。いつか世界のどこへでも行けるようになれば良いですわね」
「お任せください。そんな世になった暁にはシルフィーナ様を連れまわして差し上げますよ」
夜の帳が降りようとしていた。
流石に、遅くまで一緒にいてはシルフィーナに迷惑が掛かる。
おっさんはなごり惜しみながらもシルフィーナの部屋を辞去した。
そしてボソっと呟いた。
「平和な世か……俺が作ってみせようじゃないか」
空の低い位置にある月が大地を照らしていた。
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