第104話 フケン要塞攻略戦 ⑤
■中央ゴレムス暦1583年6月25日 未明
アウレア軍
アルタイナ軍による夜襲があった翌日に今度はアウレア軍が夜襲を仕掛けた。
アルタイナ軍はもちろん見張りを立てていたが、アウレア軍の総攻撃である。
流石に浮足立ったようで反応が後手後手に回っていた。
おっさんは既に【
「突き崩せッ! 一気に乗り込めば勝ちだぞッ!」
おっさんが吠える中、西門付近のアルタイナ軍から火魔術による攻撃が行われる。
その付近はアルタイナの捕虜が攻めている辺りであるが、アルタイナ軍は最早、彼らを完全に敵だと認識したらしい。
容赦のない攻撃が浴びせられている。
「くそうくそう! 仲間だろッ助けてくれよッ」
「うるせぇ! だったら攻めてくるんじゃねぇ!」
「督戦されてんだぞッ殺されちまわぁ!」
「なら仕方ねぇだろッ」
そんな悲痛なやり取りが西門付近では行われていた。
城壁からは石が落とされ、熱湯が浴びせ掛けられる。
攻め手はそれにめげず攻め続けなければならない。
中には油を掛けられている悲惨な者もいて攻城戦の難しさを身をもって体験していた。
ガイナスとバッカスも北東方面から要塞内への侵入を試みていた。
「てめぇらかかれッ! 休む暇を与えるなッ!」
「弓隊放てッ!」
鉄砲では直線的な射撃しかできないため味方に当たる恐れがある。そのため弓による曲射で要塞内に矢を射かけるのである。
「ガイナス殿、俺は突入するぜ。まだ一兵卒みたいなもんだからな」
「おう。俺も行くぜ!」
「アンタは将だろッ兵を統率しろよッ」
「関係ねぇよ。部下が命張ってんのに見てられるかよッ!」
「チッマジかよ。何があっても知らねぇぞッ!」
「気にすんな! 最悪死ぬだけだッ!」
怒号や罵声が木霊する中、バッカスが梯子を勢いよく昇り出す。
もっと強固な雲梯があれば良かったのだが、ない物ねだりをしていても今はしょうがない。
バッカスは、その巨体を支えるには心もとない梯子を昇って得物の大剣を振り回す。
「おらおら、かかってこいや!」
それに応えたのは石礫や矢の雨であった。
「俺と打ち合う奴ぁいねぇのかッ!」
バッカスが自慢の体躯でそれらを跳ね除けながら要塞璧に取りついた。
それを見てアルタイナの守備兵たちがバッカスに殺到するが、初めて要塞璧に上がった豪傑だ。それに見た目からして巨躯を持つバッカスにアルタイナ兵たちが怯む。
それを感じたバッカスは敵を片っ端から斬りまくる。
周囲は全て敵なのだ。
少しでも味方のアウレア兵の侵入を助けるべきだと判断したバッカスは璧上で暴れ躍る。
そこへ更にガイナスが乗り込んだ。
ただでさえ士気が下がっている状態で規格外の男が2人侵入してきたのだ。
アルタイナ兵は次々と乗り込んでくるアウレア兵の流れに抗しきれず要塞の一画を占拠されてしまった。
ガイナスが要塞の一画を占拠す、の知らせを聞いたおっさんは直ちに鉄砲隊を送り込んだ。せっかく苦労して占拠した場所をみすみす渡す手はない。
「まだだ。まだ一画を占拠しただけ……ベアトリス頼むぞ……」
―――
■中央ゴレムス暦1583年6月25日
おっさん
「うーん。6月中の占領は難しいか?」
本陣の床几に座りながらおっさんがポツリと漏らす。
それを耳聡く聞きつけたノックスが答える。
「厳しいでしょうな。ベアトリスたちも急ピッチで用意しているようです。それに要塞の一部を占拠したと言っても油断はできまぬ」
サースバードの戦いから6か月。
いよいよバルト王国が動き出すかも知れないのだ。
「そっかー。バルト王国との和議がもうすぐ切れるんだよね。それまでに決着付けたかったんだが」
「国内はまったく空と言う訳でもございません。それにボンジョヴィ殿もいますからな」
「まぁ彼ならうまく防衛戦をこなしてくれそうだ」
「と言うかそのために彼を残したのでしょう?」
「まぁそうなんだが。まーたブレインが出てきたら厄介だなと思ってな」
「確か敵総大将でしたか……?」
「ああ、読めない男だよ」
おっさんはエレギス連合王国が牽制してくれないかなと甘っちょろい妄想をしてみるが、ここまで支援してくれているのにこれ以上、頼る訳にはいかない。アウレアは同盟国として相応しい存在であると証明し続ける必要がある。
この世界は弱肉強食。
エレギス連合王国におんぶにだっこでは愛想を尽かされてしまうだろう。
「あ、ノックス。ガイナスのところに必要なもの運んどいてね」
「はッ……土嚢、銃火器、弾薬など運ばせております」
「流石はノックス。いい仕事してますねぇ」
おっさんが冗談めかして言うとノックスは「とんでもない」と謙遜して資材の確認へ向かった。
「ノックスは真面目すぎるな。もっと力を抜いてもらえればな。いや、その他の連中がおかしいのか……?」
自分の配下たちへの接し方にようやく疑問を持つおっさんであった。
―――
■中央ゴレムス暦1583年6月27日
バルト王国 ベイルトン
ここはベイルトンの王城
その執務室に狂人ブレインこと、ナリッジ・ブレインが呼び出されていた。
珍しいことに時間に遅れることなく部屋に到着したブレインが部屋の中へと通される。
「よく来たな。ブレイン将軍、いや少将」
バルト国王トゥルンは数か月前から戦の準備を始めていた。
今回もブレインに総大将を任すべく呼び出したのである。
「はぁ……」
何故か、やる気のなさそうな生返事をするブレイン。
それを見た宰相カルケーヌが鼻息と語気を荒くする。
「おい。貴様、無礼であろう! 陛下の御前ぞ?」
「あ?」
「く、国の大事があって呼び出したのだッ口を慎まぬかッ」
キレかけのブレインがカルケーヌにガンを飛ばしている。
これには流石のカルケーヌもびびらずにはいられない。
「よい。ブレイン少将、お前には空のアウレアを攻撃してもらう。これはまたとない好機よ。和議の期間が切れ次第、アウレアを蹂躙せよ」
「ああ、分かった」
「よし、総大将は任せたぞ」
「へいへい。承りー」
この男の言動についてはバルト王国の重鎮たちは既に諦めていた。
適当な返事をして執務室を出ていくブレインは誰にも聞こえない声でボソッと呟く。
「アルデがいねーんだろ。気が進まねーのよ俺は」
ブレインの気持ちなど露知らず、トゥルン王とカルケーヌはアウレア攻略戦について話し始める。
「アウレアに残っている兵は如何ほどだ?」
「一○○○○はいようかと存じまする」
「ヤツらが急に兵力を増した理由は分かっておるのか?」
「傭兵部隊を多く集めたのと、亜人種を多く国内に入れたことだと思われます」
「よもや勝てぬとは言わぬな?」
「アウレアの主力は今アルタイナにありまする。ブレイン少将であれば勝てぬことはないかと」
「
「分かりませぬがブレイン少将の統率に期待するしかないかと存じまする」
兵力的には上だが、難攻不落で名高い
「結局は
トゥルン王は椅子の背もたれに大きく寄しかかるとブレインの顔を思い浮かべて鼻を鳴らした。
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