第102話 フケン要塞攻略戦 ③
■中央ゴレムス暦1583年6月22日
フケン要塞 おっさん
この日は未明からフケン要塞の攻略が始まった。
攻める時間帯をズラして敵を精神的に摩耗させるのだ。
おっさんは短期決戦を望んでいたが、これまでの戦いを見て長期的な戦いになってもいいようにアルタイナにプレッシャーを与えていくことにしたのである。
昨晩、アウレアの大使館にいるレオーネから、ガーレ帝國が動くかも知れないとの情報を得た。
おっさんは列強国とは戦ったことはないが、そう言われているということはやはり一目置かれているだけの何かがあるのだろう。
長期的な戦いの備えはするが、ガーレ帝國の本格参戦は避けたいところである。
それがアウレア大公国とエレギス連合王国の同一見解であった。
アルタイナ国内に駐留する列強国の軍は一○○○○である。
参戦を許せば戦局は大きく変わるだろう。
東門へ叩きつけている
捕虜たちは要塞璧を登ろうともがきながら、本来味方であるはずのアルタイナ兵にやられて転げ落ちて行く。
昨日以上に捕虜たちは必死だ。
昨日、一時的にだが、集団で脱走しようとした一団がいた。
彼らは督戦隊に容赦なく殺されてしまった。それ故だろう。
北東からは相変わらず貴族諸侯が総出で攻め立てている。
今日はガイナスとバッカスもそちらに加わっている。
こちらも中々成果が上がらないようであった。
おっさんは自ら兵を率いて突撃したい衝動に駆られていたが、一応、総大将なので自重していた。おっさん的には指揮官より、前線で戦いたいと思っているのだ。
リョクコウの戦いでは咄嗟におっさんが竜騎兵で出ることになったが、あれはおっさんの行動があまりに突発的で誰も付いてこれなかったためできたことだ。
おっさんは成り行き次第ではまた自ら要塞攻めに参加する必要があると考えていた。そうしながら目の前の焦れったい状況を打開する断崖昇りに期待するのであった。
―――
■中央ゴレムス暦1583年6月22日
アウレア エレギス連合王国大使館
「ですからッアウレア×アルタイナ戦争は彼らが勝手にやっていることで我々が介入すべきではないと言っているのです!」
レオーネが何度繰り返したかも分からない言葉を吐く。
通信相手はヴァルムド帝國のブリュネル外務卿である。
『そうは言われましてもな。現状が東ディッサニアの安定を欠いている状態と思えませんかな?』
「この戦争は我々の関知しないところで始まった戦争です。もし介入するならある程度情勢が固まってから講和の仲介をすべきだと言っております」
元々、アルタイナの利権を護るためにそれぞれの列強国が都合の良いように、そして列強国間で無駄な争いを回避するために決められた条約である。
『なるほど。このまま東ディッサニアの勢力図が書き換わっても仕方がないと言う認識でよろしいですか?』
「あくまで条約は列強、準列強間で取り決められたものです。貴卿は条約破りも厭わないとおっしゃるのか?」
『それは聞きづてなりませんな。我が国を約束を破る蛮族と一緒にしないで頂きたい。そこまで申されるのならばよろしいでしょう。東ディッサニアでの戦争が泥沼化して混沌とする前に介入することとしましょう』
「私はアルタイナにはもう力はないと考えております。ですので現在のフケン要塞攻防の決着がつけば講和の仲介に入るつもりです。ガーレ帝國はからは何か聞いておられますか?」
フケン要塞陥落で講和を仲介すると言うのがアウレアとエレギス連合王国の取り決めである。
『ガーレ帝國は即時介入の意向であると聞いております』
「即時とはつまり武力介入と言うことでしょう。それこそ条約に反する。我が国としては断固抗議致します」
『しかしですねぇ。ガーレ帝國が素直に聞くとは思えませんな』
「だからこそです。我が国は既にガヴァリム帝國の賛意を得ました。貴国が加わってくれれば圧力をかけることが可能と考えております」
『カヴァリム帝國もですか……よろしいでしょう。ですが我が国も現状を座視する訳にも参りません。1カ月、1カ月待ちましょう』
「分かりました……ではガーレ帝國に3国での勧告を」
『仔細承知致しました』
レオーネは魔導通信を切り大きな溜め息をついた。
後日、エレギス連合王国、ヴァルムド帝國、カヴァリム帝國による話し合いがもたれ、アルタイナに利権を持つ国家群でガーレ帝國の暴走を止めるために武力介入はまかりならぬと言う勧告を行うこととなった。
―――
■中央ゴレムス暦1583年6月22日
フケン要塞 ベアトリス
ベアトリスら3人は要塞からは陰になって見えない場所まで足を運んでいた。
この場所から断崖をロープだけで谷底まで降りなければならないのだ。
しかし、3人に迷いはない。
統率の外道に自分の主君を貶める訳にはいかない。
ベアトリスにもおっさんの気持ちは分かっている。
このフケン要塞は是が非でも落とさなければならない。
それも迅速に。
おっさんの懸念がガーレ帝國であると言うことももちろん知っている。
ベアトリスも列強国が武力介入して来た場合のことを考えると正直ぞっとする。
アウレア大公国はかつて列強国を何カ国も相手どって戦ったと聞いている。
ベアトリスが生まれるずっと前のことだ。
しかし、それはあくまで過去のこと。
今の牙を抜かれたアウレア大公国では列強国と聞いただけで腰砕けになりかねない。だがホラリフェオの志を継いだおっさんの軍制改革の手際は鮮やかなものであった。
最初の驚きは【
そして
貿易による武器弾薬の確保。
職人、鍛冶師の招来。
傭兵の雇用。
民間人の士官制度の整備。
まさにホラリフェオ公ができなかった部分の軍制改革である。
大きいのが銃火器の確保。
そして驚きは列強国で世界の盟主と呼ばれるエレギス連合王国との同盟。
強力な指導力には舌を巻く思いだ。
その盟主がアウレア軍がフケン要塞を落とした時点で仲介に入り、講和を結んで戦争を終わらせることになっていると聞かされた。
そこへガーレ帝國の武力介入の可能性である。
おっさんの過去の戦いを見て彼がアウレアの要になっていくことは確定事項だと、ベアトリスは確信している。
ホーネットは暴君だ。
機嫌だけで人を振り回し、気分で政策を決める。
アウレアはホラリフェオ公の代で終りだ。
ベアトリスはおっさんに忠誠を誓っている。
彼ならば、アウレアに再び繁栄を取り戻し、世界を平和に導けると思っている。
レーベテインの名に連なる者が夢想しているレーベテインの再興は、当事者では為し遂げられないだろう。為し遂げられるとしたら部外者であるおっさんしかいない。
そんなおっさんに外道に落ちておしくはない。
正々堂々とした戦いだけが戦争ではないし、綺麗ごとだけではやっていけないのは十分分かっている。しかし、その汚名を主君と仰ぐおっさん着せるのだけは避けたい。だからベアトリスは自分がその汚い役割を引き受けようと決めた。
なにはともあれ、フケン要塞を落とさねば話は進まない。
ベアトリスはドーガとレスターに喝を入れると、断崖に鉄の杭を打ち込みロープを命綱にして谷底へと向かった。
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