第93話 同盟締結、成る
■中央ゴレムス暦1583年5月21日
ヘルニアン レーベ侯爵
ヘルシアの首都ヘルンでアルタイナ軍に敗れたアウレア大公国軍であったが、おっさんは直ちに軍を再編し、ヘルシア半島へ送った。
その数三○○○。
総大将はラグナロク・ド・レーベ侯爵である。
その他にもホーセン・アチソン、アルヴィス・ネルトマーなどの戦巧者が選抜された。
おっさんはヘルニアンを橋頭堡にするため、彼にはあくまで防御に徹するよう指示した。上陸地点となるヘルニアンは絶対に落とされてはならない要衝である。
レーベ侯爵たちは、ヘルニアンの市庁舎を訪れていた。
「アウレア大公国はいつになったらイルヒ派を一掃し、アルタイナと一戦交えてくれるのでしょうか? このままではヘルンにいるインクム様の身が危ないのです」
「問題はない。現在軍備は順調に進められています。アルタイナを叩き潰す日は近いでしょう」
「そ、そうは言われますが……」
ヘルニアン市長はインクム派であるため心労が溜まっているのだろう。
おっさんは、今、エレギス連合王国との同盟締結に心血を注いでいた。
更にはアルタイナとヘルシアの革新派とも連絡を取り合っている。
おっさんはダラダラと戦争を長引かせる気などないのだ。
一気呵成に勝負を決めるべく出来る限りのことはやろうとしていた。
もちろん反革新派の寝返り工作も行っている。
おっさんから詳細を知らされているレーベ侯爵は迂闊な行動は控えるべく慎重に動いていた。
今のところヘルンに常駐しているアルタイナ軍に動きはない。
「市長殿、我々は既に動いています。それを信じて軽挙妄動は慎んで頂きたい。」
「わかりました……」
ヘルン市長はレーベ侯爵の言葉を聞いて項垂れるように同意したのであった。
―――
■中央ゴレムス暦1583年6月2日
アウレア
アウレアス城の城門前にはセレモニーを行うための立派な会場が作られていた。
本来は、迎賓館などで行うものだが、大々的に世界に広めたいホーネットが建設を急がせていたのである。
実務者級の会議も終わり後に待つのはパフォーマンスだけである。
おっさんもホーネットの考えに意外な一面を見た気がして驚いていた。
「陛下も考えてんな。こんなに大々的に式典を行えば世界が仰天するのは間違いないだろうな」
「陛下の発案だったんですな。私も驚いています」
「んーまぁ入れ知恵があったかも知れんが我が国のためになることだし歓迎だな!」
既に国民に告知がなされており、建物の前には非常に多くの人達が詰め掛けていた。世紀の式典になると宣伝されたこともあり大通りは殺到した国民が押し合い圧し合いしている。
同時にアウレアの各地から軍備を終えた兵士たちがぞくぞくとアウレアス城に集まって来ていた。
そして式典の開始が告げられた。
出て来たのはホーネットとレオーネである。
本来なら国家元首同士が式を進めるものだが、レオーネは全権大使であるためエレギス連合王国女王の名代と言うことになる。
ホーネットには国民から盛大な声援と拍手が送られ、本人も満更でもない様子だ。
こんなに機嫌の良いホーネットを見るのは久しぶりだとおっさんは思う。
そして設けられた席に着いた両者は調印と署名を行った。
2人は今、予定通りガッチリと握手を交わしている。
時代が時代なら多くのフラッシュがたかれていただろう。
中央ゴレムス暦1583年6月2日。
同盟成る。
何故かおっさんも会場に引きずり出されてしまった。
レオーネと握手しながらおっさんは場違いな場所に出てしまったような気がして恐縮しきりであった。
「サナディア卿、ヘルシア・アルタイナのことは頼みましたよ?」
「お任せください。我が国にとっても大事な一戦となりますからね。手は抜きませんよ。はっはっは」
観衆のボルテージも上がっているようだ。
何しろあの列強国との同盟なのだ。
「アウレア万歳! エレギス万歳! 大公陛下万歳!」
「アウレア万歳! エレギス万歳! 大公陛下万歳!」
「アウレア万歳! エレギス万歳! 大公陛下万歳!」
両国の繁栄を望む声援が何度も何度も繰り返される。
この日発表されたのは以下の通りである。
・軍事同盟の締結
・国交関係の樹立
・通商条約の発効
同時に銃火器保有禁止法の撤廃や、アルタイナ・ヘルシアへの介入への支持が表明された。
「アウレア大公国の民たちよ! 本日はこのような晴れの場を設けられたことを誇りに思う。たった今、我が国は軍事同盟、国交樹立、通商条約の調印を行った! しかもあの列強国、エレギス連合王国とだ! 我らの絆は永久に……そしてこの同盟はディッサニア大陸に、世界に新たな国際秩序をもたらすだろう! 余はアウレア公国民としての誇りと自覚を持った行動を期待するものである!」
ホーネットの演説に民衆たちは更に熱のこもった歓声を送る。
「新たな国際秩序か……」
おっさんはホーネットの言葉を聞いてこれからの戦いの日々を思うのであった。
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