第42話 おっさん、論功行賞をする

 ■中央ゴレムス暦1582年7月12日

  アウレアス城


 残党狩りも粗方片付いて、おっさんはアウレアス城へと参内していた。


 まだおっさんが認めた部下は少ないので、お供はノックス、ドーガ、ガイナス、ベアトリスだけである。もちろん、兵や事務方は幾らか連れている。ボンジョヴィは早速ヨハネス侯爵家の切り崩しを行っており、成果も出ているようだ。


 おっさんが玉座の間に入ると名だたる貴族諸侯が集まっており、シルフィーナの登場を待ちわびている。


「やば。西洋風の儀式ってどんな感じなんだ?」


 今日は論功行賞を行うと大々的に発表されている。


「ま、ここは地球じゃないんだから何とでもなるだろ。ドーガくんにでも習っておくか。それに他の貴族の真似をすればいいだろ」


 論功と言ってもおっさんは主に与える側でシルフィーナたちと内容を詰めていたので大体のことは理解している。人の名前を覚えるのは面倒臭いがボードに表示されるカンニングできることに気付いたので問題はない。


 おっさんは戦後処理を適当に終わらせると、後を副官のノックスと副官補のドーガに任せて、アウレア平原の戦いで活躍した貴族たちと積極的に関わっていった。もちろん、取り込むためである。今日のこの論功行賞は政治ショーのようなものである。


 そこへ、アウレア大公国の支柱と言われる者の1人、ジィーダバ伯爵が入ってきた。周囲がざわめきに包まれる。おっさんは家中の勢力争いのことは聞いて知っていたが、意外とフレンドリーに彼からおっさんに話し掛けてきた。


「これはサナディア卿、久しぶりだな」

「お久しぶりでございますな。ジィーダバ卿。ガーランドの方はよろしいので?」

「ああ、問題ない。優秀な部下共に任せて来たからな。それに今後のことについて話し合う必要があろう?」

「そうですね。大公陛下亡き今、アウレアを維持していくために必要ですな」


 ジィーダバ伯爵は小細工をしない分かり易い人だと聞いていたが、いきなり話し掛けてきた辺り何か考えがあるのかと、おっさんは疑いたくなってしまう。直球タイプだからこそ、堂々とおっさんに近づいたと言うことも考えられるが。


「それにしても何故機先を制すことができたのだ? 貴殿は遠きヘリオン平原にいたはずだが?」

「戦いが速く終わったので速く帰れただけです」

「そ、そうなのか……。うーん。貴殿は何か……こう、変わったような気がするな」

「そうですか? もしかしたら中身が入れ替わってしまったのかも知れませんよ。わっはっは!」

「お、おう」


 おっさんがディーダバ伯爵をからかって遊んでいると、シルフィーナが来ると言うので、それぞれ序列に従って整列することとなった。

 序列最上位はやはりレーベテインの末裔のレーベ侯爵家とテイン侯爵家なのだが、どちらも亡命してきた家と言うことで名誉的ポジションになっているようだ。なのでアウレア家臣団の実質的な筆頭はディーダバ伯爵家である。おっさんは序列2位である。


「皆の者、本日はよく集まってくれました。此度は我が国アウレアの大公ホラリフェオが逆賊オゥルに不覚を取ってしまいましたが、彼奴はアウレア平原の戦いで我が軍に敗北し卑怯にも逃走を図りました。しかし悪逆外道は必ず滅び去る運命にあるのです。追撃を出した我が軍がオゥルとその腹心、そして協力者たちを一網打尽に致しました。これは取りも直さず、オゥルのような鼠賊そぞくには天は味方しないと言うことに他なりません。本日は戦いにて勇躍した者たちを労って進ぜようと思います。まずは論功行賞を執り行います。サナディア伯爵ッ!」


「はッ!」


 おっさんが威勢良く返事をすると、前をと進み出る。


「ヘリオン平原でバルト王国軍を早々に破り、アウレアに戻ったその姿は韋駄天の如く、事変後、大公家を支えて貴族諸侯を取り纏め、偽大公ネフェリタスとオゥルを撃ち破った手腕は見事と言う他ない。よってアルデ・ア・サナディア伯爵には旧オゥル領ネスタト、旧ヨハネス領ハーネス、直轄地レイカルドを加増致します!」


 おおッとどよめきが起こる。

 これまでのサナディア領の大きさから考えると例を見ないほどの加増であった。

 しかし、貴族諸侯からは文句など出ていなかった。

 ほとんどの者が納得していたからだ。


 ジィーダバ伯爵はと言うと、あからさまに不機嫌な雰囲気を醸し出しており、しかめっ面をしている。アウレア三将の最期の1人であるニワード子爵は目を閉じて何やら考え込んでいる様子であった。


「はッ! 有り難き幸せにございます!」


「それでは進行を任せます」

「畏まってございます」


 おっさんは目録を懐から取り出すと順に読み上げ始める。


「まずはホランド地方を切り取ったオイゲン子爵にはイオードを加増致す!」


「応ッ!」


「アウレア平原の戦いで先陣をきり、敵を突き崩した上、アウレアス城奪還に大きく貢献したアーネット子爵にはハネスゲルグを加増致す!」


「はッ! ありがとう存じます!」


 こうして次々と戦功のあった貴族諸侯への恩賞が読み上げられていった。


 おっさんが貴族諸侯の戦功を大いに褒め称えたため、アウレア大公国は恩賞を与えるために直轄地を削る必要性に迫られ、結果的に力を削られる形となったのである。

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