第7話 ドーガ、困惑する
■中央ゴレムス暦1582年6月1日 アウレア軍本陣
ドーガ・バルムンク
今日は朝から何やら騒がしい。
兵士たちが忙しなく動き回っており、天幕などを片付け始めたり、武器類をチェックしたりと大変そうだ。
そこでアルデ将軍の天幕まで足を運んだところ、ノックスと鉢合わせになった。
これ幸いと2人で彼に確認してみると、今夜にでも撤退するらしい。
ドーガは、ヘリオン平原の戦いが始まった頃からどうにもアルデ将軍の様子がおかしいように感じていた。
別に決断が遅い訳ではないが、ドーガはともかく、ノックスにすら何も告げずに行動を起こすのことはなかった。今の彼は即断即決で動きが速い。
着任から3年とは言え、一応、アルデ将軍の副官補と言う立場にあるのだ。何か相談してくれても良いはずである。元々、烈将アルデの異名で呼ばれているほどだ。ラグナリオン王国やバルト王国相手に、小国のアウレア大公国を護り続けてきた人物なので何か考えがあるのだろうが、色々と心臓に悪い。
副官のノックスが出て行ったのでドーガは、良い機会だと考えてアルデ将軍とコミュニケーションを取ってみることにした。もちろん、中身が入れ代わっているおっさんとしては
「ん? どうしたんだ?」
この場に留まるドーガを見てアルデ将軍が声を掛けてきた。
「いえ、恐れながら我々はもっと交流を密にするべきかと存じます」
「あーそっか。何も言わずに直接命令だしちゃったからね。ごめんね」
「いえ、
「うーん。そうだね。報連相は大事だし、うん分かった」
「ホウレンソウですか?」
「「報告」「連絡」「相談」のことね。これは一般兵にも言っとかなきゃだな」
「なるほど。重要なことでありますな」
士官であれば当然のことだが、確かにアルデ将軍に直接相談すると言う考えはあまりなかったなと考えるドーガであった。
他に何を話そうかと考えていたドーガとおっさんの下に1人の兵士が駆け込んで来た。
「将軍、突然なんですが西ヘリオン平原の街、メルジェーヌから来たと言う男が現れたのですが……」
「男? 何? ラグナリオンの伝令か何かか?」
「いえ、仕官したいので会って欲しいとのことです」
「仕官? ふーん。取り敢えず会ってみないと分からんね。会おうか」
おっさんの言葉を聞いて走りだそうとする兵士に、ドーガは追加で注文を出した。念のため護衛をさせるためだ。
「おい。ついでに兵士を3人ほど連れて来い」
しばらくして天幕に連れて来られたのは、ドーガよりも更に大きい体を持つ男であった。いかにもな強面で髭を生やしている。所謂フルベアードと言うヤツだ。そしてその巨躯は191cmのドーガより大きい。背丈も幅もである。武器は取り上げて外の兵士に預けさせた。
ドーガはアルデ将軍の横に控え、正面以外を庇う形で、伝えに来た者を含めて兵士4人を配置した。
「おお、かなりでかいな」
「アンタが烈将アルデか。強そうには見えねぇが戦もしてねぇのに完全防備たぁ気合入ってんな。常在戦場ってとこか?」
「貴様、口を慎め。死にたいのか?」
舐めた口調と態度を取る男に、ドーガはすかさず声を荒げて咎める。
いきなりでかい口を叩く男に兵士たちも同様に殺気立つ。
皆、剣に手をかけており、1人に至っては
「(いきなり何を言うかと思えば、大した胆力だ。どれだけ強いかは知らんが、まぁでかいのは強いと言ってもいいからな)」
「いやーそう言う訳でもないんだけどねー。そういや暑いな兜くらいは脱ぐか」
そう言うとアルデ将軍は赤い兜を脱ぐと、膝の上に乗せた。
兜は脱いだのに何故か面頬は付けたままだ。
髪は綺麗に布でまとめられている。
「キミは強そうだね。流石に勝てそうにないわ」
アルデ将軍は呑気そうに笑っている。
バルト王国の先軍指揮官を一刀の下に斬り捨てたのに謙虚なものである。
「自分が強いとは言わねぇのか……謙遜してんのか、本当に弱いのか。どっちだ?」
「おい。口のきき方に気を付けろと言ったはずだ。殺すぞ貴様」
ドーガは再び、男の言葉を批難する。
そのセリフは先程より更にキツくて刺々しい。
「弱いぞ。ま、強くても損はないけどな」
「世界は弱肉強食だぜ? 弱さを認めてもいいのか?」
「ああ、俺が弱くても周りが強けりゃいい。適材適所ってヤツだ」
「ほう。言うじゃねぇか。じゃあ、今この陣に強いヤツがいるんだな?」
「ドーガくんは強いよ?」
「閣下、敵指揮官を一撃でぶった斬ったお方が弱いはずありませんよ」
「お前さんがドーガか? やっぱりその話は本当だったんだな。確かに話は聞いたぜ。だから来たんだ」
何を言っても無駄な男にドーガは注意するのを諦めた。
ついでに口も利かないことにした。
「無視かよ。まぁいい。それで俺を雇うのかどうすんだ」
「んー採用。雇うってか、俺の直参の部下になって欲しいんだが」
「ああ、問題ない。元から認めたヤツ以外に付く気なんざねぇよ」
「交渉成立だな」
「アンタが大したヤツじゃなかったら帰るからな?」
「別にそれで構わんよ」
ドーガは何だか綺麗に話が纏まって少し拍子抜けしていた。
この男も毒気を抜かれたのだろうと考える。
「(ん? 俺は直参なのか、寄騎なのか? 直参のつもりだったんだが)」
ドーガは
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