第114話 帝国へ(叔父様達3)

「説明するわ」

フィーとカレンの戸惑いの表情を汲み取りながら、私が言うと叔父様が、

「とりあえず座ろう、流石にたって話すじゃないだろ」

珍しくまともな事を言ってくれたから、備えてあったソファに皆が座った。

奥にフィー、その横にカレン、そして私。

向かいに、カンタラ殿下、そしてラギュア様、叔父様。

叔父様が急に動き出したかと思えば、幾つものグラスに水をドボドボ入れ出した。

それを飲むの?と不思議に思っていると、それを皆に意気揚々と配り出し、イライラした。

「待ってよ、何配っているの!?それ、水なのよ!そこにお茶があるでしょ!?クルリが入れてくれるのだから、待てばいいでしょ!?」

「こっちが早いだろ」

「早いとかじゃなくて、カレンとフィーに本当に水を出すの!?ちょっとカレンもフィーも普通にグラス取らないでよ!!」

「喉乾いたんだもん」

「俺も」

「違うでしょ!」

ほら、ザンとターニャが顔をひきつらせながら、変な動きになってるでしょ!

分かるよ。皇太子と皇女に、水、なんて有り得ないよ!!

うっ。

何か胃が痛くなってきた。

そんな私の気持ちを分かってて、また、ニヤニヤ笑う叔父様と目が合った。

「お前が毒味としての先に飲めよ。フィー様とカレン様に怪しげなものを飲ませれんだろ?」

と、足組しながら偉っそうに言ってきた!!

もう我慢できない!!

「ちょっと、スティングどうしたの!?」

「カレン、止めないで!!叔父様に一度ぶちまけたいと思っていたのよ!!」

「いや、やめとけ!スティング、落ち着けよ!!この流れで、毒味は必要ないだろ?」

右手に水の入ったグラスを持って立ち上がり、思いっきり叔父様にぶちまけるつもりだったのに、フィーがすぐさまグラスを取り、カレンに腕を引っ張られた。

「おやおやどうした、綺麗な顔が台無しだそ?私には落ち着きなく、礼儀がなってないわぁ、と言いながらお前の方がどうかと思うぞ。あ、そうか!これは、わざと私のためにやってくれているんだな。愚かな私を目立たさないように、自分から事を荒らげてくれてるのか。いやあ、やっぱりよくできた姪っ子だな」

「そんなわけないでょう!!」

「スティング落ち着いてよ!」カレン

「スティング様、本気で相手にしてはいけません」ラギュア様。

「お嬢様、水、水飲んでください!!」クルリ

私の名前が何度も上がり、慌ててクルリがグラスを持ってきた。

「だから、ここで水が出るのはおかしいの!!」

「ともかく飲んでください!!」

「いや飲んどこ。ほら落ち着こう」

「叔父様に言われたくないわ!」

「スティング落ち着いてよ」

「スティング落ち着こう」

「お嬢様、いつもの事じゃないですか」

「いつもの事がおかしいのよ!!」

何だか大騒ぎになり、何度も名前を呼ばれ、必死にクルリがグラスを渡してきたから、一気に飲むと、少し落ち着ついてきた。

「スティング様、お座り下さい。バゼルもスティング様にお会い出来て嬉しいのは分るけれど、からかうのはそれぐらいしてあげて」

ラギュア様が顔を顰め、叔父様を睨むと肩を竦め頷いた。

そうよ、忘れてたわ。

礼儀なんてこの人に必要ないわ。

すっと、指さしてやった。

「フィー、カレン、この方はバゼル・ティーチェ様よ。侯爵家でお母様の弟君であり、ティーチェ家の嫡男よ」

今更ながら紹介をしたが、自分でも分かる愛想のない言い方だ。

「嫡男だが家督は弟に譲ったけどな。あんな硬っ苦しい貴族の生活なんぞ、私のしょうに合わん。人は自由気ままに生きるべきだ。人生たった一度。金がある家に産まれたのなら、それを使って何が悪い?」

サラッと笑いながら言う言葉が、私に重くのしかかってきた。

叔父様は、私に無いものばかりを持っている。

前向きで、何も考えないような言い方なのに、ちゃんと考えいる。

そのちゃんと考えている、が天性の性格なのも分かっている。

前向きの性格の人は、いつだって立ち止まらず笑いながら前を向いている。

私は、いつも下を向き、自分を追い詰める考えばかりが浮かぶ。

私は、

臆病で、

弱虫で、

誰の顔色を伺いながらしか生きていけない。

「スティング、座ろうか。説明してくれるんだろ?」

軽く背中をさする手と、労りのフィーの声に、顔を上げフィーを見た。

「スティング、本当に変わったな。いや、本来のお前を取り戻したんだろうな」

私を見つめる顔が急に真顔になった。

「座れよ。説明するんだろ」

真摯な瞳での低い声に吸い込まれ、素直に頷き座った。

そうだ。私は私を戻し、突き進むと決めたんだ。

そうして私は説明を始めた。

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