第45話レインの素性

「それで、あの女は何なの?」

屋敷に帰り、夕食までの時間庭園を散歩していた。

あの女とは、勿論レインの事だ。

「殿下の乳母の孫、であり、幼なじみ、と言う立場よ。乳母、つまりレインのお祖母様の名前ベルーは、殿下の教育係、兼、身の回りの世話をしていた。王妃様自ら推薦し連れて来たの。元々は、王妃様の実家であるグリニッジ伯爵家でメイドとして働き、王妃様の乳母だった。王妃様の産まれた時期と同じ頃にベルーは子供を産んでいる。つまり、レインのお母様ルザミよ。王妃様のお母様が産後の日達が良くなく、授乳を変わってした事から、乳母になった、と聞いているわ」

「つまり、2代に渡り仕えていたのね」

「だが、身元がしっかりしている、もしくは代々仕えている家柄を招き入れるのは、当然だろう」

「でもね、ベルーは元々平民出で、それも孤児なの。幼い頃に両親を亡くし、修道院で育てられ、修道院からの斡旋でメイドとして雇われた、と言う経緯だと報告を受けている。その頃のグリニッジ伯爵家は、正直落ちぶれていて安い賃金で働いてくれるメイドを探していたから、修道院から何人も雇い入れていたみたい」

「慈善事業、と言う名目でよく聞くわ。ねえ、良くある話だけど、あの女は国王やそのグリニッジ伯爵家の子供、と言う事はないの?」

「ないわ。そこは徹底的にお父様達が調べたから違うわ。ともかく、ベルーの出生がどうであれ気に入ったみたいで、王妃様はとてもベルーを信頼し、殿下が中等部を卒業するまで側にいさせていたわ。まるで入れ替わるようにレインが高等部に現れたわ」

今なら、それが全て計画的だった、と臍を噛む。

お父様達も気付いていない。

いつから、

何を、

計略していたの?

何が目的なの?

誰から?

レインは何をしているの?

いや、考えても今は何も答えは出ないわ。それなら、これから少しずつ暴いていくべきよ。

まだ、私は王妃様やレインの足元に、いや、姿さえも見えない場所で足掻いているだけの傀儡だ。

でも、今は、本心、と言う気持ちを手に入れた。

これからよ。

だって、お父様達が辿りつかなかった、レインと言う悪魔を見つけた。それなら、欠片さえも見逃さずに、答えを導き出すわ。

「スティングが言っていた、悪事を暴く、という相手は王妃様なのだろう?」

フィーの言葉にざっと歩く足が、皆が止まった。

私の後ろから着いてくるフィーもカレンも、そして少し離れて歩く、ザンとリューナイトも足を止めた。

振り向くと、辛い顔をしている思ったのに、2人ともまるで覚悟を決め、それでいて心底楽しむ顔で笑っていた。

「・・・そうよ。私は王妃様を、いいえ、王妃派を潰して、公爵派でもなく、誰もがお腹いっぱい食べれる国を作りたいわ」

お腹いっぱい食べたアベルの笑顔を見たい。

「何故王妃様が薬物を扱っていると思ったの?」

「奇妙な事があった」

「奇妙とは?既に全てが奇妙ですがね」

いい所でまた、ザンが口を挟む。

「グリニッジ伯爵様の奥方は薬物中毒で亡くなった。それも、レインのお父様も、薬物中毒で亡くなったの」

私の後ろから歩く2人の、息を飲むのが聞こえた。

「グリニッジ伯爵様の奥方が亡くなったのも、レインのお父様が亡くなったのも、この国の飢饉が起きる前だったから、既に証拠はなく、お2人ともご自分の快楽を求めるためだけに堕ちて行った、と。証拠は何もない。けれど2人が亡くなったあと、同じ薬物が国で回り出した。だから、公爵派はグリニッジ伯爵様ら薬物を扱っているのだと思っている」

「どこの国も色々あるわね」

カレンが肩を竦めながら、夕陽に彩られた百合を触れていた。

白い百合夕陽の色が落ち、それをカレンが触るのは1枚の絵のようで綺麗だった。

「どんどんスティングはいい顔になるね。この国に来た時は正直何処にでもいる綺麗な貴族令嬢だと思った。フィーが何処を気に入ったのかさっぱり分からなかった」

「何言っているんだ。いつも言っていただろ?信念が曲がらない、真っ直ぐな瞳をしている。そして、どんな時にも動揺しない、気品を持っている、と」

愛おしいむように私を見つめ、私の前に来た。

「そうね。今なら理解できるわ。あんなにクズ王子と過しながらも、穢れない魂を感じた。まあ、単純にクズ王子を好きだった、と言う素直さなのかもしれないけれどね」

・・・馬鹿にされているような、褒められているような、何か複雑だわ。

「それに、ビビによく似ているもの!姿も性格も!!」

「そこじゃないだろ・・・。俺がこれまで言っていたスティングは何なんだよ」

「そこを踏まえてよ」

「違うだろ!お前、ビビに似ている、それしか言わなかっただろ!?」

「あら?それも大事でしょ。ビビに似ているから私がお茶に行こう、と言わなきゃいつまでたっても先に進めなかったじゃない」

「当たり前だろ。スティングは・・・あの王子を好きだったのを知っていたからな」

好きだった。

その言葉通り、今、揺らぐ気持ちはない。

「さてと、ザン、リューナイト、戻りましょうか」

カレンがそう言うと、ザンとリューナイトは無言で頷き歩いていった。

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