第40話 またまた殿下に朝呼び止められました

「スティング、どう言う事か説明しろ!」

月曜日、正門をくぐると、私を待っていたようで殿下が苛立ちの声を上げながら前にやってきた。

勿論、新しいお付きのご友人も一緒だが、顔色悪く、下を向いている。

前回の方々の後だ、王妃様より否応なくつかされただけなのだろうな。

それも、前回と同じ場面になり、戦々恐々だろう。

可哀想に。

そうして殿下はいつもながら、誰の目もはばかる事無く自分の我だけを通したい、と感情のまま睨んでくる。

またまた、登校している生徒達が興味津々で立ち止まっている。

いや、これすらも王妃さまから言われた事を演じているだけなのだろうか?

だって、いつも王妃様が付けている香水の匂いがする。

「おはようございます、殿下。どのお話でしょうか?」

鞄を置き裾を持ち、軽く会釈した。

沢山ありすぎてどの話か分からない。

「どの話しだと!?分かっているだろうが!私の誕生日パーティーを勝手に帰った事だ!!」

殿下は苛立ちの顔で顎を上げる。

ああ、その事か。

「恐れ入りますが、あの時私は取り乱し、お目を汚してしまいますので失礼致します、とお伝えしたはずです。まさか、もうお忘れになったのでしょうか?」

真っ直ぐに殿下の瞳を見つめ、1歩前に出た。

ふわりと紫の服の裾が揺らめき見えた。今日からカレンはと色違いでありながらも、同じ服を着る事をお願いした。

カレンは真紅だ。

とても気持ちが強くなれる。

「そ、それは聞いていたが、まさか本当に帰ると思っていないだろ!それに、私はお前を呼んだのにそれを無視して帰っただろうが!!」

いつもの私なら下を向き、申し訳ありません、と答えるだろうと殿下は思っていたのだろうが、

目を逸らす事無く自分を見つめる私に、

逆に1歩下がった。

では、前に1歩。

やっと状況がおかしいと気づいたのか、急に小さく見えてきた。

「恐れ入ります。何度もご説明させて頂くのは恐縮でございますが、私はあの時、陛下、王妃様の御前で失礼致します、とお伝え致しました。ああ、そう言う事でございますか」

見上げ微笑む私を見て、殿下が顔を引き攣らせのを確認し、横に動いた。

「私ではなく、フィー皇子様とカレン皇女様が何のお断りもなく、帰られた事に対して御立腹なのですね。そうはっきりと仰って下されば宜しいのに、わざわざ私を引き合いに出すなど、少し意地悪ではありませんか?」

はい、どうぞ、と言わんばかりに私の言葉にカレンとフィーが殿下に近づいた。

いい顔だわ2人とも。

ほら、殿下は真っ青になったわ。

「ま、待て!私はそんな事言っていない!違います!!お2人が帰られたのは、報告を受けました!!スティング、お前に用があるんだ!!」

慌てて首を振り、私の前にやってきた。

そうね、そこの場所ならフィーとカレンは見えないものね。

「では、どこの事でございますか?もしかしたら、殿下が我が屋敷に来られた時、私がお会いしなかったのを気にされて、そんな遠回しに言われているのですか?」

「い、いや・・・待て・・・確かに私は屋敷に行ったが・・・」

急にしどろもどろと、何を言っているのか自分で分かってないようだ。

チラチラと背後を気にしているということは、フィーとカレンがまた近づいてきたのか。

「申し訳ありませんが殿下、通達も無くお会いするのどうかと思います。そもそも、何故あのお時間に我が屋敷に居られたのですか?あの時間は各国の方々と朝食の時間でございますよね。それを殿下無くして、どのたが、御相手していたのでしょうか?」

「そ、それは宰相がやってくれた」

目線が逸れた。

そうでしょうね。

「ですが、殿下も私もいないのであればレインがすべきでは無いのですか?殿下がわざわざ、誕生日パーティーの入場に選んだ方であり、諸外国の方もレインを認めております。その状況下ですのに、何故」

睨んだ

「御一緒に我が屋敷に来られたのですか?」

「待て!元々お前が勝手に帰ったからだろうが!レインは関係ない!!」

レインが悪く言われ始めたら、はっきりものが言えるのね。

ずん、と胃が重たくなった。

「あら?レインは関係ない?それならばなぜ御一緒に入場にされたのですか?」

「レインは平民だ!」

お粗末な答えだわ。そう言えばすむと言われているのでしょうね。

それに答えになっていない。

「それならば、今一度お聞きします。何故殿下の誕生日に、それも、お揃いの服装で入場されたのですか?平民が参加出来るパーティーなのでしょうか?それでは、他の平民の方を招待しても宜しいのですね?」

「そんな事できるわけが無いだろうが!レインが特別なのはお前も知っている事だ!」

特別。

その言葉を今更だが、初めて聞いた。

それがこんなにも、胸に突き刺すように響くとは思っていなかった。

そうよ、

分かっていたことよ。

「申し訳ありません、私と殿下は話が通じないようでございますね。どうぞ、フィー皇子様とカレン皇女様に、何故帰られたのか詰問されるのでしたね」

落ち込む気持ちから、はあ、とつい溜息をついたのが癪に触ったのだろう。

急に顔を真っ赤にした。

「話しが通じないとは、誰に向かっている!」

「あら私、殿下以外に誰とお話しをしていましたか?あ!そうでしたわ、殿下にお伝えする事を忘れておりました」

すっと殿下の前に戻った。

不思議にスラスラと、また言葉が出てくる。

怒りなのか、

それとも、

寂しさなのか、

胸を苦しくする感情が蠢いていた。

「な、なんだよ!?」

「フィー皇子様とカレン皇女様、そして私に挨拶が出来ていない、と言う同じ過ちをまさか殿下がされた今のお姿を、また帝国へと知らしめるのは不甲斐ないと存じますので、私が、殿下の婚約者であるわ・た・く・し・ が、お2人に変わりに謝罪致します。ですので、帝国への謝罪文は必要無いですのでご遠慮なく、お2人に何故帰られたのか、御質問をされて結構ですよ」

さあ、どうぞ。

ニッコリ微笑み私が横に動くと、お2人は殿下の前に悠々歩いてきた。

「だ、だから違うと言っているだろうが!違います、フィー皇子様、カレン皇女様!!」

「さっきから気になってたんだけどさあ、誰から報告されたの?私、そんな事頼んでないわ。フィーは?」

「おかしいしな。俺も覚えがない」

「そ、それは・・・」

答えに詰まり、下を向いてしまった。

愚かな人。

そんな幼稚な言い訳が通じると思っているなんて、本当に考えが浅すぎる。

カレンの言うように、フィーとカレンは何も指示をしていない。

確かに、公爵様達は私達と帰ったが、わざわざお2人が帰りましたよ、と教えたりしない。

フィーとカレンが、私を心底心配している様子を見ていたのに、誰がわざわざ報告するのだろうか?

余計な事を言えば、火に油を注ぐ事となり、より状況は悪化する。

前回のことがかるのだから、少しは学んだかと思ったが、どうもさっぱりのようだ。

殿下は、本当に甘やかされていたのね。

「ほら、言ってみなさい。誰から報告を受けたのかしら?」

素直に見てました、とか言った方がまだ良かったのに。

そんなふうに私を見ても、もう助けないわ。

「その・・・」

「さっきまでの威勢はどうした?自分が言ったんだろう?報告があった、という事はそれは、俺達のどちらかかが誰かに頼んだ、という事だろう?」

「あ、そうか!フィー。そう言う事よ」

「ああ、そういう事か!」

どういう事??

明らかに2人は楽しんでいる。




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