第17話週末のお出かけ
「この生地良くない?」
「うーん、欲しいですけど高いですよ」
「大丈夫、私が出してあげるわよ。他もいるならのなら遠慮なく言いなさい」
「え、本当ですか!?え、じゃあこれも?こっちも!?」
「任せなさい。いちいち聞かなくてもいいわ。欲しいのがあれば持ってきなさいよ」
「本当ですか!?カレン様大好きです!!」
だから、相手は皇女だってば。もう少し考えてよ。
クルリの対応に、もうヒヤヒヤしなくなってしまった自分も、おかしくなったのかもしれない
ともかカレンとクルリと大騒ぎしながら、色々な生地を出しては、小説を確認し、生地を重ねながら喋っている。
今日はお2人が約束通り遊びにきた。それも朝9時にこられた。
私は準備してたのだけど、お母様とお兄様が慌てて準備し、朝食もせずに挨拶しに来たのが、悪いけどとても笑ってしまった。
だってお母様は化粧が完璧じゃないし、お兄様は髪型が決まってなかったのだもの。
いやあ、滅多に見れないわ。
ちなみにお父様は会議があるからと出かけていなかった。
それから少しお話して、新しい服を思案中なんです、のクルリの一言に、
生地屋へ行こう!
と、カレンが言い出し今に至っている。
初めて生地屋の方に来たけど中々楽しい。
隣はドレスを仕立てをする場所で、そっちは行ったことがあるけど、裁縫は得意じゃないから、用がなかった。
でも、生地もそうだけど、糸や、ボタン、飾り等、本当に沢山あり、見るだけでも楽しかった。
それに、クルリが元気になって良かった。
いつも王宮のお茶会から帰ってくると、辛そうな顔で言葉少なくなる。私が何も言わないから、クルリも愚痴もなく側にいてくれるが、何を言いたいのかは分かっている。
「どうした?今日は静かだな」
隣に座るフィーが声掛けてきた。
「まあね、もう何言っても聞かないし、それに、2人とも楽しそうだしね。でも、警護が凄いね」
「そうか?これでも甘いほうだがな」
仕立て屋と生地屋を全部貸し切りにし、表門も裏門、他の入口は、もの凄い帝国の警護が張り巡らさている。
「これで?ふふっ、やっぱり規模が違うね」
「そうか?帝国にいた頃ははもっと多い護衛の中で動いていたからな。襲われる事もあったからね」
「・・・やっぱり、世界が違うわね。笑いながら言う事じゃないわよ」
「そうか?・・・それよりも、スティングの方がかなり辛い立場になっていると思うがな。なあ、何故あの時誰も助けなかったんだ?まるで見て見ぬふりをするかのように、教員も生徒も、誰も、だ」
心配そうに、それでいて怒ったように聞いてきた。
「それは・・・私がお願いしているから。国には色々派閥があるでしょう?私を助けようとしたら、いざこざが起きてしまうから、黙って見るようにお願いしている」
「だが、あれは酷いだろ!?」
「そんな事ないよ。私は気にしていない。殿下は今は・・・レインがいるから少しおかしく見えてしまうかもしれないけど、それまではとても優しくて、私の事を気にしてくれていた」
スティング、いつも私の側にいて欲しい。
スティング、いつも私の事を考えてくれるな。
スティング、何か欲しいものがあるか?何でも買ってやるよ。
私は、スティングを愛しているよ。
「・・・殿下は・・・」
スティング、レインの邪魔をするな。
スティング、何故レインに冷たくするんだ。
スティング、レインはお前と違って何も持っていないのだ。
レイン、私はずっとお前の側にいるよ。
「・・・今・・・だけよ」
フィーに言っているのか、自分に言い聞かせているのか分からなかった。
ただ、何だか虚しく感じた。
フィーはそれ以上何も言わなかった。ふっと外を見ると、殿下とレインが見えた。
はっとし、すぐに入口に行きそっと扉を開けた。
扉の前には帝国軍の護衛がひしめき合って、ちゃんと見えなかったが、学園でいる時よりも、とても楽しい顔と、声がきこえた。
私には・・・見せた事の無い、微笑みと、眼差しに、今までの中で最も胸を痛くした。
そっと扉を閉めた。
「スティングはもう少し、好きなように生きた方がいいよ」
フィーが近づき、不思議な事を言った。
「私は好きなように生きてるわよ?」
「それは、ヴェンツェル公爵令嬢スティング、としてだろ?ただのスティングとしては、どうなんだ?」
「ただのスティング?」
とても楽しい声が聞こえた。
そう言えばクルリのあんなに嬉しそうな顔、初めて見た。
フィーもカレンも、私の知っている皇族の顔を、私の前ではしない。
カレンもあんな大声で笑うなんて許されないのに、自然に笑って、言葉も違う。
フィーも、何故そんな切なそうな顔しているのだろう?そんな顔、見せたら弱みを握られそうなのに、何故私に向けているのだろう。
そう言えば、さっきの殿下もそうだった。
私?
私は・・・?
「どうしたのスティング?誰かいたの?」
「あ・・・ううん。帝国の警護を見たかったの。カレンこそどうしたの?」
「クルリがね、リオンの服も作ってくれる、と言ってくれたの!」
「良かったね」
「それでオリジナルで2人の服を考えてくれるんだって!」
はい?
「勿論小説のビビの服は全部作ってもらうよ!」
はい?
「この小説は、ビビの服を毎回変えてくるから、着がいがあるよね!」
はい?
「あ、そこの人、お茶入れて。ついでにお腹空いたら何か用意してよ」
はい?
「か、かしこまりました!」
「もう・・・カレン待ってよ。とりあえずお昼食べに行こうよ。近くに経営しているお店があるから、そこに行こう。もう連絡してあるの」
「よし、では事件解決の前に腹ごしらえよ!!」
「おお!そのセリフありましたね!!」
「はいはい、 行くよ。ほら、お店の人に少し休憩させて上げてよ」
「休憩?何言ってるのよ。私達をもてなす事に、命をかけるくらいの意気込みがあって当然でしょ」
産まれながらの高貴な存在は、言葉1つにしても支配者の威圧を放つ。
「も、申し訳ありません!!」
だから店員も、当然泣き出し土下座してしまった。
「・・・カレン、出ようよ」
「うん♪」
「ごめんな、自由な奴だから」
ため息をつき、フィーが謝ってきた。
「ううん。凄く楽しいよ」
本当にそう思ったから笑って言ったら、ほっとした顔で優しそうに微笑んだ。
「そんな顔をいつもして欲しいな」
顔を真っ赤にしながらそう言うと離れていった。
ん?
まただ。
フィーを見て、何か胸が痛い。
何だろ?
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