有給休暇を要求する!
暑い日差しの中、ミラは悠々とパラソルの下、ビーチチェアに寝て、フルーツたっぷりトロピカルジュースを飲んでいた。
「おっ!10年後の美女がいるぞー!10年後付き合わないー!?」
波乗りジョニーは今年も健在だ。ミラをナンパしてる。
「大丈夫よ。10年後も相手しないから」
「うわ!つれないなーっ!」
アハハと笑って、サーフボードを抱えて、波打ち際へ走っていく。
「あいつ、相変わらずだなー」
「重々しい空気を軽くしてくれて良いじゃないの」
リヴィオがそう突っ込むが私は師匠VS弟子対決になりそうな展開の深刻さをなるべく避けたいと思っていた。
サングラスをヒョイとあげるミラに大神官長様はさすがに怒った表情を珍しくみせた。
「なに、呑気なことしてんですかーーっ!?」
「あら?鉄壁の師匠の微笑みが崩れたわ。珍しいわー。思ったより遅かったわ」
ニッコリとミラは笑う。
「あなたって人は……陛下もわたしもアリスンも皆が心配しているのに……」
「良いじゃないの。処分される前に楽しんでおいても……ねぇ?魔物がいなくなり、力が消えた私は用済みでしょう?師匠は私をそのために買って弟子にした。役目は果たしたわ。煮るなり焼くなり、お好きにどうぞ!よ。」
言っていることは深刻さを増しているのに、彼女の声は明るかった。でもそれは心が痛くなるくらい明るさを装おっていることがわかる。
「覚悟しているんですね?」
大神官長様が真夏の明るい太陽とは対照的に暗い顔をした。リヴィオが待て!と叫ぶ。私も焦って、バッとミラと大神官長様の間に入る。
「だめよ!ミラは私が預かるわ!……と、陛下に伝えてちょうだい」
「なにを言うんです?他国に渡さないためのきまりなのに預けるわけにはいきませんよ」
私はあら?と笑う。
「ミラはあれだけの働きをしたもの。休暇を要求します!有給休暇よっ!休暇も貰えないなんて、ブラックすぎるわ」
「休暇……ですか?そのユウキュウ休暇ってなんですかね?」
それに!と私は二人の顔を交互に見る。
「素直じゃないのは師弟同士、同じよね。本当はお互いに心配してるんじゃないの?」
うっ!とミラと大神官長様は言葉につまる。
「力が戻らないミラに他の追手がくれば容赦しないだろうし、もし反撃すれば反逆罪。トーラディム王もそれを踏まえて、ミラの師匠の大神官長様なら解決策を上手く見つけてくれると思って、信頼して命じたんじゃないの!?ミラはミラで陛下や大神官長様の立場を悪くしたくないとか思ってるんじゃないかしら!?」
リヴィオがなるほどなーと背後で言う。大神官長様はプイッと目をそらしてギラギラ眩しい太陽のほうをみた。しばらく沈黙。ミラも明後日の方向を見て、何も言わない。
なんなのかしら?この子供っぽい二人の仕草は!?しかも反論無しで、まるっきり図星なの?この師弟、似た者同士すぎる!
「……ミラ、えーと、とりあえず休暇という形で陛下に掛け合ってみますよ」
沈黙を破ったのは師のほうだった。そのかわり……と付け足した。
「黒龍の守護者を信用してのことです。ここから離れたり居なくなることがあれば、次はわたしではなく、きっと本物の追手がきますよ。それを命ずる陛下の気持ちも考えてあげてくださいね。今、見るに堪えない焦燥ぶりなんですよ?とりあえずここにいてください。彼も大変なんですから……ミラだけ特別扱いするのかと周囲から言われてしまいます」
「わかってるわ」
楽しげな夏のビーチには合わない、深刻なやり取りをする二人だった。
「大神官長様も久しぶりに温泉に入っていきませんか?」
私の言葉にフッと場の空気が緩んだ。
「そうしますかね……温泉に入ってから帰ることにします。わたしもユウキュウ休暇ほしいですー」
そう言って、大神官長様は思いを馳せるように真夏の海の遠い先をみつめていた。
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