時を越えて出会う者たち

 護符の輝きと共に5人の人影が現れた。一番先にリヴィオが私に駆け寄り、腕を掴む。


「なにしてるんだよ!早く呼べよ!」


 リヴィオがいきなり怒鳴ったけれど、強い語気とは裏腹に心配そうな表情をしている。私を上から下まで見て無事を確認し、ホッとしている。


「セイラ!無事!?大丈夫!?」


「びっくりしたよ。怪我はない?」


 ミラとヨイチが声をかけてくれる。


「私は大丈夫よ。来てくれてありがとう」


「セイラが狙われることはわかっていた!だけど……そう簡単にいくと思うなよ」


 そう言ったリヴィオは私に近づけさせるか!と相手をジッと見据える。


「な、なんで……こんな………」


 ガルディンが震える声を必死で発していた。守護者が全員揃うことは、予想外だったのだろう。


「ここはおまえの国か。おまえの国があったはずの場所だな。亡国はまだ形を残していたか……」


 トーラディム王が冷たさを含む声で、そう言って、続ける。


「久しぶりだな。俺の前には現れてくれなかったのはなぜだ?あの時以来だ。少年王ガルディン。セレナとルノールの長と共に会談をしたことを覚えているか?君の国が作っている物は危険だと警告したはずだ」


 目を見開くガルディン。トーラディム王の空色の目に鋭く射抜かれ、後ろへ下がる。


「なぜ、そのことを!?過去の……き、記憶を持っている!?まさか!?あの時のトーラディム王なのか!?」


「そうだよ。時を越えて君を止めに来た。いや、やり直しに来たという表現が正しいのだろうか?あの時の王の転生者だ。ミラは見た通り、ルノールの長の転生者だ。兵器を止め、君はもうゆっくりと眠るべきだ」


 帯剣していた細い剣を抜くトーラディ厶王。シュッと空中から杖を出すミラ。恐怖の顔に変わるガルディン。二人の力がいかに絶大な物なのか、身をもって歴史の中で知っているのだろう。恐ろしさのためか、ジリジリと後ろへ下がっていく。


「もっと強く、あの時、止めておけばよかった。ずっと後悔していた。君の婚約者を救えなくて申し訳ないとも思った。だけど、彼女はこんな魔物で蹂躙される世界の破滅を望んではいなかっただろう?君の婚約者のセレナは平和を願う、優しい女性だった」


「助けてくれなかった、お前たちがいまさら言える言葉はなにもない!セレナの名を出すな!」


「でもガルディン、今こそ、世界が滅びる前にあなたを止めるわ。それであなたは終わりの時がくる。言い残すことはないの?」


 トーラディム王に噛みつくガルディンへ冷たい言葉を浴びせるミラの表情はいつもの朗らかさは消えて、無表情だった。ガルディンは追い詰められていく。顔を歪める。


「なぜだ!なぜ神はおまえらに味方をする!なぜ三つの国だけ守護をするんだ!?神が守ってくれれば、こんなことにならなかったかもしれないのに!破滅することがどういうことかお前らにも教えてやる!そろそろ、魔物が食いたいと見つけにきたぞ!おまえたちなんて食われてしまえばいい!」


 なぜ三つの国だけ守護をするのか?それを答えられる者はこの場にはいない。黒竜のアオならば教えてくれただろうか?


 ドンドンと広間の扉に体当たりする音、ガラガラと崩れる天井。ガルディンが黒い空間へ同化して消えた。


 話を横で聞いていたリヴィオがハッとして我に返り、叫ぶ。


「ヨイチとアサヒに魔物を任せる!俺たちは魔物の発生装置を破壊する!」


「わかった。魔物を殲滅するのは僕らに任せろよ!」


「周辺は綺麗に片付けてあげるよ」


 アサヒがそう言うと筆を取り出す。ヨイチがやるか!と文字をスッと空中に書き出す。双子の少年たちは好戦的で、無邪気だ。気持ちが高揚しているのが伝わる。描かれた文字が光を放ち、暗闇を照らす。


「白銀の守護者達、気をつけろ。魔物の発生装置は地下だな。行くぞ!」


 トーラディム王が駆け出す。地下へ地下へと潜って行くように進む。黒い獣を倒して進むが、まるで湯水の如く湧いてくる。倒す度に無限とも言えるペースで生まれてゆく。


 黒い色をした物体は、怒り、悲しみ、嫉妬などすべてのマイナスの人の感情が感じられる。黒い空気が心にまで染み込んでいきそうで、暗く、挫けさせようとする。


 私は魔法の炎を放って応戦し、倒す。トーラディム王が何体か倒した時に緊迫した声音で言う。


「こうしていても埒が明かない。光の鳥を呼ぶ!黒竜も呼び、一気に攻めるか!?」


「このままじゃ、魔物が多すぎて前へ進めない。短期決戦が良いな。このままでは数で圧されて、こっちがやられる!」


 進めば進むほど魔物の数は増えてゆく。リヴィオは剣を一閃させて、また一匹倒しながら答えた。


 ザワッとした気配が生まれる。光輝く圧倒的な力がこの場所に集まった。黒い力すら、その気配を避けているように感じた。


「人の体を使い、互いに話すことになるなど不思議なもんじゃのう」

  

 リヴィオに宿ったアオ……黒竜がそう言う。トーラディム王は目を開けて黒竜を見た。


「確かに……おや?ルノールの長、久しぶりだね。元気にしていたかい?」


 ミラに光の鳥が話しかける。苦笑するミラ。


「ルノールの長では、もう無いわよ」


「愛しい人を見間違えない。その力の色はルノールの長だ。会えて嬉しいよ」 

 

 私は、まさか!?と驚く。


「光の鳥の想い人って!?ルノールの長だったの!?」


「その通り。ただし、片思いにすぎない。彼女はトーラディム王一筋だからね」


 何言ってるのよ!とミラがやや顔を赤くして、言う。黒竜のリヴィオが呆れたように見ていたが、口火を切る。


「感動の再会は後にするのじゃ。行くぞ」


「黒竜は相変わらず真面目だな」

 

「おぬしが、馬鹿なことを言ってるだけじゃ。ルノールの民に恋をするなど、バカバカしい!」

 

「その会話は昔から、ずーーーっと平行線だな」


 神様が揉めだしている。私はそろそろ止める。


「宿せる時間は少ないわよ」


 二人の神はそうだと言って、ニヤリとした。今こそ、思う存分、力を奮う!と好戦的に笑う。

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