【年末は師も走るくらい忙しい】

「セイラ様ー!大変です。」


 クロウの久々の大変です!……久しぶりにこのセリフ来たわね!私は身構える。


「リヴィオ様のお祖父様、お祖母様がお見えになりました」


 こんな年の暮れに!?


「ちょっと顔を見たくなってね。ルイーズが寂しそうだったから」


 相変わらずぼんやりとした眠そうな顔の祖父ウィリアム。


「何言ってるんですか!寒いから温泉に入りたいなーとか言って、無理やり予定組んだのはあなたでしょう?」


 いつもどおり元気な祖母ルイーズ。


「ま、まあ、ようこそ。リヴィオはカシューへ行っておりまして、午後には帰ってきますわ。屋敷のお風呂も改装しましたし、良かったらのんびりお過ごしください」


 ありがとうと言うウィリアムの後ろでメイド達が部屋の用意に慌てている。……みんな、ごめんね。


 仕事へ行くと、スタッフ達がバタバタしていた。


「どうしたの?」


「あっ!女将ー!」


 これ見てくださいよー!と箱がドーンと並べられている。小さいメモが貼られている。


『セイラ嬢へ  大量に仕入れてしまったから、君にもプレゼントだよっ☆よろこんでくれたまえ☆  ゼキ=バルカンより』


 メモ書きにも☆をつけるのは年齢的にも、止めたほうが……じゃなくて!箱の中身よ!


「いったい……これは!?えええええ!!」


 コーン!?大量のポップコーン用のコーン。


「ゼキさん、パーティでもする予定だったんですかねぇ?」


 困惑しているスタッフ。私は呆然としたが、すぐ行動に移す。……こういう時は!


「これはすごいのだー」


「でも楽しいのだーっ!」


 トトとテテがポップコーン製造機を持って、やってきた。


『ポップコーン大好きなのだ!任せるのだ!』


 なんて、心強いことを言ってくれる。ありがとううううっ!と手を合わせる。


 そうしているうちに、リヴィオが帰ってきて、気難しい顔をしている。


「ど、どうしたの?」


「カシューの方の山道が大雪で封鎖してしまったんだ。今から、もう一度行って、修復の段取りしてくる」


「待って!あなたのお祖父様とお祖母様が来てるのよっ!そっちは私がしてくるからっ!」


「はぁ!?なんだって、急に!?……ほっとけよ。勝手に楽しんで帰っていくだろ」


 そういうわけにはいかないのよ!と私はリヴィオの仕事をもらい、カシューへとぶ。


 雪崩が起きてしまってきたらしく、普段はあまりしない魔法で雪を吹っ飛ばして除雪して、帰ってきた私を待っていたのは……。


「あっ、セイラ様!」


 ナシュレの街のお医者様。アランだった。


「どうしたの?」


「今年は風邪にかかる者が多く、発熱用の薬草を使い切ってしまいそうなんですが、どこも同じようで、品薄状態なんです」


「なるほど……それで、相談にきたのね……そうね」


 私はバッと身を翻す。エスマブル学園へ行く。薬草学のドリー先生なら、なんとかできそうな気がした。ドリー先生も忙しそうでバタバタしていた。


「ごめんなさいですワ!もう忙しくて、手が貸せませんのですワ!あそこ温室がすべて熱冷まし用の薬草ですから、欲しいだけ、摘んで、持っていってほしいのですワ」


 申し訳無さそうにそう言われる。


「いえ、頂けるだけで、ほんとに助かります。ありがとうございます」


 私はかごを借りて、薬草を摘んでいく。温室の中は冬のため、ちょうど良い暖かさだ。


「セイラが来てると聞いて……なにしてるんだ?」


 ジーニーが顔を出す。


「ナシュレで薬草が不足してるの。申し訳ないけど、分けてもらいにきたの」


「……で、自分で摘んでるのか!?そういうときは手伝いを頼むものだろう?」


 そう言いつつ、ジーニーも一緒に摘んでくれた。


「ありがとう!助かったわ……このお礼は今度するわっ!」


「まぁ、別にこれくらいは良いよ。忙しそうだな」


 慌てて魔法陣を描き、転移魔法で消える私をそう言って見送るジーニー。


 薬草を渡して、ポップコーンの方へと行く。旅館内はとてもポップコーンのいい匂いがした。


「トト、テテありが………と!?!?これ全部ポップコーン!?!?」


『そうなのだーっ!』


 大広間に積み上がるポップコーンの山。私は思わずうーーんと唸る。


「食べても食べても減らないのだ〜♪」


「セイラも食べるのだ!」


 喜んでいる双子ちゃんは私の口にもポップコーンを入れる。


「お昼ご飯、食べる時間なかったから、ちょうど良いわ」


 食べつつ、私はヨシッと気合を入れ直す。もうひと頑張りね!


「トト!テテ!ポップコーンに味付するわよ!」


『了解なのだーっ!』


 定番の塩、バター、キャラメル味、カレー味、のり塩味、チョコ味……などを用意し、袋詰めして、小さなリボンでとめていく。


 旅館のスタッフ達も手伝ってくれた。


「これ、どーするのだ?」


 私はにっこり笑った。


「子どもたちにプレゼントよ!無料で配るわよ!ナシュレはトトとテテ、頼むわね!」


 他にも旅館の宿泊客、スタッフ、屋敷の人、達、カシューの子どもたち、王都の子どもたち、学校に行っている子どもたちなど、幅広く配った。皆が喜んでくれる顔に私は嬉しくなった。


 ……が、さすがの私もクタクタだった。師走とはうまいこと言うものねと執務室のテーブルに突っ伏す。お風呂に入った後は、もう体も瞼も重くて眠りに落ちそうだ。書類の仕事をしようと思ったけど無理そう。


 リヴィオが悪かったなーと部屋に入ってきた。


「おい?大丈夫か?」


 もう一歩も動けない……と、私は眠くてこのままここで寝かせてほしいと半分夢の中だった。


「やれやれ……頑張りすぎなんだよなぁ」


 ヒョイッと私を抱きかかえて、部屋のベットまで運んでくれたリヴィオだった。部屋まで行く時間はユラユラとして、温かさを感じられて、幸せな気持ちだった。……フフッと笑う私に、起きてるのか?とリヴィオが尋ねたが眠くて返事はできなかった。


 私、今日は眠りつく前に、最高のご褒美もらえた気がするわと思いながら、一日を締めくくった。

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