ステラとレオンの結婚

 よく晴れ渡った青空が馬車の窓から見える。その日は朝から賑やかだった。祝砲が鳴る。王都の家々に花輪が飾られて、街の至る所にお祝いの旗が掲げられた。パレードが行われて、花が風に舞う。


「ロマンチックねー!」


「さすが、盛大だな」   


 招待された私とリヴィオも街の様子を見ながら馬車で通り抜ける。これから結婚パーティーに招待されており、王宮で行われる。


「レオンもなんのかんの言っていたけど、覚悟を決めたみたいだしな……でも王家と揉めたときに、あいつを相手にすることになると思うと気が重い」


 リヴィオが眉をひそめる。正装した彼は相変わらず、見た目がリアル王子様だ。今日は黒の詰め襟の服。髪の毛もしっかりセットしている。私もブルーグレーのドレスを着て、正装している。


「そうならないようにしましょう」


 だと良いんだけどなーとリヴィオは馬車から王宮を眺める。海の中の王宮は何度訪れても美しい。今日は晴れているので、遠くからでも、はっきりと城が見えた。


 着いて、まずは主役の二人に挨拶へ行く。


「セイラさんお久しぶりですわ。来ていただいて嬉しいですわ」


「ステラ王女、おめでとうございます!お招きありがとうございます。とてもお綺麗です!」


 ありがとうと微笑む王女はレースが幾重にも重なり、細かい部分刺繍がほどこされた見事なドレスを着ている。頭には宝石が飾られたティアラを着用。さすが王女様、華やかである。


 その横にレオンが白い軍服のような格好でいたが、彼もまた格好いい!スラリとした身長、優しげなのに、どこか人を油断させない雰囲気がある。


「ステラ王女殿下、並びにレオン=カムパネルラ様には良き日を迎えられたこと、お祝い申し上げます」


 スッと胸に手を当てて、二人にお辞儀し、きっちり口上を述べるリヴィオ。私も慌てて、ドレスの裾を持ち、一緒に頭を下げる。


「やだなぁ。二人から、そんなかたい挨拶は受けたくないな。リヴィオにそんなのは似合わないよ」


 フワッと笑うレオン。リヴィオは顔をあげる。ステラ王女はクスクス笑い出す。


「ホントですわ。お二人にはいつも通り気軽に接してほしいのですわ。わたくしは大切なご友人とも兄や姉のようだと思ってますのよ。本日の日を迎えられたのもお二人のおかげです」


「嬉しいお言葉です」


 ニッコリと私は微笑むと、リヴィオが形式だけきちんとしておかないと……とチラッと視線を走らせた先には……。


「挨拶は済んだか?」


「あら?リヴィオとセイラさん!」


 カムパネルラ公爵家のハリーとオリヴィアがいた。彼の両親は微笑みを絶やさないが、常に目を光らせていた。公爵家次男のレオンが王家に入る。それは敵もまた増えることに違いない。

 

 リヴィオと私は他の貴族たちにも挨拶し、やっと壁際へ行き、休憩することができた。社交の場は大変すぎる。


「ふぅ……」


「疲れたか?大丈夫か?」


 大丈夫よと笑う。リヴィオは社交の場にだいぶ慣れたらしく、挨拶も上手くて、私はその横で微笑むだけでいいので、助かっている。


「リヴィオは伯爵が身についてきてるわ。すごいわね」


 私が褒めるとリヴィオは少し照れた顔をした。


「そうでもない。実は時々、嫌味をうまく聞き流せないことがある。それにセイラも温泉の経営、がんばってると思うぞ」


 私とリヴィオが顔を見合わせて、フフッと和やかに笑い合おうとした瞬間、盛大に邪魔が入った。


「やあ!リヴィオ!元気だったか?こないだの飲み会では……なぜ、そんな嫌な顔をしている?」


 ゼイン殿下がイーノを引き連れてリヴィオに声をかけた。


「いや、別に……今のわざとじゃねーよな?」


「なんのことかな?」


「リヴィオとセイラを邪魔してやろうと言ってやってきました」


 とぼけるゼイン殿下に横からイーノが正直にボソッと言う。


「なんでそんなことすんだよ!?」


 リヴィオが言うとゼイン殿下がステラ王女とレオンをジト目で見た。


「妹達が幸せそうだから、気晴らしだね」


「オレらでするなよっ!」


 なんだか、リヴィオはからかわれる素質がある気がした。エイデンにしろゼイン殿下にしろ……リヴィオはモテるわねとクスクスと私は思わず笑う。


「なんでセイラは笑ってるんだよ?」


「なんでもないわ。殿下、そんな卑屈にならないで、パーティーを楽しみましょう」


「ひ、卑屈ー!?」


 私の一言にゼイン殿下が傷ついた顔をした。


「あ、ごめんなさい。余計な一言でした」


「なにげに一番ひどい人はセイラさんのような?」


 イーノがそう言うと、ダメージを食らって静かになった殿下に行きましょうと声をかけ、引きずるように、連れて行ってくれた。

 

 パーティー客がざわりとした。荘厳な音楽と共に女王陛下が現れた。


「皆、今宵は我が娘のために集まってもらい、感謝しておる!存分に楽しんでいかれよ!」


 わあああ!と歓声がおこる。盛り上がる会場はダンスの音楽がかかりだし、飲んで食べて踊って話して……若き二人の門出を祝ったのだった。


 ステラ王女は頬をバラ色に染め、レオンは優しい笑みを浮かべ、本当に幸せそうだった。長い片想いが実った瞬間に、私は姉の様な気持ちになり、おとぎ話の王女様のように、いつまでも幸せにいてほしいと願った。

 


 

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