【リヴィオの悩み】
最近、様子が変だ。
リヴィオが悩ましげにしているのだ。例えば今朝のことだった。
目玉焼きとゆで玉子どちらにしますか?と給仕係が尋ねた。
「私は目玉焼きでお願いするわ」
かしこまりました。そう言って、しばしリヴィオの返答を待つ。……が、ボーッとしている。
「リヴィオ、どうしたの?」
私が声をかけてようやく、はっ!と我に帰る。
「えっ!?ああ……なんだ?」
「卵料理を聞かれているけど……」
「たまご……生たまごを混ぜて……」
ブツブツと言うリヴィオ。いや、調理法聞かれてるわけじゃないと思うの。
「あのぅ……目玉焼きとゆで玉子どっちにされますか?」
給仕係がもう一度尋ねた。
「あっ!悪い。目玉焼きで頼む」
やっと望む返事が返って来て、ホッとして給仕係が下がっていった。
またある日は、ボンヤリと窓の外を眺めていた。
私にも気づかないらしく、ヒョコッと顔を出すと、リヴィオはギョッとした。
「うわっ!帰ってきてたのかよ!?気配消すなよ」
「ええっ!?普通に入ってきたのよ」
そうか?と言い、また窓の外を見ている。
外になにがあるわけでもない。紫陽花が雨に打たれて青やむらさき、ピンクが淡い色合いで咲き誇り、とても綺麗だ。
でも花を愛でる性格でもないわよね?不思議だわ。
私は首を傾げるしかなかった。
ある夜、旅館の仕事から返ってくると、ガチャガチャと厨房から音がした。私はヒョコッと覗いて見る。
「リヴィオ!?何かしてるの?」
「あ、ああ。うん」
夢中のようで、私に適当な返事をする。
麺らしい物を揚げている、テーブルの上には幾通りの細さに切られた麺がズラリと並んでいる。
これ、もしかして?
「はー、うまくいかねー。前々からしているんだが、うまくいかないんだよなぁ」
揚げた麺をスープにぽちゃんと入れた。懐中時計を眺めている。三分待ってる?
高級そうな懐中時計を見ながら貴族風の坊っちゃんが3分待つ姿は微妙よと言いたいのを我慢した。
それを言うには場にそぐわない。
なぜならリヴィオは真剣すぎる表情をしていたからだ。
「もしかしてインスタントラーメン?」
変わりに予想した食べ物を当ててみる。
「そうだ。……食べたくならないか?」
夜にカロリーの高いインスタントラーメンを試食とか……悩む。しかし食べたい。
「食べたい……デス」
そうか!と意気揚々と私の目の前にラーメンを置いた。
ホワホワ湯気が出ている。香りは良い。
チュルルンとすすってみる。スープは和風。チキンラーメン風。麺は細麺だが、やや硬いかも。でも味は……。
「美味しい!チキンラーメンっぽい!」
私の褒め言葉にリヴィオはうーんと唸る。
「でも違うんだよなぁ。再現難しすぎる!!」
そういえば、あの祖父のレシピノートもかなり細かく書いてあったし、研究熱心らしい。
「普通のラーメンじゃだめなの?」
「インスタントと生麺のラーメンは違うだろ?」
「そうね。でも私は炒めた野菜とか分厚いチャーシューとかシナチクののったやつとか、そんなラーメンも好きよ」
どうしてもインスタントラーメンじゃなきゃってわけではない。
しかしリヴィオは違った。
「それはそれで美味しいが、別物だ」
真顔で言う。そんなになのね。
私はリヴィオの悩みがわかってスッキリした。
その数日後だった。
「完成した!どうだ!食べてみてくれ」
ドーンと得意げに腰に手を当てて、トトとテテ、ジーニーまで呼んで、試食会を開いた。
お湯をヤカンから注ぐ。
公爵家の三男であり、伯爵位も与えられた貴族に見えない……どうみてもその姿はシンヤ君だわ。
ド・庶民です。
まあ、良いんだけどさ……ハスエシンヤ君ってどっかの会社の社長の息子さんじゃなかった?カホの記憶はうろ覚えではあるが、そう私に知らせている。
そんなことを考えて、3分経過。
冷める前に、フーフーさせつつ、チュルルと一口食べる。
鶏ガラ出汁と醤油味っぽい……美味しい。
まさしくインスタントラーメン!!
「前回よりスープの味も近いし、麺も柔らかい!」
私が言うと、そうだろ!?とリヴィオは嬉しそうに、ガッツポーズをした。
「普通のラーメン食べたいのだ」
「分厚いチャーシューのラーメン食べたいのだ」
だが……トトとテテの反応は薄かった。フゥとため息をつきながら、クルクルとフォークに麺を巻き付けている。
「うーん、美味しくないわけじゃないけど、僕も前に食べたやつの方がいいな」
控えめにジーニーも生麺推しらしく、そう言う。
「ええええっ!?なんでだよーっ!?」
「私は良いと思うけど、どちらかと言えば袋麺のサッポ○一番味噌味が好きだから、それを研究してほしいわ」
私の要望にリヴィオがマジか……と呟く。
「なんだ?その呪文みたいなサッポ○一番味噌味とは?」
「あっちの世界のインスタントラーメンは種類が多いんだ。色んな味やメーカーがある」
リヴィオがジーニーに説明する。トトとテテはラーメン食べたいとぷぅと頬を膨らませている。
「それが成功したら、また商品化できると思うのよねっ!」
「おい……?商品?セイラはたくましいな……オレはそこまで考えてなかったぞ。食べたいという欲求のもと、純粋に作っていた。まぁ、良い案かもしれないが、この世界に受け入れられるだろうか?」
あ、納得。なるほど。
だからレシピノートには色んな物があったけど、巷に流通はしなかったのね。
職人気質なリヴィオとシンヤ君であった。
『ラーメン!ラーメン!』
ラーメンスイッチが入ってしまった騒ぐ双子ちゃんのために炒め野菜と分厚いチャーシュー入りのラーメンを作ることになったのだった。
リヴィオだけはそのようすを渋い顔で眺めていた。
インスタントラーメン、流行らせることはできるのか!?………続く!かもしれない!?(笑)
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