アオの願い

 チリリン。自転車のベルが鳴る。


「フフン。どうだ!?」


 リヴィオが得意げに自転車に乗っている。……いつの間に!?


「練習したの?」


「いや、シンヤの記憶で感覚がわかった」


 そっか!と納得。


 しかし自転車は私だけの特技だったのになぁと心狭いことを思うのだった。


「まあ、シンヤ君なら乗れるわよね……ちょっと悔しいけど。いいわ。リヴィオも一台自転車を作ってもらう?」


「いや、いらねーかな。転移魔法の方が楽だ」


 ……私とリヴィオは黒龍の紋章が腕に刻まれた瞬間から無尽蔵の魔力があることとなった。転移魔法も回数制限無しだけど。あまり利用する気になれない私だ。


 リヴィオは……まぁ、毎日鍛錬してるから移動手段として転移魔法使っても良いだろう。


 私は運動不足になるから、なるべく歩いたり自転車に乗ったりしよう。


 以前のダイエット騒動が頭をよぎっていたのだ。健康のために運動を意識的にしなければ!


 アオが気持ちよさそうに日向ぼっこしていて、顔をあげた。


「のんびりな空気を壊すのだが、そろそろシン=バシュレの役目を引き継いだ自覚を持ってほしいのじゃ」


 私とリヴィオはアオを見た。


 ………真剣に言っているはずなのに、何故かほのぼのとした空気。


 とりあえず日向ぼっこ止めてから話してくれるだろうか?ゴロゴロとしている猫に言われると危機感がいまいち出ない。


「シン=バシュレの記憶があるから、わかってる」


 リヴィオがそう応答する。


「今のところは傍観で良いだろ。トーラディム王国の現国王が病で寝込んでいるらしいからな。あの国の協力を得られないなら、事が成り立たない」


「えええっ!?まだ若いんじゃ??」


「もともと身体が弱いらしい。次期王は誰になるのか……息子が3人いたよな。国が落ち着かない限りは動かない方が良い」


 アオがまぁ、そうなのじゃがのぅと言う。


「アオの望みは……」


 とりあえず知らない私が問いかけるとアオが確認するようにゆっくりとした語調で言う。


「魔物の発生の原因を突き止め、封じることじゃ。魔物さえいなければ妾はそんなに、この国のことを憂えずとも済むと思っておる」


 私は真面目な顔で頷いた。アオの願いはこの世界の人達の願いでもあろう。


 そして謎を突き止めるにはこの国よりも……。

 

「そのうち一度、私もトーラディム王国へ行ってみたいわ」


 アオはそうじゃの、行ってみるかのーと言ったが、リヴィオは渋い顔をした。


「セイラも本当に関わることが必要なのか?」


「くどい男じゃのぅ。セイラはシン=バシュレの役目を引き継ぐと契約し、覚悟を決めてるのにグダグダ言うのは……ニャッ!何する!」


 首を掴んで持ち上げるリヴィオ。ニャッ……って、アオ、猫化してきていない?可愛いけどいいの?


「黒龍、葬った方がオレとセイラは平和に過ごせるかもしれねーな」


「リヴィオ!もうっ!!乱暴しないのっ!」


 私は慌てて、アオをリヴィオから取り上げて、抱きかかえる。彼の金色の目が本気っぽい!


「見た目に騙されんなよ!」


「シンとリヴィオはこれだから嫌なんじゃー!敬わないどころか乱暴なんじゃっ!」


 シャー!と牙を剥くアオ。仲良いのか悪いのかわからない二人。


「アオ、わかったわ。役目もきちんと果たすし、考えていくわね」


 私にありがとうにゃーとスリスリする可愛いアオ。ニャーニャーと猫になりきってる気がする。


「王位継承は荒れる……とシンは見ていた。国のゴタゴタに巻き込まれるのはごめんだから、焦らずに様子を見ていく」  


 シン=バシュレの記憶からリヴィオはそう言う。私もわかったわと頷いて、彼には釘を差して置く。


「私を置いていかないでね」


「……追いかけてくるだろ」


 もちろんよ!と言うと、やれやれとリヴィオは天を仰いだ。  


 私に自転車を渡すと、彼は仕事へ戻っていった。領地経営は良い感じに進んでいるようで、最近は余裕さえ感じる。


 区役所的なシステムがうまくいってる!とかなんとか……。シンヤ君の記憶をそこでも発揮してるらしい。ハスエシンヤくんは頭、良かった気がする。


 私は……その……うん。セイラとカホは違うもの。カホはいまいち勉強が好きではなかった。


 しかし、いろんな事に興味があり、それも彼女の良さだと思う。


 アオが温泉に行ってこようかなと呟く。とてもお風呂を気に入ってる。


「屋敷のお風呂、改装しようかしら?サウナとかつける?」


 パアアアと顔が明るくなった気がした。


「よいのか!?」


「うん。露天風呂とかサウナとか屋敷の方にもつけたら、いつでも楽しめるわよね」


「頼むのじゃー!!前から欲しかったのじゃ。旅館のお風呂が羨ましくてしかたなかったのじゃ。言わなかったけども!!」


 お願いポーズをする黒猫の可愛さ!!私はヨシヨシと撫でてやる。


「任せて!気軽に楽しめる温泉のお風呂を作るわね!」


 目をキラッキラッさせてアオはお願いする!頼むぞ!と5回は繰り返し言った。


 その勢いに押され気味になったが、すぐベントに相談してみようと思った。


 ん??


 ふと私はひっかかる。アオの願いは魔物うんぬんよりお風呂の方が強かった気がした。気のせいかな?気のせいよね?


 神様からのお願いごと。叶えてみせましょう!


 ……とりあえずお風呂から。





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