【フォスター家の双子ちゃん】

 トトとテテが私に頼み事をしたいと二人でやってきた。執務室にくるのは珍しいことだ。


「どうしたの?」


「フォスター家、最強の人が来るのだ!」


「我らが母様なのだー!」


『すっごく苦手なーのーだーーっ!!』


 声をハモらせ、頭を抱えた。二人が焦っているのが伝わる。


「最強って何が最強なの?」


「フォスター家の中でも魔力が強くて『深紅の魔女』と呼ばれているのだ」


「父様ではなく、母様が当主なのだ」


 それは珍しいが、女王陛下が統べる国だから、否定されるところでもないだろう。


「へーっ!かっこいいじゃないのー!」


「セイラは呑気でいいのだ」


 トトにそう言われると……なんか腑に落ちないわね。テテが言葉を続ける。


「そういうわけで、母様の宿泊をお願いしたいのだ」


「わかったわ。二人にはいつもお世話になってるし、ドーンともてなすわね!」


 お願いしますのだーと頭をちょこんと下げる双子ちゃんだった。


 寒い時期になってきて、玄関の暖炉に火を入れる。パチパチと火が燃え、薪がぱきっと時々音を立てて爆ぜる。


 部屋が暖まったころに『深紅の魔女』はやってきた。黒いドレスに長い赤毛、トトとテテとそっくりのガーネットの眼をした女性だった。


「いらっしゃいませ。フォスター様ですね」


 赤色の切れ長の眼をした彼女がこちらをジッ見据えると威圧する魔眼のように強い印象を与える。確かに強そうだわ。相手を油断させないものがある。


「私のカワイイ双子ちゃんは!?どこ!?」


 は!?私は言葉に詰まった。キリッとした印象が崩れてキョロキョロ辺りを見回し、探している。私は時計を見て、そろそろ待ちあわせ時間だと確認した。


「もうそろそろ来ると思いますよ。喫茶コーナーでお待ち下さい」


 こっちですと喫茶コーナーに誘う。椅子に座ってからもソワソワしっぱなしで入り口を気にしてみている。印象がだいぶ違う。


『母様〜!』


 トトとテテの声にバッと立ち上がって駆け寄る深紅の魔女。


「キャー!私のカワイイふたごちゃーーん!」

  

 ぎゅーーっと抱きつかれている。二人は喜ぶどころか潰され、苦しそうな顔をしている。


「やめるのだっ!」


「人前なのだっ!」


 助けてー助けてー!と私に困った視線を送るトトとテテ。


「えーっと……とりあえずお部屋にどうぞ。おつかれでしょう?」


「転移魔法できたからさほどでもないわっ!」


 腰に手を当てて言う。なるほどー。転移魔法使えるほどの魔力を持ってるのね。


「か、母様!お茶とお菓子でのんびりするのだ」


「お風呂も良いのだー!」


 そうね!トトとテテとゆっくりしましょ!とそう言った。

 部屋にたどり着き、3人でお茶菓子を食べる。


「お茶菓子美味しー!これ皆に買っていってあげようかしら!?」


「みなさん……とは?」


 私はお茶のおかわりを出しながら聞くと深紅の魔女が、あら?知らなかったの?という。


「王宮魔道士してるのだ」


「あのアホ兄様と一緒にしてるのだ」


 二人が説明を入れてくれる。深紅の魔女は思い出したように言う。


「あ!そうだったわね。あのバカが失礼なことしてごめんなさいね!ちゃーんと罰は与えたわ。無口で何考えてるのかわからんないやつだけど、一応反省はしてたみたい。次にしたら、王宮魔道士の資格を剥奪するわっ!」


 母らしく、謝罪してくれる。


「あ、いえ……そういえばそんなことありましたね」


 アオのおかげで意外とアッサリ呪いは消えたのでちょっと忘れてた。

 

 パクっと柚子の風味を効かせた丸いお菓子を口にしてトトが言う。


「我らはちょっとフォスター家はでは異端なのだ」


「いいのよぉ!あなたたちにはあなたたちの才能があるんだから!だから学園に入れたのよ!大正解だったわ。さすが私のかわいい双子ちやん!」

 

 はぁ…とテテが自分たちに極甘の母を横目に見て言う。


「好きなことをしていたせいで、兄はいじけているのだ。フォスター家は魔道士になるのがキマリなのだ」


 いいえ!と深紅の魔女は力強く言う。


「そんなルールはフォスター家にはなくってよっ!当主である私が言うのだからいいのっ!私がルールなのよっ!オーホホホホッ!」


「まぁ……暗黙のルールってやつなのだ」


「マイルールの母様なのだ」


 高笑いしている魔女。いつも賑やかなトトとテテが圧倒され、ヒソヒソと私に言う。

 二人が推されてる様子は今まで見たことがなく、可笑しくて、我慢できなくてアハハッと笑うと『なんでわらうのだ!』と憮然としている。


「ごめん、ごめん。……さて、お風呂はいかがですか?こちらのお部屋にも露天風呂はついておりますが、大浴場は広くて気持ちいいですよ〜」

 

「もちろん!大浴場へ行くわよ。二人から温泉の効能を聞いて、入りたいと思っていたのよ。美しい私がさらに美しくなる予定よっ!」


 そうですねぇと和やかに私は相槌を打つ。まあ、確かに美人さんで魅力的な人だと思う。性格は……ちょっと大変だけど。


「セイラも一緒に入るのだ!」


「ええっ!嫌よ!親子水入らずで行ってきなさいよっ!」


 ガシッと双子が私の腕を掴む。

 な、なぜ!?私!?


『お願いなーのーだーーーっ!』


 どれだけ母が苦手なのだろうか。私は引きずられるようにして、一緒にお風呂へ行くことになったのだった。


 幸い、他のお客様は早い時間のため、まだお風呂には来ていなかった。静かな大浴場にカポーーンと音がする。なぜ……私もフォスター家の面々と並んで大きいお風呂に浸かっているのだろう。


「はー、いいお湯ねーー。サイコー!」


 お風呂の縁に顎をのせて幸せそうに言う深紅の魔女。いつになく静かに大人しくお風呂に入ってるトトとテテ。


「あの……あっちの薬草風呂もお肌に良いですよ。ツルツルスベスベになります!」


 私が勧めるとほんと!?後から行くわ。と目を輝かせる。


「あなた、セイラ=バシュレのことは学園の時から二人に聞いてたわ。仲良くしてくれてありがとうね」


「えっ!?いいえ……私の方こそ、仲良くしてもらってます」


 トトとテテが会話を聞いて、横で『仲良しなのだー!』と嬉しいことを言ってくれる。


「ちょっと変わり者の二人だからフォスター家では異端扱いされてたのよねー。他の一族からも色々嫌なこと言われてたし。まあ、そんな輩、私がやっつけてやったけどね!オホホホホッ!でも学園卒業後にあなたの所で工房を始めた途端に、みんなの生活に役立つものを作っていて、感謝されていて……その話を他の人から聞くとすごーく母として誇らしいのよ!」


 よしよしと二人の頭を撫で撫でするが、二人はサッと避けて『子ども扱いはやめるのだっ!』と嫌がっている。


「一度お礼を言いたかったのよ。ありがとう。セイラ=バシュレ!」


 私は照れて顔が赤くなる。


「いえ、私一人ではできず、二人を頼ったのです……なので、お礼はいらないです!」


「しかも、たまーに連絡とると、ここでの生活が楽しくて仕方ないって感じだし……帰ってこないから、あなたに、ちょっと妬けるけど、二人が楽しくしてるならいいわ」


 ふふふっと笑って、赤い目が優しくなる。トトとテテはすでに飽きて、露天風呂の方へ行っている。


「これからも二人を頼むわね」


「いえいえ、こちらこそ。二人を頼りにしてますから!」   


 私の言葉を聞いて、さーて、薬草風呂よ!と緑色のお風呂へと入っていった。


 お風呂あがりでホカホカさせながら仕事をするのは少し暑かったが、話せて良かった。勢いはすごいが、良い人だった。


 その後、なんと王宮魔道士たちの慰安旅行に旅館が使ってもらえることになったのだった。女性魔道士たちはそれだけでなく、度々来るようになった。フォスター家の深紅の魔女が『美肌効果』を熱く職場で演説したとか……。

 

「今回はほんっとに助かったのだ!」


「温泉でけっこう意識をそらせたのだ!」


 二人が感謝してくれてるのがわかるが……。


「トトとテテはなんでお母様が苦手なの?あんなに愛情深いのに??」


 『うえーっ』と舌をだす二人。


「愛情も注ぎ過ぎたら拷問なのだ」


「もう大人の我らにあんなに抱きついたりカワイイ双子ちゃんとかいうのはどうかと思うのだ」


『過度な愛情なのだ!』


 声を揃えて言う。深紅の魔女が聞いたら泣きそうだけど…。


 確かに植物も水のやりすぎは枯れちゃうものね……愛情も注ぐ量が大事なのかもしれないと思ったのだった。









 





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