第41話

「お店の焼肉」


 家に帰って5人で食事を摂っていると急にメイがつぶやいた。

 全員がスルーする。

 いや、話を変えよう。


「ユキナ、最近執筆の調子はどうかな?」

「順調よ、でも、もっとドキドキできる実体験が必要よね。例えば、シュウと一緒に過ごすとか」


 ユキナが指で僕の背中を撫でる。

 こんなことをしてスキンシップが多いけど、エチエチイベントは凄く恥ずかしがるのだ。


 ユキナは大胆に見えて、エチエチイベント耐性は無い。


「お姉ちゃん!お店の焼肉に行けば焼肉効果でいい事あるよ!」


 僕はスルーする。


「そう言えばヒマリはいつも部屋で何をしているだろ?」

「え?私!え、とぉ。スマホを見たり?きゅうを抱っこしたり?」


「スマホの焼肉おいしそうだよね!」


 メイがスマホの画面をみんなに見せる。


「それはいいとして、ユズキは最近自転車に乗ってる?」

「乗ってるわよ。でも、きゅうと散歩をしたくて、最近は走ることが多いわね」


「走ってるとお腹がすくよね!お店焼肉だよ!」


「メイ、ダメだよ。父さんも母さんも無駄な事にお金を使わないようにしてきたから今があるんだ。お金は出来るだけお金を生む物に使う方が後が楽だよ。


 収入−支出=貯金になるんだ。

 そして、余裕資金を残して全部投資に回す事で、将来が楽になるよ。


 メイには金融教育が必要だね。

 メイみたいに全部のお金を使い切っていたら何かあった時に困るんだよ」


 メイがおとなしくなったと思ったら、ウトウトと眠りそうになっていた。


「シュウ、ダメよ。メイにはもっと簡単に言わないと聞かないわ。簡単に言っても聞いてくれるかどうか怪しいわね」

「でも、このまま眠ってくれるなら、半分成功かな」


 でも、僕の話が終わるとメイは目を覚ます。


「僕の話は眠くなるかな?」

「お兄ちゃんは良い声だよ。お腹に響く感じで気持ちよくなるなあ」


「眠くなるのはお金の話の時だけだよね?」

「そんな事無いよー」


 メイがフルフルと首を横に振った。


「そんな事より、お店の焼肉いいよね」


 失敗か。


「次はもっと短く話をまとめようかな」

「あら、面白いわね。私もシュウ話が聞きたいわ」

「シュウが明日まとめてお金の発表をする事にしましょうよ」


「明日までに、うん。考えてみるよ」




 僕は部屋に戻った。

 メイに専門用語を使ったら駄目だ。

 結論を先に言って、4コマ漫画のように少ない資料を作ろう。


 僕はパソコンを打ち鳴らし、色んな事を省略した資料を作った。




【次の日の夜】


 夕食の後、僕はパソコンを開いてみんなに見せる。


「これから3分でお金持ちになる方法を言うよ」


 1つ目の資料を開く。

 絵を使い、文字は最小限に抑えた。


『①お金持ちになる方法』


 頑張って人が札束を持っていほほ笑む絵も作ってある。

 絵を使う事で分かりやすくなるし、イメージしやすくなるはずだ。


「お、お兄ちゃん!この絵何、ぷう、ふっふっふ、小学生、小学生の絵だよ!」


 メイが笑い出す。


「僕が簡単に作った絵だよ」

「これ、地面から浮いてる!飛んでるよ!」

 

 メイがツボにはまったように笑いだし、話が進まない。


「メイ、次に行っていいかな?いや、進めます」


『②節約する』


 ブタの貯金箱にお金を入れる絵を書いてある。

 分かりやすくイメージできる。


 またメイが笑う。


「カバにお金を入れてるよ!」

「違う、ブタの貯金箱だよ」


「でも、カバ、カバが大きすぎるよ!」


 メイが爆笑する。


「ブタの貯金箱だよ。貯金箱を強調しているんだよ」

「次、次見たいよ!」


 メイがおかしな方向で僕の資料に興味を持った。

 絶対に僕が意図した方向に興味を持っていない。


「次行きます」


『③収入アップ』


 笑顔で喜んでいる絵を入れてある。

 これはさすがに大丈夫だろう。


「人が、光ってるよ!ふふふふ、面白い!お兄ちゃん面白いよ!」


 メイがまた笑う。

 人の周りに効果線みたいなのを入れたつもりだけど、光っている感じになったのか。


「最後行きます」


『④余った分を投資する』


 チャートの線、そしてコインを手に持った絵を書き込んだ。

 ここは笑う要素が無いはずだ。


「赤ちゃんの手!赤ちゃんの手だよ!」

「ち、違う。デフォルメした手だからね。何が大事かと言うと、まずは節約なんだ」


 メイはしばらく笑い続けた。

 絵じゃなく、写真を入れておくべきだったか。




 メイが落ち着くと言った。


「エチエチな電子書籍をたくさん売れば解決だよ!」

「……んんんん???いや、お金持ちになるには最初節約するのがいいと話をしたつもりだよ?」


「頑張って絵を書こうっと。お兄ちゃん、小学生みたいな絵だったよ」


 そう言ってメイは部屋に戻っていった。

 僕は敗北した。


 床に倒れこむ。


「シュウ、思っていた流れとは違うけれど、悪くはないと思うわ。焼肉から興味が移って収入アップに取り組もうとしているわ。メイに何か言って、ここまで説得出来たら良い方だわ」

「そうだよ。メイは絶対に思った通りに動かないんだよ」

「収入がアップすれば、節約に目を向ける、かもしれないわね」


 いつもの事だけど、メイは感覚で動いて、僕の言ったことを聞かない。

 しかも動きを予想できないから父さんと母さんはメイの教育をあきらめているんだ。


 上出来、そう、良い方なんだ。

 メイ相手にうまくいった方だよ。





 新作のご紹介

 モブ炎使い、3000フォロワー突破&総合週間9位獲得!!


 僕の作品に3000フォロワー越えは他にもありますが、週間総合9位、トップ10入りは初だと思います。


執筆の積み重ねで皆さんに僕の事を知って頂いた点も大きいかと思っています。

カクヨムに投稿し始めた頃は、知られる事すらなかったので、カメのように少しずつでも前進しているのを感じます。

まだお読みいただいていない方は


『ゲーム序盤で死ぬモブ炎使いに転生したので、主人公に先回りしてイベントをクリアしたらヒロインが俺について来た』


を何卒お願いします。

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