第24話 予感、股間、此岸
私は早く結婚してしまいたかった。
早く、早く私は私でいたかった。
出会いの機会がとにかく欲しかった。
だから出会い系アプリを大量に使い、SNSでも男が寄ってきそうなアカウントを作った。
すぐに良さそうなのが釣れた。
ツッコミどころがある私の言動に一切触れずに、会いたいとだけ伝えてくるような欲望に動かされているような人間だった。
文面には気を使った。
できるだけ別人になりきろうと思った。せめて私のガサツさだけは見せないようにした。
その男に会う日がやってきた。
服装や髪型のみっともなさは他人の模倣でごまかした。
男は想像よりホンワカとした奴だった。
その男の見た目や話し方からはあの文章を送ってくるような人には見えなかった。
でも、途中で人が変わった。
私が慣れないことをしていたせいか両親についての嘘をついてしまった。その時、男の目は切れた。こんなこと言った。
「僕の両親も仲が良くて、特に父が母に優しくて憧れますね。」
これは明らかに大きな大きなカマだった。私に突然カマをかけてきたのだ。
私は焦った。何故だ。何故私にカマをかけることができる?
焦って大きなカマで首を半分まで切られてしまった。
汗が止まらなくなった。このまま殺されてしまうのではないか。
そしたら男は再び私を混乱させた。
「僕と結婚を前提にお付き合いしませんか?」
そう言ったのだ。
断る理由もない。もちろん承諾した。
その後男はトイレに立った。
その時、私には男の背中があの日の怒りと重なったように見えた。
そうして悟った。この出会いははチャンスであり、ピンチであると。
私はこのチャンスを利用することにした。
しかし直ぐに結婚することはできないだろう。ヴァージンなりに考えて機械的なデートを何回も重ねることにした。
彼は文句も言わない。
何回も会えば確信になった。
「こいつは木偶のマリオネットなのだ」と。
私は私の誕生日に彼にプロポーズをした。回数も重ねたしいい頃だろうという判断からだ。
やはりそのときも彼はカマをかけてきた。
私は仕返しをしてやった。そしたら彼の首はビクともせずに私のカマを折って見せたのだから驚いた。
彼は私を家族に紹介すると言った。私は混乱してしまった。この私を家族に紹介などするのか?
ここで私は私に戻った。
彼の母の人柄や、彼が私に心を開く態度によって私は裸体にさせられた。いや、私の弱い心が自分で衣を脱いだ。
裸体を見せることは決して許されない。
でも、私は恋貧しき三十路の心に戻ってしまった。
よほどこの時の私は愚かだったのだろう。
彼の家では家族のことを話してしまったし、そのまま彼の腕の中で泣いてしまった。
それで私は恋愛をしてしまった。今思い出しても気持ちが悪い。
好きなのかはずっと分からなかった。でも自分の相手をしてくれる男の人がそばにいたから、普通の女の子は中学生で通るような道を通ってこなかったから、私は私のままだった。
ある日、私は彼が欲しくなった。
情けない話だ。このとき、本来の目的を見失っていたことは隠さない。
でもそれは彼に断られた。
でも30年の時を経て生まれた気持ちは消えなかった。
その日の夜、彼が完全に寝静まってから私は彼のパンツを降ろした。
初めて見た。興奮やらショックやらが私の頭を叩きつけた。
その瞬間、私は私のそばにしわくちゃになった清楚な服を見た。
ずっとそこにあったのに、今日まで気づけなかった。いや、忘れていた。見えなかった。
私はそれを拾った。
私は私からさよならするために彼の剥き出しになったところに軽くキスをした。
それから服のシワをよく伸ばして着た。
着心地は悪い。けど懐かしい。
その後私はソファで夜を越した。その夜はずっとあの世の母に謝り、そして誓い続けた。
戒めに私は彼と6月に結婚した。1番嫌いな季節に。
結婚したことで完全に私は私で、私も私になった。
結婚したら目的を失ってしまった。
でもよく考えたらやることは明白だと気づいた。
庭の草木の害虫駆除に苦しんでいるなら、全部根っこから抜いてしまえばいいんだ。
さよなら。
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