第19話 コトバガフルエテ
男は見るつもりはなかったが、一応メッセージアプリを開いて見ることにした。
公式云々、旧友からの飲みの誘いなど、様々なメッセージが届いていたが、男の目線は1人のメッセージ通知件数にしかいっていなかった。
普段は短いメッセージをたまに送ってくるだけだったその女のところに、数十件の通知が溜まっていることは奇怪だった。
店内は集まる人の体温でぬるかったので、男のアイスコーヒーは静かに汗を流している。
男はそれを飲んだがコーヒーは冷たさを忘れていて、味はアメリカンほどもしなかった。
男は女のメッセージを読み出した。
読まざるをえなくなったからだ。
気づけば周りの艶やかな声も濁った天気の音も聞こえなくなり、聞こえるのは
6/8
*昨日のことについて話したいことがあります。
まず、感情的になって言い争いみたいになってごめんなさい。
憲介はお姉さんの事とかを相手に知られていて不安だったんだよね。なのに自分のことばっかり考えて、憲介のことなんて考えてなかった。本当にごめんなさい。
なんで裏切り者がこんなこと言っているんだと思うかもしれません。
あなたにとって私が裏切り者と思われていても仕方がないかもしれません。
でも、裏切りだけは絶対していません。信じてください。
長文失礼しました。*
6/10
*丸一日待っても既読が付かないということはやっぱりブロックされているのでしょうか。
まぁ、ブロックしても仕方がないかもしれません。
返信しなくても既読だけでも付けてくれると嬉しいです。*
6/11
*やっぱりブロックされてるね。
じゃあこれはひとりごとってことか。
言いたいこと言っちゃおう。
私は本当に裏切りなんてしてない!
だって好きな人を裏切るなんてできるわけない。
まだ好きなんだもん。
冷たい態度しようと思っても、心のどこかでは、けー君のことが好きで好きで仕方がないよ。
気持ち悪いよね。ごめんなさい。
でもこれブロックされてるのか。
じゃあいいや。
なんで好きでもない女と結婚してるんだよこのバカ!バカ!バカ!バカ!バカ!
私が世界で1番美しくて大好きだって言ってくれたじゃん!バカバカバカバカ。*
6月12日
*好きな人ともう会えないかもしれないって悲しすぎるね。辛い。なんか生きている意味ないんじゃないかって思えてきたよ。
別れたはずなのに、はずなのに。
仕事での協力関係っていう私には遠すぎる関係だけど、温度を感じられるだけ幸せだったね。
けー君を感じたいよ。なんのために生きていけばいいの?けー君は俺なんてろくでもないって言ったけど君がろくでもなかったら私は何になっちゃうのよ。
頼ってばっかでごめん、じゃないよ!それくらい信頼してくれて嬉しくて何度も泣いたよ。こんなこと言っても伝えられないのに何やってんだろ私*
6/13
*おはよう*
*元気?*
*そうかブロックされてるのか*
*なんか変な気分*
*会社休んじゃえ*
*けー君に会いたいなぁ!大好き!*
*一回会ってみない?*
*なんで答えないの?ウザ。もう会いたくない。顔も見せないでね*
*本当に会えないのは悲しい*
*やっぱりダメだ私は君を生きづらくさせてるよ*
*台所にハエが止まってるよく見ると可愛いね*
*なんかハエ叩いて殺しちゃった。私怖いね。殺し屋だ。殺したら罪を償わなきゃ*
*死ねないものだね。怖くて怖くて怖くて*
*ちょっとコンビニいきます*
*なんでじむしょなんかにきちゃったんだろ*
*しかもいないじゃん
ちらかってるし*
*しんでもいいよね
こんなおんな*
*おもいよねごめん*
*ちをながしたらめいわくだよね*
*きもいねほんとにきもいねきもいきもいきもいきもいきもいきもいきもいきもいきもいきもいきもいきもいきもいきもいきもいきもいきもいねわたし*
*なんかあついからおふろかりるね*
読み終わったとき、男の視界からこの女以外のモノが消えた。
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