第18話 リーダー襲来
「どうしてここにいるんですか?」
俺の目の前に、突如として現れたのは前のサーカスのリーダー、ゴルドだった。
「どうしてもこうしてもあるか。お前を連れ戻しに来た」
「そうよ。あんたのせいで今日のサーカスは台無しだったんだから。その責任は取ってもらうわよ」
ゴルドの隣には、俺の持ち物をぐちゃぐちゃにしてくれたユラーまでいた。
なんだろう。サーカスを出た時はあれほど悔しかったのに、急に怒りが湧き上がってきた。
「ちょっと待ってくれ、俺何もやってないぞ」
「ねえ、そんなことより誰? この人たち」
目の前の人が気になるらしく、マイルに脇腹を小突かれた。
俺はコソコソとマイルに事情を説明した。
「へー。なるほどねえ」
頷きながら言うと、マイルはなぜか俺の前に歩き出た。
「悪いけど、このドーラはもうワタシたちのサーカスの一員だから。勝手に話を進めないでくれる?」
「何っ?」
「ああ、いや。まあ、そう言うことなんで。すいません。俺はもう戻れません」
俺がそう言うと、リーダーは苦々しそうな表情に変わった。
「まさか俺の方が断られるような関係になるなんてな」
「ホント。いつの間にか時の人になって。何? アタシたちに嫌がらせでもしたかったの?」
「待ってくれ。俺は何もクビにされたからって嫌がらせをした覚えはないぞ」
本当にさっきから何を言ってるんだ。
さすがにクビにされたことはまだ完全に整理できたわけじゃない。だが、だからと言って俺が何か実力行使をする理由にはならないはずだ。
それに、今日の俺は朝からマイルと練習したり、街を案内してもらっていたりとアリバイだってあると言うのに、今日のサーカスに何ができたと言うのだ。
「何も直接やったことを言ってるんじゃない。ドーラ、この街で芸を披露して有名になっただろ」
「有名って言うか、なんかみんなに知られてるだけですけど」
「それだよ。俺たちはそのせいで、ドーラのいるサーカスだと誤解され、挙句お前がいないせいで観客からはブーイング。どんな芸をしてもまともに見てもらえなかったんだ」
「いや、俺がクビにされてからまだそんな時間経ってないですよ?」
「そうよ。そんなの言いがかりでしょ? ドーラのせいにする前に、自分たちの芸を磨きなさいよ」
「マイル待って。落ち着いて」
俺は殴りかかりそうなマイルの前に割って入った。
サポーターと言うが、自分を強化して殴りに行けるのだから、ただの魔法使いのゴルドに差し向ければタダでは済まないはずだ。
「なんだ。彼女を前にカッコつけてるのか?」
「カッコつけてなんかない」
「か、彼女だなんて」
マイルが変な言葉に反応しているが、そこは置いておく。
「とにかく、俺が迷惑かけたなら謝りますが、サーカスに戻るつもりはありません」
「そうか」
ゴルドは俺の言葉を聞くと、くっくっと堪えるような笑いをこぼした。
俺が小さい頃はもっと爽やかな青年といった印象だったのに、いつの間にこんな悪役のような動作をするようになったのだろう。
「何がおかしいんですか」
「いや? ただな。お前、アリサと仲良くしてただろ」
「それがどうかしたんですか?」
「今、アリサはどこにいると思う?」
「え?」
確かに、アリサならもし俺を追ってくるなら、俺の体に発信器代わりの魔法の残滓でも残していくだろう。
それが来ない。
今の言い方なら、サーカスにもいない。いや、まだ確証はない。焦るな、俺。
「アリサの居場所を知りたくないか?」
「お前、アリサに何をした」
「何、焦るな。アリサならお前を追ってサーカスを出て行ったさ。大事な公演の前に。だが、そんなことが許されると思うか?」
「アリサをどこにやった!」
「聞かれて答えると思うか?」
「くっ。今までアリサばっかり目で追ってたくせに、サーカスをやめればそんなもんか」
「好きに言えばいい。今の俺にはユラーがいる」
「ゴルドさん。いえ、ゴルド様」
これが、本当に俺が尊敬していたリーダーなのか。
うっとりとした表情のユラーをよりかからせ、自慢げな表情を浮かべるゴルド。
「ねえ、悔しいならワタシがやってあげようか?」
「今はいい」
「そっか……え、今は?」
なぜかマイルが、がっかりしたり、聞き返したりしてくるが今はそれどころではない。
何やらぶつぶつ言っているマイルをさておき俺はゴルドを睨み返した。
「何をすれば話す気になるんだ?」
「交換条件といこうじゃないか」
「何?」
「俺が勝ったら、お前は俺たちのサーカスに戻る。お前が勝ったら、俺はアリサの居場所を伝える」
「そんな」
「おっと。不意打ちしようたってそうはいかない。俺の言う通りにしたらアリサの場所を教える。他はダメだっていう条件もありなんだ」
「チッ」
なんだかこの場を早く片そうとしているように見えるマイルは、舌を鳴らした。
それはそうか、アリサからいち早く指導を受けたいのだろう。
「さあ、どうする。大切なアリサの危機を前に、俺に怯えて逃げ出すのか。それとも、無謀にも俺に挑むのか。アリサがどうでもいいなら、逃げるという選択肢も与えてやるが」
「誰が逃げるか」
「ちょっと待って。ドーラはこんなの相手に正々堂々と戦うの? 絶対に何か企んでるよ」
「チッ。俺がこいつなんか相手に小細工するわけないだろ。物珍しいものを見せただけの一発屋に本物を見せつけるだけだよ」
「だいぶ舐められてるけど」
「大丈夫だって。マイルは俺のブレスを見てきただろ? ここは俺を信じてくれればいいよ」
「でも」
まだ何か言おうとするマイルを手でなだめ、俺は改めてリーダーに向き直った。
「勝負しよう。決着は何でつける?」
「それなら、得意技をぶつけることとしよう」
「わかった」
「ふふふ。ドーラはただの火吹き芸。それに対しゴルド様は水系魔法の使い手。これは勝ったも同然ね」
「ちょっと、ドーラ。いいの? 相手が有利な条件に持ち込まれちゃったみたいだけど」
俺はマイルに黙って頷きかけた。
「大丈夫だって。俺に考えがあるんだ」
ゴルドが水を使い、俺は火を使うだろうと思われている。
それならば、ゴルドの目論見通りにはいかない。
街のど真ん中。お互いに一定の距離を保ち、俺とゴルドは向かい合っていた。
芸を好む街というだけあり、こんな明らかにおかしな状況にも、文句ではなく声援が飛び交っていた。
「おいおい。ドーラのブレスが見られるって本当か?」
「ああ。それも一撃をぶつけ合う決闘らしい」
「相手は今日のサーカスでトリを務めてた男か」
「一人だけまともにやれてやつだな」
「水で神殿を作ってたのはすごかったぞ」
野次馬が色々とガヤを飛ばしている。
神殿なんて作ったの? 俺のブレスも防がれるのか?
いや、不安になるな。
「頑張れ。ドーラ! 負けたら承知しないぞ!」
俺の後ろにはマイルがいるんだ。サポートはないが、俺はもう一人じゃない。
「さあ、準備はいいか」
「もちろんだ」
俺はゴルドの言葉に頷いた。
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