第14話 いざ、ギルドへ!

「なあ、ずるいと思わないか?」


 自己紹介も終わったところで、俺たちは素材をギルドへと運んでいた。


 そんな時話しかけてきたのがヤングだった。


「何が?」


「サーカスの女たちは、手ぶらで歩いて成果の報告だけする。俺たち男は荷物持ちをさせられる。こんな関係おかしいと思わないか?」


「いや、うーん」


 力としては一応俺やヤングの方がリルやマイルより強いはず。


 なら、荷物の量として一人でも持てたのだから、俺たちだけが持つことは何もおかしくないような気がする。


「おかしいかな?」


「確かに、これが普通の女の子たちならわかる。可憐でひ弱だろうからな。もしかしたら持てないかもしれない。だが、リルさんにマイルは違うだろ? ドーラだって見ただろ? リルさんの怪力。それにマイルがオレを殴ってたのを。素の力はどうあれ強化できるんだ。持てて当然だろ?」


「まあ見たし。そうかもしれないけど」


「だったら! やっぱりオレたちだけじゃなくて、前を歩く女たちにも持たせるべきだと思うんだよ」


「あー、いや、どうだろう」


 これは言った方がいいのだろうか。


「ちょっと、ヤング」


「第一。男が力仕事で女は歩くだけってのはどうなのかね? オレだってあんまり力に自信がある方じゃないんだよ? さっきの姿も見たと思うけど、決して強いわけじゃないんだしさ」


「あの。ヤング。そのくらいにした方が」


「いいや。オレは断固として言うね。絶対にこの状況はおかしいと」


「ほう? 何がおかしいって?」


「リ、リルさん……」


 途中から、前を歩いていたリルもマイルも俺たちの会話を聞いている様子だった。


 いや、熱くなったヤングの声がただただ大きくなっていた。


「……おい。聞かれてたんだけど、なんで言ってくれなかったんだよ」


「自分から言うって言ってたじゃん」


「バカ。それは覚悟ができたらの話だろう? こんなことになる前に止めてくれよ」


 そもそも指摘しようにもヤングの話が止まらなかったんだが。


 なぜか俺までコソコソとしないといけなくなった状況に、思わずリルから目をそらしてしまう。


「だーれがひ弱じゃないって? 普通の女の子じゃないって? 可憐じゃないってぇ?」


 マイルもリルと同じようにヤングに食ってかかっていた。


「いや、俺は別に一般論を話していただけで、二人のことじゃないさ。なあ、ドーラもそう思うよな?」


「本当か? ドーラも、一般的に! 私たちは女じゃないと思うか?」


「オレは何もそんなことは」


「そんなことはなんだ? 今はドーラに聞いているんだ」


「なんでもありません」


 押し黙ってしまったヤング。


 期待するような目を向けてくるが、いや、これは乗りかかった船と言うよりも、自業自得と言うべきだろう。


 すまない。


「俺はリルもマイルも女性だと思ってるよ」


「そうだろうそうだろう」


「ま、まあ当たり前よね」


 少しホッとした様子の二人を見て、俺はこれでよかったと思った。


「話のわかるドーラには気を遣わなくてはな。おい、ヤング。団長命令だ。新入りのために荷物を持ってやれ」


「え、いや大丈夫だよ」


「そんなことない。新入りは慣れるだけで手一杯なんだ。わかるよなヤング」


「もちろんっすよ」


 と泣きそうな声を漏らしながら言うヤング。


 リルとマイルが歩き出したのを見ると、ヤングは俺を恨めしそうな表情で見てきた。


 すまない。俺にはさすがに荷物持ちたくないからって理由で、ヤングに賛成することはできない。


「おい。ドーラ。荷物は任せていいんだ。こっちに来い」


「はーい。じゃ、お願いヤング」


「おう。これもセンパイだからな。仕方ないさ」


 俺はそうして重いツタをヤングに任せて、リルについていった。




「ここが……」


「そうだ。初めてか?」


「まあ、外から見ることは何度もあったけど、中に入るのは初めてだよ」


「そう。なら、ワタシたちについてくるといいわ……まあ、面倒なのがいなければだけど」


「お願い」


「し、仕方ないわね。まあ、ワタシも先輩なわけだし、もちろん頼ってもらって構わないけどね」


「ありがとう」


 ギルドについた俺たちは会話しながらヤングのことを待っていた。


 少し頼るだけで、なんだか嬉しそうにするマイルは見ていて楽しい。


 マイルが最後にボソッと言った言葉が気になるが、問題ないだろう。


「はあ、本当に誰も持ってくれないなんて」


「お前が変なこと言わなければ、途中で交代するつもりだったんだがな」


「ええ!? それ、早く言って欲しかったんすけど」


「自分から面倒くさいことを招いたのだろう。次から気をつけるんだな」


「へーい」


 力なくヤングは返事をした。


 最後は引きずるようにしてヤングはツタを運んでいた。

 

「では、中に入るぞ」


「はい」


 俺は緊張しながら、ギルドのドアが開けられるのを見ていた。


 中からはアルコールの臭い。


 そして、昼間からどんちゃん騒ぎする荒くれ者たち。


 そんな中を堂々とはいるのかと思ったが、なんだろう。急に空気が重い。


 今まで楽しそうだった荒くれ者たちも、外の俺たちを急に静かになった気がする。いや、考えすぎか。


「中ってこんな感じになってたんだ」


「あ、ああ。そうだな」


 どうしたのだろう。俺がキョロキョロと中を見ていると、どこかよそよそしくリルが返事した。


 先ほどまでと様子がおかしい。


「さ、ドーラ。早く素材を換金して帰りましょ」


 マイルまでそんなことを言う。


「え、でも俺もっと中を見たいんだけど」


「それなら、ワタシが今度案内してあげるからさ。今日のところは」


「おいおい。逃げるってのか?」


 誰だか知らないが、マイルと話している時に横から、男が一人割って入って来た。


「あの。俺がマイルと会話してるところなんですが」


「おお。そうかい。悪かったな。だが、ここはあんたらが来るような場所じゃないんだ。偉そうなだけの女。自分一人じゃほとんど何もできない女。モンスター相手で小手先の道具しか使えない男。で、あんたはただの新入り。どうやらギルドに来るのも初めてみたいだな。冒険者として登録もしてないのか?」


「はい」


「おい聞いたか?」


 静かに笑っていた周囲の男たちは、目の前の男の言葉を皮切りに実に愉快そうに、わざとらしく大声をあげて笑い出した。


 なんだ。こいつ。なんでこんな奴に俺の仲間が馬鹿にされているんだ?


「今回はなんとか素人のあんたが入ったおかげで、なんとかなったらしいが、そんなラッキーがいつまでもつかな?」


「あの。邪魔なんでどいてもらえます?」


「お、おいドーラ」


 なぜかリルまで止めようとするが、こんなやつ無視すればいいだろう。


「お前、ちょっと助けたからって救世主にでもなったつもりか?」


「俺が? はっ。俺レベルで救世主なら、多分ここにいる全員で魔王でも倒せますよ。俺はそんなたいそうな人間じゃありませんから」


「おいおい聞いたか。こいつ虚勢も張れないみたいだぜ? お坊ちゃん。ここは君みたいなのが来るような場所じゃないんだよ?」


 おちょくるような喋り方でニヤニヤと笑みを浮かべる男。


 どうやら意地でもどかないつもりらしい。なんでやり返さないのかわからないが、俺は自分の胸のうちが、沸々としているのがわかった。


 ここまで沸点の低い人間だとは我ながら知らなかった。


「リル。こいつやっちゃっていいかな?」

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