第11話 その後のサーカス6

「大失敗だったじゃないか! どうしてくれるんだ!」


 ワシは観客が全員帰ったことを確認してからゴルドを怒鳴りつけた。


 これだけの役者が揃っていながら、他の者がいいと言うような客が来るなど、一体何をしていたのだ。


「落ち着いてよ父さん」


「これが落ち着いていられるか! 誰もまともできなかったではないか」


「俺はちゃんとやっただろう?」


「どうだろうな。お前も聞いたんじゃないのか? アリサがよかった。ドーラがよかったと言う言葉を」


「それは」


 ワシの言葉に即座に押し黙るゴルド。


 ふん。気づいているのではないか。何がちゃんとやっただ。


「評価されていなかっただろう。観客が求めていたのはアリサ。そしてドーラだった。しかも、ドーラは今世間の話題をさらっているという。節穴な目しか持っていなかったのはお前じゃないのか? ゴルド」


「俺は! 俺としてはドーラを正当に評価したよ」


「本当か? アリサと仲良くしていることに嫉妬していたんじゃないのか」


「そんなわけないだろ。俺があいつに嫉妬するなんてそんな要素一つもないじゃないか!」


「ほれみろ、簡単に感情的になりおって」


「落ち着きましょうよ団長。結果は後になってからしかわからないんですから。ゴルドさんも今は反省してるんでしょうし」


 ワシをユラーが止めに入る。


 なぜこの女はこんなに冷静でいられるんだ。


 ゴルドの隣に立ち、何もできなかったくせに。


「どの口が言うか。ゴルドと違い、お前は最低限もまともにできてないんだからな」


「なっ!」


「父さん。さすがにその言い方はないんじゃないか?」


「いえ、その通りですね」


「その通りじゃない。ユラーは精一杯やってたじゃないか」


 ゴルドは必死にユラーをフォローしている。


 だが、その事実がゴルドが節穴な目しか持っていないことを証明している。


「間抜けなモンスターの姿を見せて精一杯やった? それでいい? そんなわけないだろう。実力が足りないのはサンもカフアもだぞ。ここにいる全員鍛え直しだ。今日のことでワシたちは消えてもおかしくないんだからな」


 誰からも返事が返ってこなくなった。


 どうやらやっと事実を認識し始めたらしい。


 全く、手のかかるやつらだ。


「今からでもいい。ドーラを呼び戻して来い。話題になっているとは言え一人だろう。まだ戻ってくる気もあるはずだ」


「なら、アリサも」


「あいつはもう戻らん。他へ渡れば脅威だからな。消すように指示しておいた。お前は他の女でも探すんだな」


「待ってくれ。消すように指示した? そんなことするなら逆だろう! 話題のドーラを消し、アイドルのアリサを取り戻すべきだ」


「ドーラなんて取るに足らないと評価していたのはお前だろう。何か? お前は評価を知っておいて隠していたのか?」


 ワシの言葉に、ゴルドは悔しそうに表情を歪めた。


「ドーラの本質に気づいていたのはアリサだけだ。そこは俺の実力不足だ」


「そうだろう。なら、早くドーラを呼び戻してみるんだな。もっとも、それもできればだがな。できなかった時、今のワシたちが今まで通りの生活をできると思うなよ」


「こんなことなら、このサーカスの主導権を握るのは俺だ」


「そんなことはさせん。ワシの目が黒いうちはな」


「あ、あわわ」


「サン。どうしたらいいの?」


「いいからドーラを探してこい。全く、お前らはどれだけワシを不機嫌にさせれば気が済むのだ」


「ダンチョーはどうしてそんなに怒ってるの?」


「どうしてだろうな! ドーラを呼び戻せば多少機嫌も戻るかもな!」


「行こう。ユラー。父と話していても何も解決しない」


「はい」


 行ったか。全く、手間をかけさせおって。


 ゴルドに対する教育も間違えたか。


 もっと厳しくしつけておくべきだった。なんだあの態度は。


「あの。ドーラはそもそもどうして出て行ったの? サンが悪い子だから?」


「サンちゃんは悪くないと思うよ。そうですよね。団長」


 まだいたか。


 幼いような素ぶりをしているからと言って、もう優しくするつもりはない。


 メンタルが弱いのはサンの弱点だ。


「いいや、サンが悪い子だから、それもあるかもな。まあ、あいつがそもそもここを去ることになったのは、元はと言えば実力が足りなかったからだ。今日のお前の演技はどうだった? 一番でありながら盛大にしらけさせおって。そんなんではお前も出ていくことになるかもな。そもそも、ドーラが戻ってきても今のお前とは格が違う。同じように接することができると思うな」


「う、うう」


「そ、そんなに強く言うことないじゃないですか」


 ほう。カフアが珍しく食ってかかるか。面白い。


 泣いて誤魔化そうということしかできない奴らには、思い知らせる必要がある。


「お前だってそうだ。ステージ上で盛大にこけおって。いつ首を切られてもおかしくないからな。決定権はワシにある。それを忘れるな」


「う」


 どうだ。言い返せまい。


「わかったらさっさと探しに行けい。こんなところでメソメソされても何も解決しないぞ。他のお前らもだ。ぼーっと立ってないでゴルドに続いて探しに行け」


「サン。サーカス辞めなきゃいけないの?」


「そんなことないよ。大丈夫だって。ね? だからドーラさんを探しに行こう?」


「うん」


 全く、言わないと動かんとはダメダメだな。


 こんなだから今日もうまくいかなかったのだ。


 せめてドーラを取り戻し、次こそはうまくいかせてやる。


 今度は間違っても手放してなるものか。


「行ったか」


 やっとワシ一人になり、ワシは再度近くを見回した。


「おい。お前たち」


「はっ」


 ワシは使者の部隊を呼び寄せた。


 こんな時の暗部だ。


「お前たちもドーラを探しに行け。人手が多いことに損はないからな」


「しかし、私たちはドーラ様と面識はございませんが」


「構わん。ファンのフリでもしてワシが呼んでいたとでも言えばいいだろう」


「かしこまりました。行くぞ。みなのもの」


「はっ」


 これで全員出払ったということだ。


「おい。いるのだろう。出てこい」


「御意」


 隠密にたける使者を最後に呼び出した。


 ワシは思わず口元が緩むのを抑えられなかった。


 いや、こんなだらしない表情をするのはまだ早い。


 指示は出したが本人の口から確認するまでは安心できない。


「して、アリサはどうした?」


「はい。そのことですが」

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