第51話 粘着合体コビスラー!

 上半身の体毛を燃やされて赤裸になったコビ1が、無駄に高いポジションで身を翻しゴールデンベアー目掛けて降下してくるところだった。


 一方のゴールデンベアは頭部をすっぽりスラ1に覆われ、後ろ足で立ち上がって苦しんでいる。


「良し。そのまま窒息させろ、スラ1」

「うニャ?」

 

 大きく口を開いたゴールデンベアが体を急激に捻った。


「グパッ!」


 とてつもない肺活量で圧縮空気を大砲のように口から発射したのだ。


 口元を覆っていたスラ1は圧力に耐えきれず、空気弾を抱えて吹き飛ばされた。その方向にはコビ1がいるぞ!


 ドパーン!


 音を立ててスラ1がコビ1にぶち当たった。空気砲の威力で2人諸共に吹き飛ばされる。

 体勢を崩したコビ1は着地できるのか?

 

 「あれは何だ!」


 コビ1の体に纏わりついたスラ1が、宇宙服のようにピッタリ体を覆い、背中から羽を広げた。


「鳥だ!」

「飛行機ニャ!」

「スーパー・コビ1だ!」


 粘着合体コビスラーは、ゴールデンベアーが飛ばす火球を身軽にかわして宙を舞う。


「ワオーン(コビスラー・キーック)!」


 空中で1回転したコビスラーは、華麗な跳び蹴りをゴールデンベアーの顔面に浴びせた。

 しかし、体重差が大きすぎてまったくダメージにならない。


「見掛け倒しニャ」

「仕方ないよ。アドリブで結成した急造チームなんだから」


 コビスラーはまた無駄な空中回転を行って、ゴールデンベアーから飛び離れた。


「ストーン5、ゴールデンベアーの周囲に液体窒素弾発射! 白くま君にしてあげなさい」

「ま゛っ!」


 ちゅどーん、ちゅどーん!


 大人げなく連続発射された冷凍弾がゴールデンベアーの周囲で炸裂し周辺温度をマイナス196度に下げる。

 強烈な冷気に包まれ、たちまちゴールデンベアーの動きが遅くなる。


 震えながら呼吸によって体温を高めようと口を開けた時……。


 しゅぽーん!


 目には目を。歯には歯を。空気砲には空気砲を。


 割と根に持つタイプの宇宙生命体スラ1が、自ら再現した空気砲で体の一部を撃ち出した。


「かぽっ!」


 吸い込もうとした空気と共に、スラ1弾がゴールデンベアーの口から気管に飛び込んだ。

 行き先は無論、「肺」だ。


「ハイ、それまでよ」

「くだらないダジャレニャ」


 いや、でも事実だしさ。口を覆うゼリーなら吹き飛ばすこともできるけど、「肺の内壁」にへばりつかれたら飛ばしようがないもの。

 哀れゴールデンベアーはいくら胸を膨らませても、酸素を取り込むことができない。


 みるみるチアノーゼを起して、ぶっ倒れた。


「ああー。だんだん萎んで行くのは中からスラ1がお食事しているのね」

「全体として体積が減るのは、宇宙の7不思議ニャ」

「スラ1のゼリー状ボディーの方が、ゴールデンベアーの赤味肉よりも密度が濃いんじゃないの?」


 または「肉」じゃなくて「エネルギー」として蓄積しているとかさ。

 そのくらいのことはやってのけそうなんだよね。何しろ宇宙空間で飲まず食わず生きて行けるくらいだからさ。


「エネルギー貯蔵庫」を持っていても不思議じゃない。


「ところで、コビ1は大丈夫だった?」

「火傷したニャが、重症ではないニャ。スラ1のアロエ療法で回復中ニャ」

「アロエって。ばあちゃんの知恵袋じゃないっちゅうの」


 コビ1は運動能力をスラ1にいじくられているものの、その他の機能はコボルトのままだからな。物理耐性、魔法耐性が他のメンバーと比較して低いのは仕方がない。

 俊敏性を生かした斥候的なポジションで働いてもらえば良いと思うよ。うん。


 今回もスラ1の「回復ポッド」が大活躍である。「スライム細胞」を薄めて瓶詰にしたら、大ヒット商品になるだろうな。万能薬兼若返り薬だものね。


「戦争が起きるニャ」

「えーっ? そこまで酷いことになるかな?」

「不老不死の薬があるとなったら命がけの奪い合いになることは、歴史が証明しているニャ」


 永遠に生きるために何万人もの命を犠牲にする。英雄の考えることはわからんねえ。

 歴史上の戦争は必ずしも領土争いで起こっているわけではない。


 宗教戦争も「永遠に生きる」ための戦いとも言えるのだ。


「売るんだったらアロエ・エキスくらいが平和で良いね」

「そういうことニャ。誰も傷つけニャイのが本当の万能薬ニャ」


 さて、ボスドロップはいかがですかな?


 ピッカーン!


「おっと、宝箱が出たね。コビ1が苦労してくれた甲斐があったってもんだ」

「倒したボスがゴールデンベアーニャ。ゴルフ用品一式とかが出そうニャ」

「止めなさい! 世界線が違うからゴルフとかないでしょ? 金塊とか、金貨とかはどうよ?」


 コビ1君は治療中なので、ワタクシ自ら宝箱を開けましょう。ハルバードの先っちょでチョンチョンしてからね。


「オープン! ……何だこれ?」


 宝箱には、何やらもっさり・・・・した物が入っていた。


「かつらニャ」

「だよね。それも金髪の……」

「金髪……」


 その時恐ろしい予感がオレの背中を貫いた。


「ご、ゴールデン・ヘアーってか?」


 ずどーん! かつてない衝撃がオレを襲う。


「しょーも無さすぎるだろ! コビ1決死の戦いを何だと思ってやがる!」

「ダン・増田の分身はやっぱりアホアホ・レベルが一緒ニャ」


 これは速攻で焼却ですな。


「ストーン5……! うん?」

「どうしたニャ」


 床に叩きつけようとしてヅラを手に取った俺は、動きを止めた。


「こ、これは……」

「ただのかつらではないニャか?」

「金のかつらだ……」

「見ればわかるニャ!」


 いや、そうじゃなくって。


「純金製のかつらなんだ」

「ニャンと! 超無駄な凝り方ニャ」

「だよねー」


 人間の髪の毛と全く変わらぬ細さとしなやかさで、純金の金糸が仕上げてある。これだけ細い金糸を揃えるにはどれだけの労力が掛かることか?

 そして「植毛」の手間暇。


「めっちゃ重いよ、これ」

「でしょうニャ」


 実際に被ったら、間違いなく重度の肩こりになるね。呪いのアイテムかよ。


「純金となるとなあ。さすがに捨てられないよ」

「それはそうニャ。どんなにアホな形をしていても純金は純金ニャ」


 どっかの国では「純金製の便器」とかを作った人がいたけれど……。


「最低でも鋳つぶせば金塊としての価値はあるわけだ。それ以上に、本来は工芸品としての価値があるはずなんだけど」

「アホなダジャレのせいで、工芸品として見ることができないニャ」

 

 いっそ第三者に鑑定してもらった方が良いかもね。この世界では真っ当な品物として受け入れられるかもしれないし。


「やっぱりゴンゾーラ商会に持ち込むか?」

「まあ、そうニャルわな」


 個人的にはメラ姐さんが着用してるところを見てみたい。姐さんの髪は赤味がかった茶髪なので、ブロンドにするとどんな感じになるか?

 コスプレ的にはやっぱりミリタリーな感じの制服を合わせたいかな。


「『軟弱者!』とか言われてぇー!」

「性癖が駄々洩れニャ。ほどほどにしておかないと成仏が遠のくニャ」


 急いで成仏する予定はありませんゾ。えっ? よだれが出てた?

 それはちょっとお恥ずかしい。じゅるじゅる。


「これは良い物だ……。宝箱ごと保管しましょー」

「早死にしそうな感想ニャ。物への執着はほどほどにニャ」


 あ、それは大丈夫です。「物」にはさほど興味がありませんので、あくまでも「コス」で「プレ」的なものに感受性が高いだけです。はい、前世ではカメラ小僧でした。


「ジジイに今更公序良俗は求めないニャ。法に触れない範囲で留めておくが良いニャ」

「そこはもう、くれぐれも慎重に。『オフホワイト』が座右の銘ですから」


 くれぐれも大切に運んでねとお願いしながら、オレは宝箱のお宝・・をストーン5に預けるのであった。

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