第48話 恐怖! 殺人中華丼の逆襲!

「さて、それではダンジョン・アタックとまいりましょうか。準備はイイね?」

「ふん。準備なんて軟弱な物が必要ニャのはトーメーだけニャ。後の全員は常在戦場のつわものどもニャ」


 そんな言葉で黄昏たそがれるようなワタクシではないのです。人間にはメリだのハリだの侘びさびだのというものが必要なのであって、それこそが文化に深みを与え……以下省略。面倒くさいから行こうか。


「えーと、隊列編成は前線にストーン5、次列にアローとトビー、後詰めにアリス、スラ1、コビ1。立会人に俺でいいかな?」

「戦力充実と反比例してトーメー本人の戦意が落ちて行くのはどういうことニャ?」

「え~? だって、俺が戦う必要ないじゃん。みんな強いんだもん」

「自ら汗を流して労働の尊さを知るべしニャ。トーメーはアローに乗馬ニャ」


 ああ、それならいいか。歩かなくて済むし。

 ちなみに今回の遠征は全員体勢なので、「外回りのお仕事=運送業など」は休業にしている。BB団はおとなしく養蜂&農業に従事しているよ。


「アロー君、よろしくね」

「ぶるるいっ!」


 アロー、トーメー、トビーというブレーメン体制がここに編成された。

 といってもまずはマッピング。


 俺はディレクターズチェアを出して、黒澤明ばりにどんと構える。一度お家に帰っても、一瞬で戻って来られるのだが、そうすると余計面倒くさくなってしまうので里心を抑えているのだ。

 この辺は社会経験を積んだ大人の知恵が物を言っているのではなかろうか。もう入手できなくなるという「〇クマ式ドロップス」をたしなむ。飴ちゃんおいしい。


 待つこと20分。偵察データが集まった。


「何々? 第1階層は地下牢タイプ? 徘徊モンスターはグレーウルフ、シルバーウルフ、三角ウサギ、レッド・フォックス、グリーン・ラクーン?」

「あつまれ動物のダンジョンニャ」

「最後の2つは『赤いきつ……」

「トーメー、言わぬが花という言葉を知らニャいか?」


 ドロップアイテムにお揚げさんとか天ぷらとかもらえそうなモンスターではある。


「商品価値は安そうニャが、品質が良ければ毛皮を集めるのも悪くないニャ。あっちの世界では条約やら動物愛護やらで、毛皮の入手が難しくなってきていたニャ」

「毛皮目当ての乱獲というのは問題だろうがね。食肉にしておいてその毛皮を使っちゃダメというのもナンセンスだな」


「ぷるぷる」

「えっ? 食肉なら食べたいって?」


 意外なことにスラ1はウチに連れ帰ってみると食事を執らなかった。ダンジョン以外では食欲がわかない体質らしい。宇宙を漂流していたくらいだから、ダイオウグソクムシみたいに食事を執らなくても生きて行けるようだ。


「お味はわからないが食べられそうなモンスターばっかりだからね。良いよ。ビュッフェ気分で食べ歩きしなさい」

「残せるなら毛皮を残してくれると、営業的にありがたいニャ」


 おや、トビーとコビ1も戦いたがっているね? 前回のリベンジがしたい?


「それなら交代制にしようか? 1度戦ったら、次の人と交代するというお約束でさ」

「このフロアだったら、シングル・アタックでも余裕ニャろう」


 それでは交代制のシングルマッチで行こうということになった。最初のアタッカーはスラ1君だ。


「希望するモンスターはグレーウルフ。理由は『大きいから』ですと」


 やっぱり食べる気満々やね。くれぐれも無理はしないように。


 暫く通路を進むと、第1モンスターが出現した。あら~。


「えー、残念なお知らせです。第1モンスターは『レッド・フォックス』でぇ~す」

「ぷるんぷ」

「うん? 好き嫌いは言わないって? 偉いねー」


 どうせ丸呑みだからねえ。踊り食い的な? 味の良し悪しってあるのかしら?

 どうでも良いか?


「それでは、やっておしまいなさい!」


 敵はレッド・フォックス2体。野生動物とは違うのかもしれないが、賢い動物だから連携が良さそうだ。


 でもなあ、引っ掻いたり、噛んだりする攻撃じゃスラ1には効かないんだよねえ。


 スラ1はプルンと体全体を波打たせたかと思うと、ずるずると床一面に薄く広がって行った。


「出ました! お得意のステルス・モードですね。狭い場所では敵を包囲する意味もありますからね」

「ふん。技の展開が遅すぎるニャ。もっとこう、格調高くかつスピーディーに……」

「アリスさん、僻みは見苦しいですぞ。先輩らしく温かく見守ってやろうではありませんか」

「ニャにを言うか。ボクは先輩として客観的にアドバイスをニャ……」


 うん? レッド・フォックスに動きがあるぞ。鼻をひくひくさせて匂いを嗅いでいたかと思うと、1頭がぐいっと頭を下げた。


「ガウッ!」


「うおっ? 火を吐いた。レッド・フォックスってブレス持ちなのか。相性的にはスラ1が不利じゃない?」


 レッド・フォックスは床を吐くように炎を振りまいて、息が切れたところで後ろに下がった。入れ替わりにもう1頭が前に出て、ブレスを吐き始める。


「やっぱり賢いぞ、こいつら。織田鉄砲隊の三段撃ちみたいに切れ目なく攻撃するつもりなんだ」


 だが、ステルス・モードのスラ1は目に見えないのでブレスが当たっているかどうかがわからない。レッド・フォックスとしては匂いを頼りに広範囲を攻めようという作戦だ。


「う~ん。当たっているようには見えないニャ」

「ブレスのことかい?」

「スラ1の体に当たれば、燃えたり、蒸発したりするはずニャ。第一焼け焦げる匂いがするニャ」


 ああ、そうね。ジェルをバーナーで炙っているようなもんだもんね。「じゅうじゅう」言いそうだ。

 焼けていないってことは、「避けている」ってことか。


「おや? 後ろに下がったレッド・フォックスの足元が波打った」

「これは?」


 スラ1の攻撃であった。


 足元に吸い付いて、見る間に魔物の全身を覆って行く。こうなると4つ足の魔物では抵抗できない。


「ガウッ、ガウッ!」


 前に出ていたフォックスが振り返って、襲われている仲間を見た。このままではやられてしまうと判断したのだろう。吠えると同時に四肢を踏ん張って、襲われているレッド・フォックスに向けてブレスを浴びせ始めた。


「これは勝負に出たな。仲間が溶かされるより先にスラ1を焼き殺せれば、レッド・フォックスの勝ち。ブレスが間に合わなければスラ1の勝ちだ」

「仲間を犠牲にしているように見えるニャが、こうしなければ仲間の死は確定ニャ。助かる可能性はこれしかにゃいニャ」


 さすがに今回はブレスを浴びた部分がブクブクと泡を立てて煮立っている。水分が多いスライムだからこそ燃え尽きずに堪えていられるのだろう。

 半透明な被膜の内部に煮立った泡が溜まって行く。まるで焼き餅のようにぶくーッと膨らんだ。


 ぱふーん!


 膨れた泡が弾け飛び、溶岩弾のように四方を襲う。


 ブレスを発していたレッド・フォックスにも熱々あんかけのようなスライム片が大量に掛った。


「あれは熱っついよね? 迂闊に掻き込んでしまった中華丼の惨劇!」

「上あごがビラビラになるやつニャ。猫舌だから食べニャイけどが」

「いや、アンタはロボットだからご飯食べないでしょ?」


 火炎ブレス使いの癖にレッド・フォックスの火炎耐性は高くないようだ。熱々あんかけを浴びて、「ギャン!」と吠えて転げまわっている。


 いやそれよりもブレスを浴びていた・・・・・レッド・フォックスの方がダメージ大だ。何しろスラ1の溶解液攻撃と、味方の火炎ブレス攻撃をダブルで受けちゃったからね。体毛がほとんど焼けるか、溶けるかして丸裸になってしまった。


 しかも重度の火傷だ。火ぶくれした個所と炭化した箇所が半々であった。ぶるぶる震えていたが、弱弱しく「くーん」と鳴くとばったり倒れて動かなくなった。いや、体の表面が何やら動いているか?


「あんかけのお食事タイムニャ」


 うわー、引くわー。B級ホラー・ムービーだと思って見ていたら、突然リアル・グロを挟まれたみたいな?

 モザイク掛けて欲しいわー。


 一方であんかけ弾を浴びせられたフォックスも苦しんでいる。体に纏わりついて表面を覆って行くスライム体になすすべがない。掴んで引っ剥がす手もないしねえ。仮に人間のような手があったところで引き剥がすのは無理か?


 接近戦最強じゃない?


「煮て良し、焼いて良しニャ」

「いや、それを言うなら『寝て良し、立って良し』でしょ?」


 あんかけのイメージに引っ張られすぎ!

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