第37話 来たるべきものがやって来た。ついにアンデッド・フロア突入だ!
元泥ボーズご本人たちはダビデ像風に彫って欲しいというご要望だったが、プロポーションとか全体の造形的にそれは似合わないよと説明して、俺はアイヌ一刀彫風に造形することを提案した。
その方が野趣があって石像としての雰囲気が出るよと。
こういうときアリスさんの変形自在ボディは便利だね。一刀彫の彫刻をリアルに再現してくれたので、ストーンズ(石ボーズ改め)も納得してくれた。ロックバンドみたいな名前になっちゃったな。
こうして俺たちはボス部屋にリボップが無いのをいいことに、ゆっくり腰を落ち着けてトーメー美容整形外科的なものを開業した。
ストーンズは5体いたので、戦隊ヒーロー風なデザインを取り入れてみた。もちろん事前にデザイン画を作成してストーンズに了解を取ったよ。削っちゃったら戻せないからな。
ここまで行ったら「個体名」を付けたくなっちゃうよね? 何せヒーローなわけだから。
ストーンズにちなんで、ダイヤモンド、サファイア、ルビー、エメラルド、アレキサンドライトと命名して上げましたよ。
もう命名音痴とは言わせないよ?
そしたら、ストーンズのモチベーションが上がること、上がること。ええ、ずっとモブ扱いだったことを寂しがっていたそうですよ。やっぱり人は必要とされることで生きがいを感じるんだね。
ストーンズは人でもないし、生きてもいないけど。
不思議なもので、個性(キャラ別の造形)と名前を与えてみると、こっちも「家族の一員」て気持ちになって来るもんですな。4足歩行ロボだけど。
ストーンズの美容整形が一段落したところで、今回のフロアボス戦について反省会を行った。囲碁将棋の対局後に行う感想戦みたいな?
だってねえ。今回はたまたまストーンズが相手だったので問題なかったけど、「石化攻撃」はちょっと危機だったわけで。
俺とかトビーが受けていたら、死んでいたかもしれない。ああ、スラ1もね。ここから先はこういう特殊攻撃にも備えておかないと、命の危険があると痛感したのよ。
「そこでアリスさん、対特殊攻撃の防御手段が必要だと思います」
「うむ。もっともニャ」
「何かこう。カッコ良くて自動的な、たとえていえば『バリア』的な防御手段はないでしょうか?」
「あからさまにバリアを要求しているニャ」
だって、構えてからじゃ遅すぎるってこともあるじゃない。常時発動型の防御壁があれば良いと思うのよ。
「いくらアリスにゃんでもそんな都合の良いものを右から左に……できたニャ!」
「早っ! さすがでございますな。して、どのようなバリアでしょう?」
「バリアそのものではないニャ。現実的に限りなくバリアに近い防御手段を構築するニャ」
「ほうほう。それはどんな?」
アリスのデザインはこうだ。
俺たちを中心にある半径の球面を描き、その表面上にナノマシンを配置する。ナノサイズなので視界は遮らない。こいつらを事実上の「防衛ライン」とする。
そこに外部から攻撃を受けたとする。石化だろうと熱線だろうと、毒霧だろうと、「対象に害をなす攻撃」であればまずこの防衛ラインであるナノマシンが被害を受ける。
ナノマシン同士はネットワークで結ばれており、1体に何か起きれば瞬時に異変は全体で共有される。当然アリスもネットワークの一部である。攻撃を受けた場所、攻撃の起点、被害程度、被害の性質などをアリスの情報処理機能が瞬時に判定し、対抗措置をとるという物である。
「なるほど。質問があります! 強力な攻撃がナノマシンを破壊しながら通り抜けてくる場合はどうなりますか?」
「もっともな疑問ニャ。ドッグファイト時の戦闘機のように『デコイ』や『フレア』を展開しながら回避行動をとるニャ」
「そうなると、対抗措置の担い手はストーンズってことになるか?」
ナノマシンが検知できる異常であれば、対処可能ということか……。ふーむ。何か足りない気がする。
「そうだ。精神系の攻撃とか生命力を吸い上げるドレインみたいな攻撃の場合、機械であるナノマシンでは感知できないんじゃない?」
「うーむ。データが無いので確認ができないニャ。ということは、その可能性を否定できないニャ」
「そうだよねぇ。どうしたもんかなぁ……。うん?」
「ぷっぷる、ぷるぷる」
「な、何だと? 自分がナノマシンに搭乗するだと?」
「ぷるっぷ」
ナノサイズまで細分化した分身をナノマシンに載せ、人馬一体ならぬスラナノ一体の防衛網を構成するだと?
「こ、これはまさにバイオニック・マシーン構想!」
「革命ニャ! これは世紀の大発明ニャ!」
「今が何世紀だか知らんけどな!」
似た物同士。ナノマシン集合体であるアリスさんと、ゼリー状不定形知性体であるスラ1とが合体する。意外なようで意外でないような。
人類の危機がまた一歩現実に近付いた感じが強いのでございますが……。
「それにしてもスラ1の不思議メタボリズムは止まるところを知りませんな」
「ナノサイズに細分化しても生存できる上に、知性まで維持できるとはニャ……」
魔物と言うよりも「宇宙生物」ですからね、ウチのわらび餅くん。
早速ナノマシンにスライム細胞を載せた「バイオニック・バリア」の運用テストを行ったところ、半径20メートルに展開すれば十分な特殊攻撃対抗手段になり得るという実験結果を得た。
「よし! 後は実戦で検証するニャ」
「早ぇな、実戦投入」
「ジジイに何かあった時はバックアップデータからやり直すから安心するニャ」
そんな死に戻りは嫌です。ていうか、バックアップはもはや別人になるんじゃない?
といっても、後戻りする選択肢は無いけどね。バリアの精度に期待しよう。
「スラ1頼むぞ!」
「ぷるっぷー」
準備が整ったところで、俺は「
「うーん。休めたのかなぁ?」
「肉体はナノマシンが常時リフレッシュしているニャ。休息は脳と精神のための物ニャ」
「だから?」
「要するに気の持ち様ニャ!」
「主人の扱いが雑じゃね?」
そんなこんなで我々トーメー探検隊は第4層へと階段を下りて行った。
◆◆◆
階段を下りるや否や、そこはかとなく辺りに腐敗臭が漂う。
「アリスさん、これは……?」
「この臭い、この雰囲気……。これは『アンデッド・フロア』の可能性が高いニャ」
うわぁあー。そいつはイカさないねぇ。テイムもできないし。……できないよね?
「ウチには聖属性魔法なんて物は無いからな。通常攻撃で早期殲滅しよう」
「同意ニャ。見敵必滅、見敵必滅ニャ!」
当然バリアは展開済み。ハニービーズのマッピングを待って出撃と決定した。
ゾンビと遭遇戦なんてぞっとしないからな。ゾッとするけど。
偵察情報によると、フィールド・モンスターはゾンビ、グール、スケルトン、そしてゴーストとみられる浮遊体だそうだ。
「ゴーストがいると仮定して、どう対処したらよいかねぇ?」
「物理攻撃が効かない物と想定するニャ。火炎放射も、爆発物もNGニャ」
「ホーリーなんとかみたいな攻撃手段が無いからなあ」
「ダメ元で般若心経アタックは掛けてみるニャ。やるだけならただニャし」
精神系には精神系をってわけだな。
「だったら逆に『混乱』を誘うってのはどうよ?」
「状態異常攻撃をするニャか?」
「デスメタルでもぶつけてやるのさ。まともな精神なら混乱するんじゃね?」
「ぷるっぷるぷー」
「ええーっ。それはメタだなあ……」
「何といったニャ?」
「つまるところ精神活動も電気信号の集合に過ぎない。ならば電磁的な干渉波によりこれを無力化できるはずである、と」
「ECMニャ!」
説明しよう! ECM(Electronic Countermeasure)とは「電子対抗手段」と呼ばれる装置であり、主に敵の電波的探知手段を妨害する電磁波発生装置である。
レーダーによる探知を阻害したりね。
スラ1の案とは、強力なECMをゴーストに照射することにより電気信号の塊である敵にダメージを与えようと言うのである。
「何という悪魔的発想ニャ……」
「聖属性でも光属性でもない。電子の力か」
「電子の魔法、略して『電マ』ニャ!」
「ぷるぷる!」
紛らわしいから変な略し方と合いの手を入れるんじゃありません!
「これは改造案件ニャ! 電マ改造ニャ!」
「魔改造で良いでしょう、そこは?」
ストーンズ内蔵の通信機を直ちに改造。アホ出力にチューンナップし指向性を持たせて、「電マ砲」が完成した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます