第35話 フロアボス登場! オーバーキルだろ、これ

「さて、ボス部屋の前までやって来たわけだが……」

「これで砂漠とお別れできると思うと清々するニャ」

「その前にさ、ここらで1回休憩を入れない?」


 栄養補給とか、生理的欲求とかあるじゃない?


「ジジイは面倒くさいニャ。泥ボーズ、アレを出すニャ」

「ゴ、ゴ」

「何? この瓶は?」


 泥ボーズに渡されたのは、何やら錠剤が入った小瓶だった。嫌な予感がする。


「ニャッパラー! 万能栄養剤!」

「えーっ? 遠征中の食事はこれだけ?」

「1食1錠で24時間戦えます、ニャ!」


 何とまあ、味気ない。


「さらに素晴らしいのは、トイレに行く必要がないという大便利機能ニャ!」


 便利機能で良いでしょ、そこは。


「はぁー。わかりましたよ。戦闘中ですからね。ダンジョン攻略中はこいつでしのぎますよ。帰ったら、和食で『清酒お味見』をじっくり飲もう」

 

 この調子だと「睡眠休憩」はどうなるのかな? いくら栄養が十分でも24時間連続では戦えないよ?


「眠くならなくする『オクスリ』と、1時間で8時間分の睡眠がとれる『オクスリ』があるニャが、どっちが良いニャ?」

「ドーピング以外の何物でもないんですけど?」


 せめて「眠った」という事実は欲しいよな。


「後の方の薬で……」

「『1-8丸いっぱちがん』の方にゃ?」


 何ですか、その「一か八か」チックなネーミング。俺のことを責めるけれど、アリスさんのネーミング・センスも大概ですぜ。


「眠くなったら一声掛けてから、それを飲んで寝るニャ」

「寝る場所なんかありますかね?」

「カートの中に仮眠所が作ってあるニャ」


 うわぁー。何かブラックな感じ……。


「そのまま棺桶になっても良いように、高品質でありながら装飾を抑えた上品なデザインにしてあるニャ」

「眠りにくいわッ!」


 眠ったらそのまま永久とわの眠りに就きそうだわ! 転生したばっかりなのに、永眠は勘弁して。


「さて、思い残すことはニャイか? そろそろボス部屋にチャレンジするニャ」

「フロアボスだけは何が出るかわからないからね。そろそろ魔法系モンスターが出る可能性も捨てきれない。対魔法防御の体制を取ろうか」


 今後のこともある。予行演習を兼ねて、対魔法戦術を投入しよう。


「異議にゃいニャ。先頭は泥ボーズの2バイ2隊形。それにスラ1、コビ1、アリスにゃんの3人編成が遊撃で続く。トビーは上空、トーメーは後方から狙撃手として遠距離支援ニャ」

「ラジャー!」


「3-2-1、ゴー、ゴー、ゴー!」


 アリスのカウントダウンで泥ボーズがドアを蹴破ってボス部屋に侵入した。すぐに円弧型に展開して防御陣を張る。その後ろはアリスを頂点に、コビ1とスラ1が後方に並んだ楔形隊形である。

 トビーは上空を飛び回り、俺は全員の後ろからアサルト銃を構えて続いた。


 泥ボーズが射出したスタン・グレネードが閃光と轟音を発する。ちなみに俺たちは全員イヤピースとゴーグルを装着している。強い光と音はシャットアウトし、チーム内の交信は脳波通信で行う。


 泥ボーズは続けて催涙弾を射出した。


『フロアボスの存在を確認! IDはキメラ。火炎ブレスに要注意ニャ!』

『ラジャー!』


 俺とトビーは通常炸裂弾と超音波砲でキメラを狙撃する。さすがはフロアボスで、これまでの敵と比べると格段に装甲が厚くなっていた。

 しかし、攻撃が通らぬわけではなく、俺とトビーの狙撃はヒットするたびにダメージを積み重ねる。


 キメラは苦悶の叫びを上げるが、射撃に押されてその場を動けない。


 その間に泥ボーズが盾を掲げながら前線を押し上げて行く。ある程度接近すれば「2大変身ロボ」じゃなかった、「2大変身動物」のアリス&スラ1がステルスモードで斬り込むはずだった。


 あと少しで接近戦の間合いに入るというところで、キメラは戦況挽回に打って出た。


「ブレス」の使用である。


 大技特有の「タメ」として、大きくのけ反って息を吸い込もうとしたキメラに対し、俺たちは最大限の妨害策に出た。


 トビーはお得意の「超音波砲」を調整し、あえて可聴周波数まで落とした「可聴音波砲」を発射してキメラの頭部を襲う。

 俺は「液体窒素弾」に弾頭を切り替えて、アサルト銃を発射。

 泥ボーズは催涙弾を一斉射撃した。


 はっきり言おう。「オーバーキル」である! やり過ぎた。


 多分催涙弾だけで十分だった。思い切り息を吸い込んだところに催涙ガスが入り込み、キメラはブレスを暴発させた。その結果、ブレスは飛ばずに口の中で爆発し、キメラに大ダメージを与えた。

 大きくふらつくところに「可聴音波砲」だ。内耳まで耳の機能を破壊され、三半規管もずたずたになった。


 キメラは立っているのも難しい状態となった。


 そこへ、「液体窒素弾」が直撃した。体の前半分が完全に凍結し、キメラは地面にぶっ倒れた。皮膚と肉の一部が破片となって飛び散る。


 そこへ持って来て、「黒と青の悪魔」、地獄の2連星登場である。アリスとスラ1が左右から襲い掛かり、キメラを切り刻んだ。この時にはもう死んでいたと思う。


 もう止めて上げてと思ったのだが、泥ボーズを踏み台にして高々と宙を舞うコビ1の姿があった。お前は火星の大将軍か? 蜘蛛の糸を飛ばす全身タイツの人か?

 ハルバード(それ俺のなんだけど)を最上段に振りかぶり、動かなくなったキメラを首ちょんパした。


 いじめではないでしょうか? ここまで来ると。


「勝つ時は圧倒的に勝つ。それが戦いニャ」


 黒い悪魔が何か言ってます。ごもっともです。勝ってなんぼのダンジョンでございます。


「おっ? 宝箱が出たぞ!」

「今回は新人2号のコブサラダに開けてもらうニャ」


 何だか新人通過儀礼みたいになってきましたが、コビ1はハルバードの先っちょを伸ばして宝箱をちょんと突いた。爆発物処理班か?


「セーフニャ!」

「中身は……何だ、これ?」


『説明しよう! このアイテムは「キメラの骨ガム」である。愛犬家垂涎の的であるこのガムは、愛犬の歯を清潔に保つとともに顎の力を鍛え、噛み合わせも改善するすぐれた健康食品である』


「えーっ! また外れか……。泥ボーズ、火炎……うん? どうした、コビ1?」


 コビ1が欲しそうな顔をしてこっちを見ているぞ。


「これ、欲しいのか? 嚙みたいの?」

「わん!」


 良いお返事だこと。そんなに欲しいならね。


「いいけど、少しずつ食べな。気持ち悪くなったら『ペッ』てして」

「わん!」


 すげー食いつきいいじゃん。モンスターだしな。過去に食べたことあるのかしら?


『説明の追加をしよう! このガムを食べると、身体機能が改善し、跳躍力、敏捷性、筋力などの基礎体力がそれまでの2倍となる!』


「うおい! 大事な部分を追加で説明すんじゃねぇ! ウチのコビ1が『スーパーわん』になっちまったじゃねえか!」

「まだ空は飛べないニャ」


 そうだけど……。既に従来の2倍ですよ、お客さん。モンスターの壁を越えようとしてませんかね、ウチの子?


「ツン、ツン」

「うん? スラ1か? どうした?」

「ぷるぷる」

「自分もウマウマ欲しいって? お前良く食べるねぇ。じゃあ今度美味しそうなお宝が出たらね。今は飴ちゃんで我慢しときなさい」


 はい。今回はコーラ味です。しゅわしゅわするやつね。


「あれ? スラ1の体の中に泡が一杯立って来てるね? 飴ちゃんのせい?」

「異世界生物に気軽にエサを与えすぎニャ」


 だって、食べるからさ。大丈夫だと思うじゃない。


「ぷるぷる。げふっ」

「何々、これはガスだって? 飴から出たにしちゃ量が多いな。泡が集まって、1つになったね」

「ぷっぷるー」

「『ガス生成』のスキルが生えたって? 試しにメタンガスを作ってみた? おい……!」


 しゅごぉおおおおー!


「うわおっ! 突然の火炎放射!」

「スラ1が天然の可燃ごみになったニャ!」


 可燃ごみって何だよ? 火炎放射器でしょ!


――――――――――

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