第23話 いざ、作戦会議だ。会議は現場でするんじゃない! 会議室でするんだ!
「あれっ?」
棒術の連携技を見せようと思っていたブラウニーは、あっけなく倒れた敵を見下ろしてポカンとした。
型ってすごいね。ド素人相手だったら、圧倒的な猛威を振るう。
とにかく棒の動きが理に適っているというだけで勢いが違う。
こりゃあ、俺の出番は無いわ。楽で良いけど。
そもそもの話が、盗賊5に対してBB団6だからね。1人余っちゃう。
あ、ボルト君、休んでていいよ。馬車の運転、お疲れさま。
開始10秒で捕り物は決着が着いてしまった。
これなら、冒頭の小芝居とか要らなかったんじゃない? 俺とアリスさんの貴重な出番が不要とかって、悲しいんだけど。
よーし。こうなったらもう一軒、梯子だぞー!
大物釣りに行こうじゃないの。
何つったっけ、大物ギャングの名前? ベニー・キング? 何そのスタンド・バイ・ミーしてくれそうな感じ。
子分が20人だって? どうだろ? BB団は1人で2人は相手にできると思うけど、21人相手だとちょっと大変かなあ?
ちょっと間引こうか? アロー君は張り切らなくていいよ? 機動力ならトビーでしょ。
もしもし、トビー君? 悪いけどひとっ飛びしてお使い頼まれてくれる?
そう? 悪いね。そう、その農場を占拠してる連中。この際、農場半壊させていいからさ。悪い子も半分くらい
本当? じゃあ、頼むわ。今度羽繕いしてあげるからね。うん。
それじゃねー。はい。はい。はぁい。
さてと――。
「全員縛り上げたな、ブラウニー」
「へい、ボス。きっちりお縄にしてやりやした!」
「オーキー・ドーキー。じゃあ、馬車にぶっこんで街まで引っ立てようか」
「あれ? そしたら俺らの乗り物は……?」
察しが良いね、ブラウニー君。
「無いよ。街まで徒歩行軍だね」
「えーっ? そ、そうだ! こいつら盗賊団なんだから、馬ぐらい持ってるんじゃ?」
あらま。探したら小屋の裏手に馬をつないでいやがりましたよ。盗賊の癖に、贅沢だね。
結局ボンド君がまた馬車の御者としてトド一味を運び、ブラウニー以下5名は盗賊の馬をピンはね、もとい
あれ、こういうの討伐した人間の物になるって聞いたから、うちの財産が馬5頭増えちゃうんじゃない?
良いんだけどね。ウチは動物歓迎だから。
ただね。またBB団の序列が下がっちゃうよ? お馬さんの方がお利巧で、素直だもんね。
えっ? アロー君、何? 新人のお馬さんとお話してくるって? あ、はい。新人教育は任せますよ。
1人ずつ何か耳打ちしてるね。ていうか、ナノマシンを吹き込んでるのね?
もう、あれですか? 俺の意向とか関係なく、増殖しちゃう感じっすか? まあ、いいけどね。お馬さんは可愛いから。
カワイイは正義!
5名様新規ご加入ですからね。お名前も付けてあげないと。
えーと、今いるお馬さんは「アロー」と「ゴロー」でしょ? う~んとね。ヨシ! 決めた!
「タロー」を筆頭に「イチロー」から「シロー」まで命名してみようか。
アリスさん、悪いけど後で顔写真付きの馬軍団プロフィール集を送っといてくれる?
えっ? お馬さんがメスだった時のことは考えなくて良いのかって?
別に「男の名前」だなんて誰も知らないし……。時代はジェンダーレスよ。
◆◆◆
俺たちはトド一味を引き連れて街に入った。街の入り口を守る衛兵さんがびっくりしていたが、お尋ね者を詰め所に運ぶところだと説明して納得してもらった。「ヤマアラシのトド」は二つ名を持つくらいなので、衛兵さんにも顔が割れていて話が早かった。
詰め所では衛兵長監視の下面通しが行われ、一味の身柄に間違いのないことが認められた。
1時間かかったが、これで晴れて懸賞金授与ということになった。5千マリは50万円だから大金とは言えないが、半日仕事だと思えば7人で頭割りにしても悪くはない。
さて、小物の討伐は終了したので次は大物をやっつけますか。
キング一味。相手にとって不足はなさそうじゃない? 名前だけ聞けばさ。
よーし。酒場で昼飯を食いながら作戦会議だ!
「そういうわけで作戦会議を行う!」
「ボスの話が急展開なのはもうツッコミませんよ」
ブラウニーったら反抗期? それとも放置プレイという高等技術なのか?
「キング一味の攻撃力について連絡しておく。(アリスさん、敵の火力構成ってどんな感じ?)」
『弓×5、槍×5、タワーシールド×5、剣×5、デブ×1ニャ』
「えー。敵の攻撃編成は弓×5、槍×5、タワーシールド×5、剣×5、デブ×1となっているゾ」
『業務連絡。その内槍×2、タワーシールド×3、剣×3はトビー飛行兵が排除済み。戦闘不能ニャ』
「えー。内、えーと8名は別動隊により排除済み。残るは弓×5、槍×3、タワーシールド×2、剣×2、デブ×1だ」
『ちなみにデブ×1が親ビンの便意きんぐニャ』
『でしょうね! 何そのトイレにこもり切りになりそうな名前?』
「ボス。弓持ちが5名残ってるんですね? 俺たち盾なんかありやせんけど、どうやって矢を避けるんスか?」
「あ、ブラウニー君、質問時は挙手をして発言を求めるように」
「ボス、質問です!」
「はい、ブラウニー君」
「……面倒くさいですね。どうやって矢を避けたら良いでしょうか?」
「はい。良い質問です。そんな場合はアロー君の出番となります」
「馬ですか? 馬を盾にするんで?」
ぱかーん!
ブラウニーの頭が空っぽの音を立てた。
俺が便所スリッパで引っ
「ウチの子を盾にするわけないでしょう! アロー君は武器除けの
「まりょくですか?」
「そうよ。
「えー? そんなの上手く行くんですかぁ」
すぱーん!
ブラウニーの額が乾いた音を立てた。
俺がハリ扇でぶっ
「馬を馬鹿にしないように! アロー君は『できる子』です。ほいでもって弓兵戦とか面倒なので、さくっとアロー君が殲滅します」
「へい……」
後頭部と額を抑えながら、ブラウニーがしぶしぶ返事をした。
これは体罰じゃありませんからね。パーティ・グッズを
「んで、飛び道具が無くなったところで君たちBB団が『わーッ!』つって、棒を持って突っ込みます」
「何か、俺たちアホみたいじゃないスか?」
「はい、注目! 今、ブラウニー君が良いことを言いました。みんな、拍手をしましょう!」
88888。
「ブラウニー君には飴ちゃんを差し上げます。おめでとう!」
ウチのハニービー軍団が蜂蜜を集めてくれているからね。甘露な飴ですよ。蜂蜜入り。
「……あざす」
ブラウニー、ちょっと嬉しそうだね。知ってるよ、甘味好きでしょ?
飴と鞭よ、飴と鞭。ふふふ……。
『本当に飴を配る奴はいないニャ。関西方面の婆さん以外には……』
えー、だって様式美じゃん! ウチは伝統と格式を大事にしとるんどす!
「で、残るは槍×3、タワーシールド×2、剣×2、デブ×1であるわけだが……」
「そのデブ×1っての要りますかね。作戦立てるときに?」
ピコーン!
ブラウニーの脳天が素っ頓狂な音を立てた。
俺がピコピコハンマーで打ち抜いたのだ。
「様式美です。敵は当然タワーシールドを先頭に立て、その後ろから槍で突いて来る作戦を取るでしょう」
「俺たちは正面と側面に分かれて攻撃するんですね?」
「浅い! そういう貧乏くさい作戦は当家の家風に合いません。よし子さんもそろそろ上流の生活になじんでもらわないと。オホホホホ……」
俺は手の甲で口元を覆う、昼ドラお馴染みのポーズで姑さんロールプレイを決めた。昭和の昼ドラね。
「ちょっと何言ってるかわからないッス」
うん。今のツッコミはちょっと良かったのでセーフ。お
「BB団代表2名に正面突破してもらいまーす。やりたい人は挙手!」
「はい! キミとキミ!」
「ボス、こいつら手上げてないっす」
様式美だっちゅうねん。
「名前何だっけ? バットとボール? 野球少年かよッ!」
あんまり適当な名前ばっかりだと怒られるよ。誰か神様的な立場の人に。
「キミたちは六尺スタンのメモリを5に合わせて、ビビビッて壁役をやっつけます」
ちなみにメモリは1から10まである。10に合わせても巨大化はしない。
「で、後続2名。えっと、キミとキミ、挙手ね? 名前何だっけ?」
「ビューティとビーストです」
「美女と野獣かよっ!」
うん。今のはナイスなボケだった。いちご大福を上げよう。ウチの畑で摘んだいちごを美味しく大福で包みました。
「美女と野獣は、前衛のバットとボールを踏み台にして飛び越えます」
「えっ?」
「踏まれた方は必ず『俺を踏み台にしたぁっ?』と叫ぶこと。これは絶対に!」
「たぶんなんスけど……様式美ってやつで?」
「はい、正解! ブラウニー君がお利巧さんです! 拍手!」
うん。ヤングドーナツ上げよう。わけて食べてね。胸焼けするから。
「盾役を飛び越えた美女と野獣は、槍の馬鹿は放っておいて後ろの剣×2をビビビッとやっつけます」
「槍×3はどうするんですか?」
「乱戦に槍なんか持ってても間抜けなだけなので、アロー君が
「はあ」
お返事が悪いですよ、ブラウニー君。開いた口にジョロキア1本入れときましょう。ポイッと。
「で、最後のデブ×1は般若のお面を被ったワタクシことトーメーが仕留めます」
「げふっ。はんにゃって何だかわかりませんが、様式美っすね?」
学習したね! ブラウニーったらできる子。きなこ棒で口直しをしなさい。水分持って行かれるけど。
「さあ、策は成った。いざ行かん! 敵は本能寺にありっ!」
「「知らんけど、オー!」」
心のこもった勝どきを上げ、作戦ミーティングは終了した。
ニイタカヤマ登るぞー!
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
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