第7話 復讐の連鎖


 「達也くん!!聞きたい事があります!!」


 家帰り早々に瑠衣からの質問攻めに合っていた。


 「は、はい!なんでしょうか!」


 達也も瑠衣の気迫に押され背筋が伸びている。


 「何であんなに歌えて踊れるの!?本当に知らなかったの!?それとも、私に嘘をついていたの!?」


 瑠衣の目は血走っていた。

 それを見た達也は、これは冗談じゃないな。と思い、真面目に答えることにした。


 「その、本当に何も覚えてなくて。あの時、できたのが自分でも怖いぐらいで……」


 瑠衣は、達也の言葉に嘘を感じられなかった。

 そもそも、嘘ではなく本当だからなのだが。


 「なにそれ……まるで、生まれ変わったみたいな言い方するのね。まぁ、ここで何を言っても変わらないことわ、分かってるわ。だから、約束して!!そんなに嘘はつかないって!」


 ーーん?いま、そんなにって言わなかった?この流れで、そんなに嘘をつかないでって言うか?


 「えっと……そんなに?」


 「えぇ、そうよ。だって、絶対に!って言葉が、そもそも嘘みたいなもんでしょ?絶対にできることなんて、限りなくないし、その場を乗り切るための都合のいい言葉だと思うのよね。それなら、絶対って言うよりそんなにって言った方が、現実味があると思うのよね。あ、でも嘘をついて良いとは言ってないから。どうしても隠したい事があって、それを伝えられない時の嘘は必要だからね。嘘も方便って言うでしょ?」


 ーーいつも、思考を読まれてるんじゃないか?って思うほど、痛いところをついてくるな……もしかして、心を読むスキルを持ってたりしてね。ま、そんなことないか。

 

 「うふふ」


 「ん?何で急に笑ったんですか」


 「んん、困ってる君を見てたら何故か笑えてきてね。さぁ、これで約束もしたし、今日はご飯食べて明日に備えよう!」


 「え?明日もどこか行くんですか?」


 「当たり前でしょ!明日は、実際にうちで働いてるアイドルグループに会いに行くわよ!先輩たちの動きや、裏側も観れるから結構面白いと思うわよ?」


 「あはは、それは……すごく、楽しみですね……」


 達也は、瑠衣に見えないようにニヤリと笑っていた。



 次の日。

 達也は瑠衣の会社である『プリンス・ロード』に訪れていた。

 中には、最近有名になった『テラリック』と呼ばれている、女性アイドルグループがいた。


 「どう達也くん!ここが私の職場よ!!」


 「す、すごいです……可愛い人ばかりだ」


 「でしょ〜って、私も可愛いでしょうが!!そお言うところ、まだまだね」


 瑠衣は、ぷりぷりしながらアイドルグループの中へ入っていった。

 すると、その中から1人の女性を連れてきた。


 「達也くん、彼女がリーダーの『ネム』よ」


 達也の前には、これがアイドルだ。と、納得できる女の子が来た。

 髪は、明るい茶色のツインテールを下げ、瞳は吸い込まれそうになる程、大きく薄い青色をしていた。

 その全てのパーツが黄金比で作られた顔は可愛いと言わざるを得なかった。



 「可愛い……あ、あ、初めまして!!あ、あ、天野 達也っていいます。ね、ネムさん!」


 達也は緊張しすぎて、本音がポロリと出て、さらにカチカチになっていた。

 そんな達也を少し面白そうにネムが見ていた。


 「あはは。初めまして、私がテラリックのリーダー ネムよ。よろしくね。本名を使ってるってことは、まだ入ったばかりなのね。一応私達は先輩だから、何かあったら相談してね?瑠衣さんの悪口とか大歓迎だよ?」


 「な、ネム!!何言ってるのよあなた!」


 瑠衣は、顔を真っ赤にしながらネムを捕まえようとしている。

 しかし、歳の差か運動神経の差があるのか、ネムを捕まえることができず、達也の前をグルグルと空回りしながら走りっている。


 「あはは。冗談よ!じゃ、私レッスン行くから、またね達也くん!」


 「あ、はい!また……」


 達也は、まるでファンのように去っていくネムを寂しそうに見つめていた。

 

 「た!つ!や!くん!」


 見とれていた達也の前に、急に瑠衣が割り込んできた。


 「あ、瑠衣さん!その、アイドルって凄いですね!」


 「えぇ、そうね……凄いと思うわ。なんせ達也くんが、一瞬で落ちたからね。いい?初めに言っておくわよ?同じ事務所の女の子に手を出したらどうなるかわかっているわね?」


 瑠衣の目は全く笑っておらず、こめかみには青筋が浮かんでいた。

 

 ーーこ、怖い……母親以外で初めて女性のことを怖いって思ったかも。ただ、同じ事務所ってとこが気になら。他の事務所だったら良いってことなのかな。でも、ここで聞き返すとダメ!って言われそうだから、聞くのはやめておこう。


 「はい!もちろんです!手を出したりはしないです!


 達也は、背筋を伸ばし軽快に答えた。

 それを、ジト目で瑠衣は見ていた。

 

 「ふ〜ん。まぁいいわ。それだけ約束してくれるなら、後は迷惑さえかけなければ問題ないわ。じゃあ、私は少し外すから他の子達もいるし、回って話でもしてみたら?良い情報が聞けるかもよ?」


 「はい!そうします!」


 瑠衣は、そう言って小走りでどこかへ行った。

 

 ーーさぁ、どうしようかな。


 周りを見渡すと、ダンスの練習をしている人達に、歌を歌っている人など…必死に練習をしているアイドルがいた。

 

 ーーこんなに必死に練習しているのに、話しかけるなんてことできないでしょ。


 そんなことを思いながら、ふらふら歩いていると休憩を始めた1人の女の子がいた。

 肩にかかりそうになっている金色の髪は汗で濡れたせいか、髪先にカールがかかっていた。

 見た目は、喜怒哀楽がハッキリしてるネムと違いジト目で表情が分かりにくい顔だった。

 だが、可愛い顔をしたネムと違い、目鼻がしっかり整った綺麗な顔立ちだった。 

 あまりに整いすぎて、少し怖く見える。


 「あ、あの……初めまして」


 「はぁ…はぁ……」


 汗だくで息が切れている女の子は、息を落ち着かせながら達也のことを、マジマジと見ている。  

 

 「あ、あの、達也って言います。その、忙しい?ですよね!ごめんなさい!」


 達也は、これはウザがられてると思い、その場を離れようとすると、服の袖を優しく引っ張られていた。


 「はぁ…はぁ…どこへ行くつもりなの。息を切らした女の子に話しかけといて。あせって逃げるつもり?」


 女の子は、目を細めながら達也を睨んでいる。


 「あ、あの、その。ごめんなさい。今日が初めてで」

 

 「ふ〜ん。それで?私に何を聞きたかったの?まさか、疲れ切っている女の子に適当に声をかけたってわけじゃないよね?」


 もちろん、達也に聞きたい事はなく、本当に適当に声をかけてしまっていたので、返答ができず固まっていた。

 

 「はぁ……最低ね」


 女の子は、呆れた顔をしながらも、溢れ出る汗を拭いていた。

 その汗は、不快な感じはせず触りたくなる程、綺麗だった。

 が、そんなことをすれば、殺されてしまう。と、理性を保ちながら、女の子を見ていた。


 「なによ……見てないで、何か言ったらどうなのよ」


 「あ、すみません!僕、本当に何をしたら良いかわかんなくて。困っていたら、君がその……目の前に見えたから。自然と声をかけてしまって……」


 達也は、どんな言い訳をすれば、許されるのか分からなかった為、オブラートに包みながら素直に話した。


 「そう、やっぱり適当だったのね。まぁ、いいわ。それも何かの縁って思うようにするわ。私の名前は、本田 まゆ あなたと一緒で、まだ入ったばかりよ。それで、あなたの名前は?」


 「あ、はい! 天野 達也 って言います!よろしくお願いします」


 「そう、達也って言うのね。あなたも、アイドルになるの?」


 「うん、一応そう見たい」


 「はぁ?一応ですって?そんな軽い気持ちでここに来たって言いたいの?」


 まゆは、眉間に皺を寄せ達也を睨んでいた。

 それもそのはず、この場では全員が上を目指し日々努力してるのだ。

 その場に、何となくできたと言った達也に、怒りを隠せないのも無理がなかった。


 「いや、そう言う事じゃなくて」


 「じゃあ、なんなの!」


 まゆの口調は少し強くなり、もう少しで爆発しそうに見えた。

 そんな様子を見た達也は、必死に弁解をした。


 「実は僕、弥生 実に勝ちたいんです!その為に、アイドルをやるのかまだ決まっていなくて。それで、一応って言っちゃったんだ。ごめんなさい」


 達也は、素直に過ちを認め頭を下げた。

 もちろん、まゆもそれ以上怒るつもりはなかった。むしろ、笑っていた。


 「あはは。あの弥生くんに勝ちたいって凄い目標ね」


 「な、そんなに笑わないでよ!本当に、思ってるんだから!」


 笑われたせいか、少しムキになっていた。


 「あはは。ごめんごめん、私と似たような目標を掲げていたからさ。嬉しくてね。まぁ、私の場合は弥生くんじゃなくてこの人だけどね」


 まゆが携帯を開き、何かを調べていた。


 「ここで名前を上げると、笑われるから写真だけ見せるわね」


 まゆの画面には、見覚えある女が写っていた。

 それは達也が死ぬ日にいた助けを求めてきた女にそっくりだった。

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