第5話 照明




 この世界には、魔法は無い。

 あるのは、知識を集めた化学、人間の心理を使ったマジック、人の心を支配するマインドコントロール。

 そして……不可思議な力を持つインチキくさい超能力者。

 さぁ、皆さんに聞きたい。

 あなた達もきっと、見たこと聞いたことがあるんじゃ無いですか?超能力を使う人を。

 それをテレビで見たことがある人、あるいは直接会った事がある人、もしかしたら、それは自分のことだと思う人もいるかも知れません。


 では、あなたが実際に超能力者だとして、その能力が実在すると、世の中の人間にどうやって証明しますか?


 特定の機関に出向き、実際に見せ証明しますか?

 きっと学者は、人間の脳に眠っている本来の力だと言い、実験され表には出ないでしょ。


 いやいや、それじゃあ世の中に証明できないじゃないかって?

 ならテレビで実際に力を見せますか?

 確かに、大勢の人間……国内いや、世界中の人間に見せる事はできるでしょう。

 でもそれだったら、皆さん見た事があるのでは?

 ドラマ、映画、最近はCMまで人が特殊な能力を使う映像なんていくらでもありますよね?

 きっと、あなたの力が本物でも合成やCGだと言われるでしょう。


 それを言うなら撮影してる人達は!?実際に見てるじゃないか!?って思いますね。

 きっとその人達も、世の人間もそれをマジックと言い張るでしょう。

 そう、見る機会は沢山あるのに、誰も認めようとしない。これが、今の世の中です。

 そんな馬鹿な?って思いますよね。

 なら、自分の記憶を思い返してみてください。あなたは、きっとそれをみてると思います。ですが、それを信じて素直に認めましたか?

 きっと答えは、NO。ですよね?

 では、なぜ人の力とかけ離れた、誰が見ても超能力だ!!って分かる力が無いのか不思議ですよね。

 その答えは、きっと少し前に聞いたと思います。


 では、ここでひとつ質問です。

 もしも……超能力を持った悪役がいて、あなたはそれを止めるヒーローです。

 悪役は、超能力を使いみんなを知らぬ間に困らせ、世界を我が物にしようとしてます。

 そして、その悪行を知っているヒーローであるあなたは、世の中の人間の目を覚ます為に、彼の悪行を証明する必要があります。

 さぁ、彼の悪行をどうやって証明しますか……?

 




 「……達也くん!起きて!」


 「っがは!はぁはぁ、あれ、ここは!?」

 

 達也は、瑠衣の声で目覚めるも見たことのない光景に軽いパニックを起こしていた。

 

 「だ、大丈夫?私のこと覚えてる?」


 「はぁはぁ……あ、はい。瑠衣さんでした。ごめんなさい、取り乱して」


 「んん、私は大丈夫だよ!まぁ慣れるまでは少し時間がかかるかも知れないね。それじゃあ、気分がてらご飯食べて準備しよっか!」


 「あ、はい!すみません、ありがとうございます!」


 達也は、瑠衣が作った普通に美味しい朝食を食べ、渡された服に着替えた。

 白のワイシャツに、黒のデニム。

 どこにでも居るであろう、メジャーなファッションだ。

 

 「それで、これからどこに行くんですか?」

 

 「決まってるでしょ!まずは、トレーニングだよ!」


 「ん?トレーニング??」


 よく分からないまま、瑠衣について行くとある施設の前で止まった。


 「え……っと。アイドル育成場??」


 「そう!!まず君がやるのは、歌声のチェックだよ!その後は、ダンスに演技などなど。君がなにができて、なにができないのか予め知っておく必要があるからさ!」


 「嫌です!!行きたくないです!」


 達也は、瑠衣の話を聞くやいなや子供のように強く拒否をし出した。

 

 「え、ちょっと、急にどうしたの?」


 「嫌なんです。僕、すごい、音痴なので……」


 「あぁ……なるほど。でも、安心して!私も音痴だから!」


 瑠衣は、頬を赤くしながらぎこちない笑顔だった。


 ーーめちゃくちゃ、恥ずかしそう。


 「瑠衣さん、なんのフォローにもなってないです」


 「いいの、いいの!それに、ここの先生は弥生くんを見ていたこともあるんだよ。どう?負けたくないよね?」


 「行きます。行かせてください」


 復讐の為に全ての羞恥心を捨てると、達也の瞳は生きていないかのように座った。

 

 「おぉ……本当にすごい執念だね。お姉さん、ちょっと怖くなってきたよ。お願いだから、弥生くん殺しちゃったとかやめてよ?」


 「アハハ。ナニヲユッテイルノデスカ、ソンナコトスルハズガアリマセン」


 棒読みのフレーズに全く笑ってない瞳に、瑠衣は背筋が冷たくなるのを感じていた。 

 本当に、この子を育ててもいいのか……だが、瑠衣自身も弥生に対しては敵対意識はあるので、若ければこれぐらいの負けん気がなければダメか。っと自分を納得させた。

 

 彼女は後に、良くも悪くも達也の復讐に巻き込まれることになる……

 良くも悪くもとは言っても、笑えることはひとつもないとここでは言っておこう。

 

 

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