第33話 会場を抜けて



 ラウロが参加してから、しばらくご令嬢達と一緒にお菓子とお茶を楽しんだ。

 令嬢達からの質問がほとんどだったけど、ラウロと私の関係について聞かれることが多かったわね。


 別に見ての通り、公爵令嬢とその専属騎士というだけなんだけど。


「そ、それ以上の関係では?」

「何かその関係を超えたものはないのですか?」


 とか興奮した様子で聞かれたんだけど……よくわからなかったわ。


 ラウロには専属騎士として私の警護をしてもらっているから、信頼はしているけどね。

 ラウロも色々と質問をされていたけど、必要最低限のことしか喋っていなかった。


 ただお菓子は気に入ったのか、私と同じようにバクバクと食べていた。

 令嬢達のように太るとかは全く気にしなくていいだろうから、気に入ったのならいっぱい食べるべきね。


 なんだかその様子を見ているとやっぱり犬、番犬みたいで可愛いと思ってしまったわ。


 ……少しお茶を飲みすぎてしまったかしら。


「失礼、席を外させてもらうわ」

「お供します、アサリア様」


 私が席を立ったら、条件反射のように立ち上がってついてこようとするラウロ。


「待ってていいわよ、ラウロ。私は化粧直しに行ってくるだけだから」

「化粧直し? 特に崩れているようには見えませんが。いつも通り、お綺麗なままです」


 その言葉に周りの令嬢達が少し黄色い歓声を上げたのが聞こえたけど、私は少しため息をつく。


「ラウロ、それは嬉しいけど、そういう意味じゃないのよ」

「? どういう意味でしょうか」


 私はラウロに近づき、耳元で他の令嬢に聞こえないように伝える。

 多分、他の令状はすでに気づいていると思うけど。


「私が行きたいのはお手洗いよ」

「っ、すいません、失礼しました」


 すぐに頭を下げるラウロ、恥ずかしかったのか頬が赤くなっている。

 私も少し恥ずかしいけど、まあラウロなら仕方ないだろう。


「いえ、大丈夫よ。だからあなたはここで待ってて」

「はい、かしこまりました」

「皆さん、ラウロをここに置いていきますが、この通りあまり配慮が足りないところがありますが、お手柔らかにお願いね」


 私がそう言って離れると、ラウロが令嬢達に囲まれながら席に着いたのが見えた。


「ラウロ様、アサリア様がいない時にぜひお聞きしたいお話があるのですが……!」

「アサリア様個人のことは俺から話すことは出来ませんが」

「いえ、そうではなく、ラウロ様のお気持ちなどを――!」


 そんな声が聞こえたけど、私はその場から離れて化粧直しに向かった。



 化粧直しを終えて、私は会場に戻ってきた。


 ラウロは令嬢達としっかり話しているかしら?

 まあ全く喋れないわけじゃないから、大丈夫だと思うけど。


 私がラウロ達が待つところに行こうとしたら、後ろから声をかけられた。


「アサリア嬢」

「あら、アレクシス様」


 この祝賀会を開いてくださったモーデネス公爵家の嫡男、アレクシス様だった。


「パーティ、楽しんでいるかい?」

「はい、とても楽しいです。私達のためにこのような祝賀会を開いてくださり、本当に感謝しております」

「モーデネス公爵家の名誉と、人々の命を守ったんだ。このくらいは当然だよ」


 アレクシス様は戦場で見た厳しい顔つきではなく、いつも通り飄々とした余裕な笑みを浮かべて話しかけてきた。


 だけど、どこかいつもよりも真面目な感じがあるかも?

 私の勘違いかもしれないけど。


「今、時間はあるかい? 少し二人で話したいと思ってさ」

「時間ですか? はい、もちろん大丈夫ですが」


 ラウロ達のところに戻ろうとしていたけど、少し遅れるくらいなら大丈夫でしょう。


「そうか、じゃあついてきて」

「はい」

「……お手を取ってもいいかい?」

「えっ? あ、はい、お願いします」


 まさかアレクシス様にそんなことを言われるとは思わず、少しビックリした。


 だけど別に深い意味はないだろうと思い、私が手を差し伸ばすとエスコートをするように、私の手を取ってくれたアレクシス様。


「うん、では行こうか」

「はい」


 そして私とアレクシス様は会場を出て、外へと向かった。


 すでに外は日が沈んでいて、結構暗くなっていた。


 だけどモーデネス公爵が用意してくださった会場なので、中庭には明かりがついており、花畑がライトアップされていてとても綺麗な場所だった。


「会場からは結構離れているから、ここなら誰も来ないだろう」

「はい……それで、お話とはなんでしょうか?」


 アレクシス様が私の手を離し、私と向き直った。

 いつも通り、優しげな笑みを浮かべている彼だが、さっきよりも真面目な雰囲気があった。


「まだしっかりお礼を言ってなかったから。アサリア嬢、君が東の砦に来てくれたお陰で、本当に助かった。ありがとう」

「そのことですか? もうすでに言われましたが……」


 アレクシス様から直接言われたこともあったし、当主のミハイル様からも何回も言われている。


「何回言っても言い足りないよ。だから改めてもう一度、僕は君に言いたかったんだ。本当にありがとう、アサリア嬢」


 私に軽く頭を下げてお礼を言ったアレクシス様。


「このパーティはお礼として開いたけど、まだまだ恩は返しきれていない。何か力になれることがあったら言ってくれ。個人的なことでも、公爵家の力を使ってでも助けになるよ」


 お礼としてこんな素晴らしいパーティ、美味しいお菓子を用意してくれたけど、公爵家同士のお礼としてはまだ弱いのだろう。


 お兄様も言っていたけど、公爵家に恩を売れたというのは大きだろう。

 まあ私はそこまで恩を利用して何か悪巧みをしようとは全く思ってないけど。


 あるとしたら、ルイス皇太子とオリーネを貶めるために、何か手伝ってもらうことかしら?

 だけど自分の力でやりたいし、本当に利用することはないかもしれないわね。


 私はただ、無事に助けられただけで十分だったから。


「はい、ありがとうございます、アレクシス様。何かありましたらよろしくお願いします」

「ああ、いつでも君の力になるよ」


 私とアレクシス様はそう言って笑い合った。


 しかし、用件というのはこれだけなのかしら?

 お礼を言うくらいなら会場を抜け出さなくても別によかった気がするけど。


「他に何かお話はありますか?」

「ん? ああ、そうだね……アサリア嬢には僕と話す時は敬語なしでお願いしたい、ってくらいかな?」

「それは前にも言いましたが、私は婚約者がいる身ですので他の殿方と親しげに話すのは避けた方がいいと思いまして」

「だけど、婚約破棄するんでしょ?」


 アレクシス様は少しニヤッとしながら、何も包み隠さずに言ってきた。

 前に会った時にも気づいているようだったけど。


 さすがにこの話は会場では出来ないわね。


「……今はまだ決まっておりませんので、お答えすることは出来ませんが」

「あはは、それは破棄することは確定で、いつ破棄をするか決まってないだけでしょ?」

「さあ、どうでしょうか」

「ふふっ、君も悪だね。あんなアホみたいな皇太子、さっさとフっちゃえばいいのに」

「悪女で結構です。私はそのように生きると決めていますので」


 私も彼のようにニヤッとするように、悪女のように笑いかけた。


 アレクシス様は私の表情に驚いたのか目を見開き、そしてまた優しげに笑った。


「そっか……じゃあ今は敬語でもいいよ。それより、話したいことがもう一つ」

「なんでしょうか?」

「僕と、婚約しない?」

「……はい?」


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