第31話 授与式
私とラウロが東の砦でモーデネス公爵家と共に戦ってから、数日後。
皇宮にて、私とラウロの授与式が行われていた。
担当している砦ではないのに東の砦の危機に駆けつけ、モーデネス公爵家の当主の命、そして砦を突破されていたら失われていたであろう多くの命を救ったということでの褒章だ。
公爵家が砦を守るのは当たり前というか、その責務があってこその四大公爵なのだが、他の公爵を救ったというのは今までに一回もなかったことらしい。
だからこそ、ここで私に褒章を授与することにより、帝国の危機があれば公爵家同士でも協力して欲しい、という意図もあるようだ。
授与式の場、周りには四大公爵が勢揃い。
私とラウロはその真ん中で、皇帝陛下の前で跪いている。
「アサリア・ジル・スペンサー令嬢。そなたは帝国に大きな功績を残した。その功績を讃え、皇室薔薇勲章を授ける」
「光栄でございます、皇帝陛下」
私は大きな薔薇が描かれた盾の勲章をいただいた。
帝国の勲章の中で、最高の勲章だ。
平民がこれを授与されれば、一気に伯爵くらいまで爵位を授かるだろう。
公爵である私が貰っても爵位が上がるわけではないが、公爵令嬢の中でも頭一つ抜けた存在にはなる。
「騎士ラウロ。そなたの素晴らしい功績を讃え、騎士爵位を与える」
「ありがとうございます、皇帝陛下」
ラウロには騎士爵位、これでラウロは平民ではなく貴族となった。
位置としては男爵とほぼ同じだが、これまでと大きく違うのは家名を名乗れることだろう。
皇室から名を授かることも出来るのだが、ラウロは自分で決めることを選んだらしい。
ラウロの中で名前の候補があるのかしら、どんな名前にするのか楽しみね。
授与式が終わり、私とラウロはいろんな方にお祝いの言葉をもらう。
私は笑顔を絶やさずお礼を言い続ける……少し疲れてくるわね、これ。
そして最後に、ルイス皇太子が側に寄ってきた。
「……おめでとう、アサリア」
「ふふっ、ありがとうございます、ルイス皇太子」
回帰する前から含めて、ルイス皇太子に「おめでとう」なんて称賛されることはなかったわね。
ルイス皇太子だけじゃなく、これほどの人に褒められることはなかった。
むしろ悪い噂が流れてばかりだったから、回帰する前と比べると私に対しての評価は、随分と違うものになってきただろう。
「さすがは俺の婚約者だ。とても素晴らしい功績を残したな」
……ふふっ、この人は私をイラッとさせる能力だけはあるようね。
「お褒めに預かり光栄です。しかしルイス皇太子、女性を褒める時にそのような言い方はいかがなものかと」
「なに?」
「まるで自分の所有物のような言い方……皇太子ともあろうお方がそのような言葉でしか女性を褒められないというのであれば、問題かと思いますが」
おそらく「俺の婚約者」と言うことで、皇帝陛下や公爵の方々に私としっかり婚約しているということを示しそうとしたのだろう。
しかし私はルイス皇太子との婚約をいつでも破棄出来るし、このまま結婚をするつもりは一切ない。
だから周りに「あの二人は仲良くやっていないようだ」と思われても問題ないし、むしろ思われた方がいい。
「っ……それは失礼した」
あら、素直に謝るなんてとても珍しいわね。
まあここには皇帝陛下もいるし、他の四大公爵の方々も揃っている。
そんな中でこれ以上の恥はかけないだろう。
「帝国の褒章の中でも最高のものだ、アサリアの素晴らしい行動を称えるにはそれでも十分じゃないと思うが、おめでとう」
「ふふっ、ありがとうございます。そうですね、この素晴らしき褒章は、男爵でも皇室と婚約を認められるほどの褒章ですからね」
「っ!」
ルイス皇太子の身体がビクッとして、目が大きく見開いた。
やはり今回もすでにそれを考えていたようね。
回帰する前、私と婚約を破棄したルイス皇太子はオリーネと婚約し結婚をするために、オリーネにこの皇室薔薇勲章を与えた。
聖女として働いていたオリーネは数人の命を助けた時に、今後も多くの命を助けるだろう……という結構適当な理由で。
ただその勲章を授かった聖女オリーネは、ルイス皇太子と婚約しても全く問題なく、そのまま皇太子妃となった。
回帰する前、ルイス皇太子が私と婚約破棄しても皇太子でいられたのは、私がとても評判が悪く、最高の褒章を受け取ったオリーネと婚約したからだ。
ただ今回はもう私に悪い評判はなく、むしろ最高の褒章を先に私が受け取った。
もうこの人が皇太子のままいられる道は一つ、私と婚約をしたまま結婚すること。
ただそれは絶対にありえないけどね。
「ルイス皇太子、私にお言葉をかけていただくのも大変嬉しいですが、今日の主役はもう一人いらっしゃいます」
「っ、ああ、そうだな」
ルイス皇太子は私の言葉にとても驚いているようだったが、気を取り直すように咳払いをしてから、私の隣にいるラウロを見る。
「騎士ラウロ、爵位授与おめでとう」
「……ありがとうございます、皇太子殿下」
軽く会釈をするラウロ。
ふふっ、前に怪我を負わされた騎士に「おめでとう」って笑みを浮かべて言わないといけないのは、どんな気持ちなのかしら?
怪我を負ったのはルイス皇太子が殴ったからだけど。
「ではルイス皇太子、私達はこれで失礼いたします」
「あ、ああ……」
引き攣った笑みをして私達のことを見送るルイス皇太子に、私は今日一番の作り笑いが出来た気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます