第20話 女たちの戦い
「よーし、文化祭については決まったな! でも、お前たちいいか? 文化祭も大事なイベントだが、くれぐれも受験生ということを忘れ――」
先生が何か大事なことを言っているようだが、私は予想外のこの状況を理解しようと必死になっていたため、言葉の続きが全く頭に入ってこなかった。
ミスコンのクラス代表に選ばれてしまったが、本当に私なんかで良かったのだろうか……。だって私は、中学1年生の時に起こった部活でのトラブルにより、クラスの中でずっと孤立していた人間なんだ。
あの時なんで手を挙げてしまったのだろう……。これまでどおり無関心を装っておけば良かったのに……。でも、‟みんなと一緒に文化祭に参加したい”と思ってしまったのだ。
クラス制作に自分の案が採用されたことは喜ばしいことなのだが、変に目立ってしまったせいでとんでもないことになってしまった。
話し合いが終わると、私は重い気分のまま教室を出てノロノロと廊下を歩いた。すると、同じく廊下にいた美歌が私を呼び止めた。
「奏ちゃん! ミスコンのクラス代表になったんだってね?」
「もう聞いたの? 美歌ちゃんも?」
「うん、もちろんだよ~! それじゃあ、奏ちゃんと私はライバルになるってわけかぁ!」
さすが‟学年一の美少女”と呼ばれるだけあって、美歌は自分がクラス代表に選ばれたことにプレッシャーを感じず、むしろその立場を楽しんでいる様子だ。
「あれ? 暗い顔してどうしたの?」
私の様子を察し、美歌が私の肩に腕を回し顔を覗き込んできた。
「う、うん……。もちろんミスコンのこともあるんだけど、クラスのみんなと何かをするってことがあまりに久しぶりすぎて、みんなと上手くやれるか心配で……」
「何言ってんの〜! 今日まで私たちと普通にやってきたじゃん! 奏ちゃんはそのままでいいんだよ~!」
美歌は笑いながら私の背中をバシッと叩くと、『お互い頑張ろうね~』と言い、鼻歌を歌いながら友達が呼ぶ方へと歩いて行った。
それから数日後、文化祭の準備が本格的に始まると、学校全体の空気がソワソワしたものになっていった。
「うわっ、
「あ、ありがとう……」
一緒に作業をしていた男子が、私がくり抜いた箇所を見て褒めてくれた。
嬉しくなった私は、改めてその箇所の出来栄えを確認する。すると、響が背後から声をかけてきた。
「奏、大丈夫? 無理してないか?」
「響……。うん、大丈夫。ありがとう」
私がそう答えると、先ほどの男子が私たちの方を見て首を傾げた。
「前から気になってたんだけどさ、匹田と音羽さんって下の名前で呼び合ってるよな? もしかして二人付き合ってんの?」
「はっ!? まさか! 俺たちバンド仲間だからだよ!」
「あっ、そうなんだ~。てっきりそうかと思ってたわ~。あっ、そうだ! 匹田たちのステージ演奏、すっげぇ楽しみにしてるから頑張って!」
「お、おうっ!」
私は笑顔を崩さずその場にいたが、心は少し傷ついていた。
この夏、花火大会で響と手を繋いだ。夏休みの廊下で抱きしめられたりもした。私にとってどれも特別な思い出だったのに、響にとってそれは、単なるバンド仲間に対するメンバー愛的なものでしかなかったようだ……。
次の日の昼休み、いつものとおり屋上でフルートの練習をしていると、ふらりと美歌がやって来て、私のそばに立ちこちらをじっと見つめてきた。あまりに真面目な顔をしているので、私もフルートを下ろして美歌を見つめ返した。
「ねぇ奏ちゃん、知ってる?」
「……何を?」
「ミスターとミスコンで優勝した二人って、後で必ずカレカノになるんだって」
「そうなんだ……」
「興味ないの?」
美歌は一体何を言いたいのだろうか……。私が答えに困っていると、美歌はこの話を持ち出した一番の目的へと話題を変えた。
「奏ちゃんって響くんのこと好きだよね?」
「‟好き”……なのかな? でももしそうだとしても、響は私のことバンド仲間としか思ってないし……」
「それ響くんが言ったの?」
私がコクンと頷くと、美歌は顎に手を当てたまましばらく黙っていた。しかし、すぐに自信たっぷりな笑顔を見せると、人差し指で私のことをビシッと指さした。
「じゃあさ、勝負しようよ!」
「え? 勝負?」
「ミスコンで勝った方がステージ上で響くんに告白する」
「なにそれ……。そんなのヤダよ」
「奏ちゃん、何もしないまま響くんを私に取られちゃってもいいの?」
美歌の大きな瞳に見つめられ、私は響のことを思った。
響は私のことをいつも気にかけてくれていた。それなのに私は素直になることができず、彼に対し優しく受け答えをすることができなかった。それでも響は私を見放さず、ずっとそばにいてくれた。
だから私は響のことを特別に思っている。付き合いたいとかは分からないけれど、誰にも渡したくない存在であることは確かだ。
「……わかった。勝負する」
美歌はかなりの強敵だし、フルート以外に取り柄のない私だけど、この勝負だけは絶対に負けたくない。私たち【カラフル】女子チームの熱い戦いが始まった。
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