第154話 異常な村 そして強襲

 村の中。ラルカはクロノスとアリアを連れて宿へと入った。


「ふう。ようやく休める。なんなんだ。この村は」


 ラルカはげんなりとした様子で窓から村を見ていた。それもそのはず、村や個室の壁、天井にはミカエルとウリエルのツーショットイラストが大量に貼られていた。その他にもミカエルを崇めよと書かれているポスターやウリエル×ミカエルこそ至高と書かれた看板なども飾られている。極めつけはカイツの顔が描かれたポスターにはナイフや矢が突き刺さっており、絶対に許すな、殺せカイツ。奴は人類の敵と赤いペンキで書かれている。


「見るだけでげんなりしてくるな。ウリエルというのはこんなに馬鹿なやつなのか?」

「あいつは馬鹿ですよ。変態ストーカーみたいな思考してますからね」

「そんな変態ストーカーにボコボコにされるとかなっさけないね~」


 アリアが見下すような目でそう言うと、クロノスに額に筋が浮かび、空気が重くなる。


「あの馬鹿は実力だけは本物ですからね。そういう畜生こそ、6割程度の力しかないミカエルにボコボコにされたと聞きますが。あなたは私より情けないんじゃないですか?」


 その言葉でアリアの額に筋が浮かび、空気が更に重くなる。


「あのババアもそれなりに強かったからねえ。次戦ったら私は勝つ自信しかないけど」

「負け惜しみとは畜生らしいですね。私みたいな人間はとても恥ずかしくてできませんよ」


 また空気が重くなっていき、ラルカの胃がキリキリと痛み始める。


「おいお前ら。醜い争いをするな。我からすればどっちもどんぐりの背比べだ」


 そう言った瞬間、アリアとクロノスの殺意のこもった目が向いた。


「こんな畜生と一緒にしないでください」

「こんな雑魚と一緒にされると腹立つんだけど」

「なんでそう仲が悪いんだ。少しは仲良くしろ! 仲間同士で争うなど愚の骨頂だぞ。矮小なる頭でもその程度のことは分かるだろ。全く。愚か者どもはこれだから」

「「あ?」」


 2人から尋常ではないほどの殺気と圧が飛び、ラルカの背中に氷柱が刺さったような寒気を覚えさせる。


「うっ……ごめんなさい。言い過ぎました」


 流石のラルカも2人の殺気を前には何もできず、謝って小さくなってしまった。


「くそお。偉大なる我がこんなことで……くそおお」


 2人はそんなラルカの姿を無視して会話を続ける。


「それで? 明日はどうするつもりなの?」

「神社に行って別世界に行った後、ウリエルの出方を見ます。今度は確実に殺すためにも、色々策を弄さないといけませんからね。畜生はどうするんですか?」

「匂いを追って見つけて殺す。不意打ちを決めれば殺せるだろうし、無理だとしてもかなり削ることが出来るはず」

「ふん。捕らぬ狸の皮算用にならないと良いですけどね」

「負け犬がキャンキャン吠えてるねえ。何言ってるかよく分からないや」


 更に空気が重くなり、2人の目つきが鋭くなる。さらに魔力の圧も大きくなり、部屋にヒビが入る。


「あ、大事なこと忘れてました。ここを荒らそうとするかもしれない畜生を殺さないといけないんでした。今から外に行きませんと」

「私も今用事を思い出したよ。サイコパスの雑魚ツインテを殺さないといけないんだった。今から外行かなくちゃ」


 そうやって2人が出て行こうとすると、壁から鎖が飛び出し、2人の体を雁字搦めに縛る。


「行かせるか矮小な馬鹿者どもが! お前たちがここで暴れたら迷惑なのだよ! それにカイツに怒られる! 良いか? 我の目が黒いうちは貴様らを行かせることなどしない。ただでさえ面倒なことが山積みだ。これ以上面倒ごとが増えると、右腕が過労死するぞ? 貴様らは我の右腕を過労死させるほどの愚か者なのか?」


 ラルカがそう言うと、魔力の圧や殺気がみるみると小さくなっていった。


「ふう。落ち着いてくれて良かった。さて。さっさと寝ーー! この感じ」


 ラルカは遠くに感じる妙な圧を感知した。それはアリアとクロノスも感じていた。


「この魔力。六神王よりはしょぼいけど、そこそこできるね」

「ですね。まあ、それでも問題ないですよ。今のカイツ様ならば」

「だね。他に危なそうな奴はいなさそうだし、これなら助けは必要なさそう」






 side カイツ


 俺は馬車の中で席に座り、窓の景色を見ながら夜を過ごしていた。中がそこまで広くないので寝転がることが出来ず、こうして座ることしか出来なかった。


「……はあ。眠い」


 馬車の中でも眠れないわけではない。だが、今は周囲に魔物が何匹もいるし、ウリエルのこともあるからおちおち眠ることなど出来ない。何故か知らないが、俺はウリエルにめちゃくちゃ嫌われてるみたいだし、いつ襲われてもおかしくないからな。


「大丈夫か? カイツ」


 ちっこいサイズのミカエルが実体化して俺の膝の上に座り、心配そうにそう聞く。


「心配ねえよ。体はすこぶる快調だ」

「それなら良いのじゃが、にしてもお主も大変じゃな。空気男と戦い、妾の半身を取り戻し、帰ってきたらウリエル討伐。あまりにもハードスケジュールすぎるわ」

「ま、今は騎士団も大変なことになってるから仕方ねえよ。俺は自分に出来ることをやるだけだ」

「全く。お主、少しは自分のことを考えた方が良いと思うぞ? お主に無理されると妾もしんどいし、何よりお主が苦しむ姿は見とうない」

「大丈夫。ちゃんと考えてるよ。そんな心配するなって」

「心配するわ。カイツ、お主は何のために戦う。誰のためにその剣を振るうのじゃ?」

「弱者を虐げる外道を倒して、誰も虐げられることのない世界を作るためだ。二度とネメイツやテルネのような人を出さないためにも。そのためにも世界を変えたいんだ」

「……お主。他人に縛られ過ぎてないか? 妾の経験じゃが、他人に縛られ過ぎた人間の末路は悲惨なものじゃぞ。少しはお主のためだけに戦うのも良いと思うがの。アリアを見てみろ。あやつは自分のためだけにしか戦っておらんのじゃぞ」

「ははは。心配するなよ。これは俺の意思だ。誰にも縛られてねえよ」

「じゃが、弱者が虐げられる世界を変えたい。それはテルネの望みじゃろ? その望みを叶えようとする行為は、縛られてないと言えるのか?」

「言えるさ。あいつの望みが俺の望みなんだ。誰にも縛られてはいない」

「……なら良いが、カイツ。間違っても自分の価値を軽くするなよ。生きている者が一番に優先すべきは己自身じゃ。それを忘れるな」

「分かった。肝に銘じておくよ」

「頼むぞ。お主は人の忠告を無視するところがーー! この気配」

「ちっ。めんどくさいな」


 俺がそう言った直後、馬車が大爆発を起こした。その威力は小さなクレーターのような跡を作るレベルだったが、俺はその爆発でダメージを受けることは無かった。


「全く。移動用の馬車を壊すなよ」

「うけけけけけ。心配するなよ。てめえらはもうどこにも移動できないんだからな。にしても、あの爆発を躱せるとは運が良い男だなあ。あの爆発を無傷で躱されるとは思わなかったぜ」


 煙が晴れると、俺の前には1人の男が立っていた。髭を無造作に生やしており、まるで浮浪者のような見た目と服装をしている。左目は血のように真っ赤に染まっていた。奴の口調からして、俺がわざと攻撃を喰らったことに気づいてないみたいだ。面白そうだから黙っておくか。


「誰だ」

「俺は六神王候補にして、次期六神王のリーダーとなる男、アルコーン。カーリー様の命により、お前を殺しに来た。お前の首を手土産に、俺は六神王の称号を得て、プロメテウスどものようなゴミとは次元が違うことを思い知らせてやるのさ」

「六神王候補か。新しい力と剣の切れ味を試すには絶好の相手だな」

「くけけけけ! まるで自分が格上だというような言い方だな。馬鹿な男だ。俺の強さはヴァーユの3倍以上。貴様ごときに勝ち目はないのだよ。くけけけけけ!」


 こんなのがあの空気男の3倍以上。明らかに自分の実力を見誤ってるな。それにさっきから感じる妙な視線、数は3人、恐らく六神王だな。奴を捨て駒にして俺の実力を見ようといったところか。情報を与えないようにするためにも、色々考えて戦わないと。

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