第83話 いざお茶会会場へ!
あれから2週間がたった。俺はひたすらクロノスと鍛錬を続け、自身の実力を磨き続けた。少しは実力が上がったとは思うが、クロノス曰く
「アリアの方はよく分かりませんが、ピエロ仮面と互角に戦ってたという話からして、同格の実力者とみて良いでしょうね。カイツ様も2週間の鍛錬にしてはかなり強くなりましたが、あいつらとまともに戦えば即死は免れないでしょう」
とのことらしい。自分の弱さが嫌になって来るな。アリアはあんなにも強くなったのに、俺はあいつの足下にすら追い付けずにいる。だが、めげたりふてくされたりしてる暇はない。アリアを取り戻すために出来ることは、強くなることだけだ。
お茶会の開催当日。俺はダレス、ウル、ラルカと共に馬車に乗り、ヘカトンケイルへと向かっていた。ワルキューレ家からの招待状には地図も同封されており、その地図に従って向かっている。地図は行き先を示すように赤い矢印が浮かんでおり、その通りに進んでいた。ダレスは嬉しそうにしているが、ラルカは完全にぐったりとしている。
「なんかラルカがえらく疲れてるが、何をしてたんだ?」
「聞いてくれ右腕。この牛女のせいで大変だったのだあ。毎日朝から作法のレッスンばかりでしんどかったのだあ」
「誰が牛女よ。貴方たちの覚えが悪すぎるからそんなことになったんでしょうが。全く」
「私は面白かったけどね。指導を必死に学び、それを活かすというのも中々に楽しかったよ」
どうやらダレスたちの方も色々と大変だったようだ。にしても、随分と外の景色が暗くなっているな。
「暗くなってるわ。ヘカトンケイルに近づいて来た証拠ね」
「確か、
「我は怖くて仕方ないのだ。なんでそんな所でお茶会しないといけないのだあ」
「十中八九、後ろめたい何かがあるからでしょうね。ワルキューレ家というのが何かは分からないけど、何かやばそうなことをしてるのはほぼ確実。私たちの任務はワルキューレのそれを暴くことでもある」
ワルキューレ家。ヴァルキュリア家の親戚。奴らはなんでお茶会なんてものを開催している。そもそもなぜヴァルハラ騎士団を招待した。謎が多いが、今は行くしかないな。
馬車はひたすら進み、やがて赤い森の中へと入っていった。昼間だというのに、日の光がほとんど差し込んでいないせいで夜の世界にいる気分だ。生物の気配は無く、静寂が森の中を満たしている。今は地図が行き先の矢印を示してるから何とかなってるが、地図無しでここを歩いたら間違いなく迷うだろうな。そう思ってると、ウルが話しかけて来た。
「カイツ。ここの森」
「ああ。かすかにではあるが、死臭があちこちに漂ってるな」
「死臭!? なんでそんなものが漂ってるのだ!」
「迷い込んだ人の死体だろうね。ふふふふ。2度と帰れないという噂が真実味を帯びてていいじゃないか。楽しみになってきたよ」
「相変わらずダレスはイカれてるわね。それより、見えて来たわよ」
馬車の前を見ると、城のような建物が見えて来た。その大きさは非常に大きく、建物だけでなく、庭の面積も広大だと分かる。全体的に白色に彩られており、この真っ赤な森の中ではかなりの場違い感を感じる。城の門は開けられており、中に入るように示唆する矢印がある。
「さて。一体なにが待ち構えてるのかしらね」
「少なくとも、良いものではないだろうな」
「良いものだよ。こういう嗜好を凝らす奴は楽しい奴と相場が決まってる」
「うううう。帰りたくなってきたのだあ」
城の中を進んでいくと、燕尾服姿の男が扉の前で待っていた。黒の髪に真っ白な仮面を着けており、人間味を感じない不気味な奴だ。
「ヴァルハラ騎士団ノース支部の方ですね。私はここの執事をしているケンタウロスと申します。馬車はそこに置いておいてください」
馬車を停めて降りると、奴が俺の方をちらりと見たかのように見えた。だが視線が見えないし、気のせいだったかもしれない。
「では。皆様を案内します」
彼が扉の先に進み、俺たちもそれについていく。扉の先は真っ白な廊下となっており、金色の豪華なシャンデリアがそこかしこにある。その他に小さな小棚もおかれており、骸骨や人間の手のようなアクセサリーなど不気味なものが置かれている。
「皆さまはここで待機してくださいませ」
彼がとある扉を開けて案内して中に入る。中も白一色の部屋であり、大きな金色のテーブルやソファーがいくつもある。そして、既に先客がおり、その先客は。
「へえ。カイツが来るとは思ってたけど、騎士団のメンバーもいるとは予想外だったよ」
先客はアリア・ケットシー。服は騎士団の頃の黒いコートやスカートは着ておらず、代わりに銀色のノースリーブシャツに黒の短パンを穿いている。四肢は白い毛がびっしりと生えており、鋭い爪も生やしている。目つきは鋭く、左目に青い炎が宿っていた。口の歯は牙と思えるほどに鋭くなっていて、白い尻尾も生えている。どうやら、完全にフェンリル族とやらの力を取り戻してるようだ。
「……アリア」
「そんな怖い顔しないでよ。今カイツや騎士団メンバーとやりあうつもりはないよ。せっかくのお茶会が楽しめないからね」
今やりあうつもりが無いのは助かるな。こんなところで、しかもダレスたちがいるところで戦うとなると大変なことになるだろうし。ウルはアリアを睨み付けており、今にも攻撃しそうだが。
「ずいぶん楽しそうにしてるわね。アリア」
「久しぶりだね。
「ずいぶんと下品な言葉使うようになったのね。昔の清楚な感じはどこに行ったのかしら?」
「さあ。どこに行ったんだろうね」
「……貴方は騎士団を離反した。もし戦うことになれば、私は容赦しないわよ」
「そうしてくれると助かるよ。雑魚が手加減しても面白くないしね」
「カイツ。あいつ今すぐ殺しにいって良いかしら?」
「やめとけ。お茶会どころじゃなくなる。それに分かってるんだろ? 今のあいつは次元が違う。即死するぞ」
へらへらとふざけた態度を取ってはいるが、全くと言っていいほどに隙が無い。下手に攻め込めばこっちが殺される。ウルもそれは理解してるようで、歯ぎしりしながらも攻め込むことはしない。
適当なソファーに座ると、ラルカが俺の隣に座った。
「右腕。あの毛がびっしり女は何者だ? 知り合いのようだが」
「アリア・ケットシー。元騎士団メンバーで、俺の大切な人だ」
「あれが!? なんか聞いてたのと随分雰囲気が違うが」
「……色々あったんだよ」
良くも悪くもな。おかげで大変なことになってばかりだが。ラルカは興味深そうにアリアを見つめていた
「ふむ。右腕とあれになにがあったかは分からないが、あの女、少し寂しそうにしてるな。まるで、心に穴が開いてるみたいだ」
「穴……か」
多分、その穴の原因は俺なんだろう。にしても、初対面であろうラルカでそこまで判断できるとはな。それほど分かりやすいのか、あるいはこいつの洞察力がずば抜けてるのか。そう思ってると、別の客人が現れた。
黒の和服メイド服を着ており、白いエプロンを着けている。黒い髪をおさげにして結んでいる。結び目は小さいな骸骨のアクセサリーだ。右が赤、左が金色の瞳をしていて綺麗な顔をしている。黒い布でぐるぐる巻きにされた何かを鎖で縛って引き連れている。それは不気味な威圧感を放っており、随分と気味が悪い。彼女は俺たちに会釈した。
「どうも。ケルーナと申します。以後お見知りおきを」
彼女はそう言った後、適当なソファーに座った。みょうちきりんな女を観察していると、ダレスが話しかけて来た。
「ふふふ。カイツも気になるんだね。あの女が」
「ああ。妙な物体引き連れてるし、あいつもただものではなさそうだからな」
「分かるよ。とっても強そうだよね。1度戦ってみたいものだ」
「いや。別に戦いたいわけではないんだが」
こいつは本当に戦うことしか頭にないんだな。分かっていたはずなのに、驚きを隠せない。ある意味純粋と言えるのかもしれない。
それからしばらくの間、俺はラルカやウル、ダレスと雑談しながら時間を過ごした。そうしてると、また扉から1人現れた。そいつは。
「お待たせした。ではこれから、お茶会会場に案内する」
ピエロの仮面を着けた女、イシスだった。俺は今すぐにでも攻撃したい気持ちを抑え、奴を睨み付ける。だが、奴はそれを意に介していないようで、俺たちを会場へ案内する。
「やっとかいな。待ちくたびれてもうたわあ」
「ふふ。さあてと。お茶会お茶会~♪」
ケルーナとアリアは楽しそうにしながらついていき、俺たちもそれについていく。廊下を進み、突き当りの扉まで来た。扉を開けたその先は巨大なリビングとなっており、そこには円型の机が置かれていた。席にはここのメイドらしきものが複数人。そして中央の方には。
「来ましたか。皆様とこうしてお茶会が出来る日を楽しみにしてましたよ」
「Yeah。可愛い子たちが沢山いるじゃねえか。眼福眼福だZE」
スーツ姿の茶髪の男。眼鏡をかけているが真面目な雰囲気は感じず、その眼光からは気味の悪いものを感じる。もう1人は水色の髪の男だ。白のパーカーを着ており、ちゃらそうな雰囲気を感じる。どちらの男にも共通して言えるのは、左目が血のように真っ赤に染まってるということだ。
「あいつらは」
「カイツ。あの男たちを知ってるのかしら?」
「スーツの男はプロメテウス。ヴァルキュリア家の1人だ。パーカーの男はペルセウス。同じくヴァルキュリア家の1人。まさかこんな所にいるとは思わなかったが」
「おや。そこにいるのはアダムじゃないか。いや、今はカイツだったな。相変わらず女を連れるのが好きなようだな」
「Pissed off。大してイケメンでもない劣等種が女侍らせてんのは、やっぱ苛つくNA」
「別に好きでもないし、侍らせてるつもりもないんだがな」
俺は近くにあった椅子に座る。ウルたちも俺の近くの椅子に座った。アリアとケルーナもそれと同時に椅子に座る。彼女たちは遠くの方の空いてる椅子に座っていた。
「さて。皆様集まりましたね。私はこのお茶会の主催者であるプロメテウスと申します。こちらのパーカーの男性はペルセウスです。では始めましょう。楽しい話と菓子集いし、素晴らしきお茶会の開催です」
「Yeah。楽しもうぜBaby!」
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