長閑が小さな家の中に侵入すると、そこは綺麗に手入れがされている緑色の芝生の上だった。(家の場所的には裏庭と言うことになるだろう)

 その小さな扉をくぐって入ってすぐの緑色の芝生の上には、長閑のよく知っているものが一つ、ぽつんと孤独に落ちていた。

 それは素直くんがいつも持ち歩いている『動物図鑑』だった。(素直くんは動物が大好きだった)

 念のために拾ってみて、その本の裏表紙をみてみると、そこには確かに素直くんの手書きの文字で『綾瀬素直』と素直くんの名前がちゃんと書いてあった。(この動物図鑑を素直くんが落としたり、無くしたり、手放したりするわけがないと長閑は思った)

 ……素直くん。やっぱりこの家にいるんだ。

 その動物図鑑をぎゅっとその小さな胸で抱き締めるようにしながら、長閑は思う。

 ……待っててね、素直くん。

 今、私が素直くんのことを絶対に助け出して見せるからね。

 思わず少しだけ涙ぐんでしまった長閑は、その涙を服の袖で拭いながら、強い決意をする。

 それからもう一度、心を強くした長閑は行動を再開する。

 まず、目の前には家の中に入ることのできる大きな窓があった。

 その大きな窓のカーテンは閉まっていて、中の様子を見ることはできない。

 長閑は足音をたてないようにして、慎重に緑色の綺麗な芝生の上を歩きながら、その大きな窓に近づいてみる。

 そのまま長閑はその大きな窓が開いているかそっと自分の小さな手を使って確かめてみるが、開かない。(大きな窓の鍵は閉まっているようだった)

 その大きな窓から家の中に侵入することを諦めた長閑はそれ以外に家の中に入ることができる場所があるかどうか確認するために、家の周囲をぐるりと一周、観察しながら歩いてみることにした。

 その家は(やっぱり近くで見ても)どこにでもあるような普通の家だった。

 どこからも、なんの物音も話し声もしない家。

 家にある外から見えるすべての窓のカーテンは閉まっている。(留守のように思える)

 家の小さなガレージにはやっぱり小さな赤い車(可愛らしい、丸っこい形をした車だった)が一台止まったままになっている。

 家の正面には玄関がある。

 できれば玄関以外の場所からこっそりと家の中に忍び込みたいと思っている長閑はその玄関を軽く見ただけで、そのままその場所の前をさっと通り過ぎた。(玄関の前には外から中が見える門があったから、素早く動いて門の前を通り過ぎた)

 そのまま長閑は家の周りを回って元の小さな扉のある白い壁の前まで戻ってきた。

 家の中に入れるような場所はどこにもなかった。

 なので、仕方なく、長閑はもう一度、慎重に歩いて小さな家の玄関の前までやってきた。(どう考えても、ここ以外に家の中に入れるような場所はなかった)

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