第3話 残り100日 魔王、降臨する
黒い稲妻と共に、ハルヒは魔の山に降臨した。
あんぱんに木を生やしたような形の山のほぼ頂上付近、木々がなく拓けた丘の上だった。
周囲には石積みがある。ハルヒが現れた場所を中心に、石が積み上げられていた。
ハルヒがいた世界のストーンヘンジと呼ばれた場所に酷似していた。
石が並べられた周囲に奇妙な生物がいた。黒い稲妻に腰を抜かしたのか、一様に尻餅をついている。
緑色の貧相な小鬼に、豚ともイノシシともつかない獣の頭部をした、人間に似た生物もいる。頭部が犬や猫に似ている人間もいる。
全身どう見ても獣ではないかと思う者も多い。獣との違いは、背骨と頭蓋骨が接続される角度と、それによる腰の存在だろう。
中には、骸骨や腐った死体までまざっている。
「あ、あなた様は……」
ブルブルと震えながら尋ねたのは、杖を持ち、人間の干し首をアクセサリーにしたチンパンジーである。
「ハルヒ……いえ、違うわね……魔王よ」
「ま、魔王……魔王陛下のご降臨でござますな」
チンパンジーがくわと目を剥き、同時に、居並んだ奇妙な生物とも死体ともつかない者たちが、一斉にひれ伏した。
「あなたたちはなんなの?」
「我らは魔の山に住む者……人間たちには、魔物と呼ばれています」
「ふむ……人間というのは何?」
ハルヒは自分の体を見回した。
以前の世界と変わらない肢体に、変わらない服を着ていた。
つまり、人間そのものなのだ。ハルヒを魔王と認めた者たちが人間と呼ぶ存在とは、ハルヒが知る人間とは違うのだろうかと疑問を覚えた。
「平地に住む者たちです。愚かにも、穴を掘ることも木の枝に隠れることも思いつかず、石や木を組み上げて住処を作ります」
チンパンジーが笑った。笑ったのは人間の愚かさだ。周囲の魔物たちも笑う。
「私は……人間には見えない?」
「まさか。このような禍々しい人間などおりますまい」
「……そう。まあ、魔王を選択した時に、そういう演出を加えられたのかもね。ところで……私は魔王でしょ? お城はどこ?」
チンパンジーは首を傾げた。
「城ってなんですか?」
「嫌な予感がするわ。貴方達の住処は?」
「この山全体がそうです」
「うん……予感通りだわ。私は魔王よ。貴方達は私に仕えなさい。さもなければ、すぐに勇者が来て、あなたたちを皆殺しにするわ」
「ひっ……ゆ、勇者ですか? どうして、そんな恐ろしい者が……」
チンパンジーががたがたと震える。周囲の魔物たちも怯えているようだ。
ハルヒは見栄を切った。
「人間たちがこの魔の山を奪うために、勇者を召喚したのよ。貴方達を守るため、私はこの地に降臨した。死にたくなければ、私に従いなさい」
「ははぁ。魔王様、私たちをお助け下さい」
「よし。ではまず、城を作るわよ」
「……城とはってなんですか?」
議論が元に戻った。だが、無駄ではない。
「勇者が攻めて来た時に、戦うための場所よ。複雑な方がいいわ。だから、石を積み上げたり木を組み合わせたりして、大きく作る必要があるわね」
「では、まずはこの場に材料を集めます」
「うん。それがいいわ。では、早速取り掛かりなさい」
ハルヒは会えて堂々と立ち振る舞った。
もともと、魔王を選択したのは、多数の配下を従える立場への憧れがあったからでもある。
心配したほど怖い魔物たちではなかった。むしろ、可愛いと言えるほどに大人しい魔物たちだ。
だが、愛嬌のある態度と外見とは裏腹に、人間よりもはるかに強い力を持っていることを、城造りで示した。
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