第61話 優媛への謝罪

 優媛:「大変失礼なことを申し上げますが、“この程度の小娘なら臨時社員で充分だ”と思っていたのに、私がゴネたので“正社員”にしなきゃならなくなった、くそっ。

 て正直思ってますよね?」


 「え⁉︎」

 原口は虚を突かれたような顔をする。


 「あーこれは失礼!」

 そして少し笑って言う。


 原口:「誤解させる言い方をして申し訳ありません。

 説明がだいぶ不足していましたね。

 最初に“臨時社員で”と言ったのは、間中さん、あなたのためです。

 今回の件は、社内ではもう周知のこととなっています。戸を立てていても噂は広まりますからね。

 もし最初から正社員ということになれば、それこそ“盗作を盾に正社員にしてもらった”と、穿うがった見方をする人が必ずいます。

 その方がその後の活動がやりにくくなると思います。

 なので、最初は臨時社員の方がいいのではと思ったのですよ。

 それから、あなたの才能は、あのプロモーションビデオを見れば分かります。

 あの実力があれば、皆が納得する形で正社員になることができると考えたのです。」


 優媛は、さっきは少し心が揺れたが、だいぶ構えてこの席に臨んでいた最初の気持ちを取り直していた。なので、その言い訳を信用する気はない。


 原口:「正直申し上げて、このゲームが今頓挫すると、我が社は大変痛手となります。

 盗作ということで、契約違反となり、出資していただいてる会社への損害賠償も発生しかねません。

 さらに、このゲームとは違う物件の出資の引き上げもあり得る話です。

 噂が出れば会社の信用も無くしますし、それと天秤にかけると、間中さんが正社員だろうが何だろうが、お安い御用の条件です。

 なので、全く“くそっ”とは思いませんよ。」


 優媛:「そうであったとしても、やっぱり最初に“臨時社員”と言われたら、それで考えるしかないですよね。

 少しの間、考えさせてください。」


 イノマストの原口達は、残念そうに帰って行った。


 優媛は悩んだ。


 諦めていたゲームを作ることができる。それは嬉しい。

 でも、もう作ってある物の続きを作るということになる。


 リリースされたものをやってみたが、優媛が目指していたものと違っている。

 自分のだったけど、自分のではない。


 それを臨時社員という、今までと同じ不安定な雇用形態で、自分を受け入れてくれるか分からないメンバーと一緒にやっていくのだ。


 臨時社員だからといって、辞めることを前提にはしたくない。正社員になれる可能性があるならもちろん全力でやる。


 ただ、心に引っかかるのは、自分が断るとイノマストの会社に迷惑がかかることになるということだ。

 自分のせいじゃないはずなのに、自分がとっても悪いことをしてる気分になる。


 自分に決める権利があるようで、実は既定路線のようなものだ。


 引っかかりを飲み込んで、臨時社員となるか、全てを無しにして新たな会社を探して違うゲームを作っていくか…。

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